こんにちは。
今日は目的物の価格、支払い、相殺を取り上げます。
『目的物の価格』とは、説明するまでもなく、文字通り契約の当事者間で取引される目的物の価格であり、逆から言えば、内容が商品であれサービスであれ、目的物は契約を締結する根拠となるものなので、価格設定は契約事項の核となります。
公正な取引を期すため、発注者からの一方的で世間一般から見て明らかに低い価格設定による不当な買いたたき(※1)などを防止するため、契約書面作成の事前段階で当事者による協議のうえ、決定すべき事項です。
また上述の『買いたたき』は、受注者が下請法に該当する下請事業者(下請法 第2条8項)である場合、発注者による違反行為となります。
(※1)親事業者の遵守事項(買いたたき)⇒下請法 第4条1項5号
『支払い』とは、発注者の目的物の受領に対する受注者への代価の支払を指します。
支払に関する諸条件は、受注者が下請法に規定される下請事業者にあたる場合、以下の様な制約がります。
①支払期日⇒下請事業者の経営が不安定にならないようにするため、親父業者(発注者)と下請事業者(受注者)は、取引開始前に目的物の納入から60日以内という制限枠内で、できる限り早くの日に支払期日を決定することが義務付けられています。
②支払条件の書面による交付⇒親父業者(発注者)は、支払期日を書面化し、下請事業者(受注者)に交付しなければなりません。これは、取引基本契約書内の条項として支払条件を書面化することで事足ります。
『相殺』とは、互いに相手方に対して同種の債権を持っている場合に、その債権・債務を対当額において消滅させることを言います。(民法 第505条)
相殺を行う条件として、
①債権が対立していること
②債権が同種であること
③債権が弁済期にあること
④債権が有効に存在すること
⑤相殺を許す債権であること
の全てを満たす必要があり、その全条件を満たしており相殺可能の状態にあることを『相殺適状』と言います。
また相殺する側の債権を『自働債権』といい、相殺される側の債権を『受働債権』と呼びます。
よく使われる説明例として、「受注者が発注者に対して100万円の売掛金があり、発注者が受注者に対して50万円の売掛金債権をもっている場合、発注者または受注者の一方的な意思表示により対当額を消滅させることができる」…つまり受注者の売掛金(債権)50万円のみが残ることになります。
また、上記の民法に規定される相殺では、弁済期(取引基本契約書では、概ね発注者の代金支払期日のことを指します)の到来が条件の一つになっており、裏を返せば弁済期まで待たなければならないので、債権管理がおざなりになりがちなうえ、早めの債権回収ができません。
そこで、弁済期の到来の有無にかかわらず、契約の当事者間で対立する債権が発生した場合、いつでも相殺可能にできるという旨の条文を設けることがあります。
これを『相殺予約』と言います。
以下