特定非営利活動法人精神医療サポートセンター

発達障害、統合失調症、アルコール依存症、ベンゾジアゼピン系薬剤の依存等々、精神科医療についての困りごとに対応いたします。

精神保健福祉法を改正せよ

2007年02月21日 | 看護論的経営論
先日からメディアに大きく取り沙汰されているぶるーくろす癒海館(介護施設)の問題。この問題は、そもそも入所者を手錠や檻で行動制限をしているという、元職員(介護福祉士)の通報によるものであったが、その経過から有料老人ホームとして届け出もされていなかったという事がわかり「どこまでを老人ホームとするか」などくだらない定義の水掛け論が世間で飛び交った。

ニュースによると、一人でも老人以外が(つまり若年の障害者等)が入所しておれば、それに該当しない。とか、一人でも老人が入所していれば老人ホームとして該当する。などという各施設によって違う見解が乱立している。この無届けの問題もみなおす必要があるが、ここではひとまず触れないとして、


ぶるーくろす癒海館の元職員(介護福祉士で今回の通報者)は、ニュースの取材で
「私は、介護のプロだ。」との意見の後、現場介護士の少ない人数の現実と手錠や檻での虐待が起こったことの問題を絡めて、興奮しながらも論理的に話していた。

プロであるから虐待を浦安市に通報したのだろうが、残念ながら、それ程の正義感がある方であれば、大概の施設のあり方に疑問を感じ、働くところほとんどで通告しなければならないだろう。もし、この介護福祉士が問題の多さや強弱で判断し通告しているのであれば、「私は介護のプロだ」との発言は認めがたい。介護場面であれば、多かれ少なかれ患者・入所者への暴言や身体拘束の問題、他にも、何らかの違法性が見られることが少なくない。だとすれば、その介護士は行った先の職場で全て違和感を感じ通報か、退職をせざるを得なくなる。これが、軽い問題だからと報告しないのであれば、そこには強い矛盾が生じる。おそらく、今後もその葛藤が続き、問題を打開できないまま現場で苦しむのではないだろうか。

檻や手錠だから通報したのか。
不必要と判断される行動制限であっても、規定の拘束帯をしようしていたケースならどうしていたのか。

私は、その判断基準に疑問を感じる。手錠であれ、規定の拘束帯であれ、患者自身は不当な行動制限を強いられているのであるから、そこを基準にしてはならないはずである。

また、ぶるーくろす癒海館の責任者代行はこのようにいう。
「バルーンカテーテルを挿入している人もおり、仕方なく拘束をした人もいる。」と

この責任者代行の人権意識の浅さには驚いたが、根本は、それを容認している日本の法律の不備が最もたる要因であろう。

浦安市のコメントも同様「不必要な拘束があったかどうか、調査する」という旨の発言。その基準を判断する方法すら明確にないうえでのこの発言には驚くばかりである。だいたい、今回の問題で、浦安市も国も、そしてメディアも着目する部分が、利用者の行動制限にかかわる法的な問題などではなく、施設の手続き上の問題で盛り上がるなど、行動制限に関する世間の認知度の低さが証明されたといえよう。

私は以前から、精神保健福祉法の矛盾を指摘している。この法律は、精神科病院にのみ適応であるかのような文言が盛り込まれており、行動制限、つまり、身体拘束や隔離に関しても精神保健指定医(基本的には)の診察と判断のもと必要性を判断して実施してもよいとされている。その時点で大きな矛盾が生じているのだが、精神科以外の病院では、その必要性は強要されておらず、同意書までにとどまっている。
精神科病院以外でも、精神疾患を有している患者は山ほどいるし、精神科病院以外で治療中にせん妄などが出現して身体拘束を余儀なくされる患者もいる。

そもそも、精神科病院と限定しているところに法の矛盾が生じているのであり、精神科病院にしかいない(ほとんど)精神保健指定医にその義務を負わせるというこの法律の解釈には必然的に限界が生じる。

今回のぶるーくろす癒海館の行動制限・虐待の問題は、手錠と檻での行動制限で外見的・ニュース的に目立つ材料となったため、クローズアップされたが、実際、不要な身体拘束や隔離による問題は、日本中の介護施設(もちろん一部であると信じている)や精神科病院、他科でも堂々とその違法性や矛盾をしらずに、「仕方ない」の一心で同行為が繰り返されているのではないだろうか。

さらに、精神科病院では、治療上の拘束であれば指示を必要としないなどという、都合のよい解釈で、暗黙の了解としてまかり通ってきた部分がある。
“治療上”ということばは、身体拘束・隔離においては、どのようにでも解釈できる危険な言葉であり、即刻厳罰に取りしまる法整備を整えるべきである。

今回の問題を機に、対象者の人権を守れる環境に整備しなおし、医療従事者の意識変革のきっかけとすべきである。


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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ナースマン)
2007-02-21 19:03:07
その方の通報の基準がなんにせよ、自身で「介護のプロ」とおっしゃってるのは別にかまわないんじゃないんですかね。

身体拘束について、介護福祉士という職種自体がどこまで認識があるのか、適応の可否のアセスメントができるものなのか、拘束という行動を起こしてよいものなのかどうかすらもわかりませんが…

あくまで「”介護の”プロ」なんですから。


俺も身体拘束について詳しくは知りません。
ただ、学生のときには「ベッド柵4本つけても拘束になるから同意書が必要」と、とある施設では習いました。
うちの病院では口頭のみで、同意書とったのみたことないですが…

俺自身、この辺の認識を曖昧にせず、もう一度再確認したほうがいいなってのを強く感じました。


ま、マスコミの報道ですから、1から10まで信用はできませんよね。
少なくともその施設は拘束が必要だからやっていたんだと思います。(推測です)
その必要性やら実際の拘束方法やらは、正確な事実関係がわからない以上、なんともいえませんよね。

少なくとも報道で「檻に入れられていた」・「手錠で拘束されていた」と聞いたら誰でも非常識だと感じ、”そりゃ通報するわ”と思うでしょうね。
返信する
Unknown (もっさん)
2007-02-21 19:44:00
>ナースマンさん
>その方の通報の基準がなんにせよ、自身で「介護の
>プロ」とおっしゃってるのは別にかまわないんじゃ
>ないんですかね。

その通りだと思います。

>身体拘束について、介護福祉士という職種自体がど
>こまで認識があるのか、適応の可否のアセスメント
>ができるものなのか、拘束という行動を起こしてよ
>いものなのかどうかすらもわかりませんが…
>あくまで「”介護の”プロ」なんですから。

先日もある方と話をしたのですが、精神科以外の医療従事者は、行動制限に関しての情報には非常に疎い。逆に、我々精神科に従事している看護師は、それ以外の情報に疎かったりする。この決定的な問題を根本的に解決していく必要はあると思います。
「介護のプロ」発言そのものは自由だと思います。しかし、私が言いたかったのは、その方がとられた行動が、あらゆる意味で自分自身を苦しめてしまうのではないかという部分から、述べさせていただきました。この点は、ナースマンさんもおわかりになられてると思います。


>俺も身体拘束について詳しくは知りません。
>ただ、学生のときには「ベッド柵4本つけても拘束
>になるから同意書が必要」と、とある施設では習い
>ました。
>うちの病院では口頭のみで、同意書とったのみたこ
>とないですが…

あくまでも同意書というものは、法的に定められたものではなく、訴訟問題になったときの防衛策と言えるでしょう。しかも、元気な方が自分でベッド柵を取り外せるという環境でしたら、同意書の必要性は全くないということも知っておいてください。

>俺自身、この辺の認識を曖昧にせず、もう一度再確
>認したほうがいいなってのを強く感じました。

現場の看護師を混乱させている原因は法律の矛盾にあります。法整備は迅速にすすめていかなければなりません。


>ま、マスコミの報道ですから、1から10まで信用
>はできませんよね。
>少なくともその施設は拘束が必要だからやっていた
>んだと思います。(推測です)
>その必要性やら実際の拘束方法やらは、正確な事実
>関係がわからない以上、なんともいえませんよね。

「拘束が必要だから実施する。」実はこの概念こそが危険だという事を理解してくだされば幸いです。どの精神科病院でも施設でも、実際転倒されては困るなど、実施している看護・介護者はそれぞれ自らの考えをもってしているもので、そのほとんどはおっしゃるように虐待などというものではありません。しかし、精神科病院で言えば、その様な理由があれど、明らかに法律にそむいた行為であることが言えますし、例えば、「転倒するから」などという理由などは、看護サイド、または、病院サイドがあらゆる工夫をすれば防げる場合が多いのです。拘束というものは、あくまでも、他の方法が見つからない一時的な方法論である事を忘れてはなりません。もちろん、実施するうえでは(精神科病院において)精神保健指定医が指示を出すことが大前提です。

>少なくとも報道で「檻に入れられていた」・「手錠
>で拘束されていた」と聞いたら誰でも非常識だと感
>じ、”そりゃ通報するわ”と思うでしょうね。

おっしゃるとおりです。TVを視聴されている方々がその様に思うことは普通でしょう。しかし、一医療従事者がその様に思っているとしたら少し問題かもしれませんね。

あー、しかし、水疱瘡の息子の子守で今日は疲れました^^
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Unknown (トシ)
2007-02-21 23:43:08
色々と考えさせられる内容でした。確かに矛盾点多いですね。特に精神科での治療上なら指示を必要としないの部分には強く共感を覚えます。残念ながら自分たちは拘束なくても安全に看護できますとは言いきれません。だからこそ、使用するときは慎重に行いたいです。
しょうがないですませない為の、看護の工夫・努力をしていきたいものです。言い訳かも知れませんが・・本心を言うと、過剰に高まりすぎた患者さんの権利にも左右されています。例えば、転倒防止の為だけに拘束されている患者様がいます。もちろん看護者が付き添えるときは介助して観察しますが・・・立てないのに立とうとし数歩歩こうとする。転倒すると看護者の責任、家族からの苦情となると、付き添いができないときの解除が進まないのです。
もし、打開策もしくは努力できる点あれば意見お願いします。
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Unknown (もっさん)
2007-02-22 21:31:43
>トシさん
お久しぶりです。

歩行状態が安定せず、うろうろし、転倒のリスクが常に高い患者さんのケースで考えてみたいと思います。

この場合、求められるのは、患者さんのQOLとその家族の意向ですよね。まずは、家族と話をして係わる事が大事だと思います。そこで、家族が、“拘束をするな”しかし、“転倒もさせるな”という家族であれば、当院では安全に入院生活を見守る事が出来ないということで、退院(転院)を勧めるのが妥当かと思います。
そこで、身体拘束は止むを得ないと認めてくださる家族がいたとしたらどうするか、です。家族はOKしたからといって、終日拘束するのも人権上問題がある。ならばどうするか。その患者さんに合わせた生活環境を提供する事だと私は思っています。
いくらかの病院では、マットに布団を敷いた部屋を準備したり、ベッド柵にクッションを付けたり、また、薬物の副作用的なものや、せん妄による無意味な徘徊などが原因と考えられる場合は、医師と相談して、薬物のコントロールをしてみるなど、方法は多種多様にあり、それらの組み合わせも無限大にあります。これらの方法を駆使すれば、ほとんどの問題が解決できるはずです。聞いているだけでは、無理だろうと思う方がほとんどなのですが、決して不可能な話ではありません。実際に、私も周囲の反対を受けながらそうやって取り組んできましたから。成功すれば、まわりもよい方向に雰囲気が変わってきます。
もちろん、やむを得ず拘束を実施する場合や、いわゆる点滴などの“治療上”の拘束という場合でも、精神保健指定医の指示は確実にもらう必要があります。
こちら側の都合のよい解釈のもと、指示をもらわずに事故がおきれば、問われるのは看護師である我々です。医師は、「そんな指示は出していない」といえばそれまでですからね。
ここで述べたのは一部の方法論にすぎません。一人の患者さんと見つめあって、その人にあった方法を試行錯誤することが大事です。方程式のようなものを求めてはなりません。看護は常に頭を柔軟にする事を意識しなければなりません。
色々逆風もあるでしょうが、まわりとはアサーティブコミュニケーションを意識して関わるよう意識してください。ここが、何かを導入するうえでの重要なポイントになります。大変でしょうが、必ず実りはあります。
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Unknown (ron)
2007-02-23 11:14:12
まずは看護師、介護士の配置基準の見直しでしょう。
少ない職員で多くの利用者、患者を見なければならないとき、拘束は必然に行わざるをえません。
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Unknown (ナースマン)
2007-02-23 14:25:24
>「拘束が必要だから実施する。」実はこの概念こそが危険だという事を理解してくだされば幸いです。

まぁ確かに…
簡単にいうもんじゃないですよね。


俺はすこしこの記事に関して読み違えをしていたみたいです。
もう一度自分のコメントと、もっさんのレス、そして本文を読み直してわかりました。

ども変なレスつけてすんません…


子守お疲れ様です(^^)
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Unknown (もっさん)
2007-02-23 19:57:57
>ronさん
コメントありがとうございます。

>少ない職員で多くの利用者、患者を見なければなら
>ないとき、拘束は必然に行わざるをえません。そう
>ですね。

 ここで、私が言っていることを踏まえて、まず考えていただきたいのが、
拘束を“必然的に行わざるを得ない”ではなく、
拘束を行わざるを得ないとき、“法を遵守して実施できるかどうか”
を考えていただきたいのです。そう考えた場合、まずは法改正が重要であり、おっしゃるような看護師・介護士の配置基準は、それとは別に平衡して考えていく必要があるということです。
 看護基準の問題は、看護師の絶対数の問題もありますし、潜在看護師の発掘や、新たな看護師の育成も含めて複合的であり、とても重要なものである故、精神保健福祉法の法改正と並べて“どちらが”という問題ではないと考えられます。

ですが、看護基準の問題も気になるところではありますね。

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Unknown (もっさん)
2007-02-23 20:01:11
>ナースマンさん
いえいえ、お気になさらないでください^^
前回のコメントを拝見した時、正直、
「あぁ、ナースマンさんも現場で拘束で色々悩んでいるんだなぁ」と、
いつもには無い、ややきつめのコメントを拝見しながら思っておりました。

だいたい、看護師なんて、把握しておかなくてはならない分野が広すぎて、愚痴りたくなる事もありますけどね(笑)
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あの事件は・・・・ (精神科看護師)
2007-02-25 11:40:05
法律の危うさを露呈したような気がする。『拘束』に対する基準もいまのままでいいのだろうか??
 それとあの施設の入所者を中心に考えたケアが成立したのでしょうか!!経営者に甘さはなかったのでしょうか・・・。認識の甘さがあったのかも・・・
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Unknown (もっさん)
2007-02-25 18:59:03
>精神科看護師さん
 あれは、認識が甘いというよりも、ただの無知と無能でしょうね。
経営をする上では、特に医療関係では、利用者・患者の事が例えうわべだけでも、“やっていいこととわるいこと”“これをすれば、良い意味で注目される事”くらいの分別は付けられなくてはならないものです。
 まだまだ、看護・介護界も底上げの必要があるのかもしれませんね。
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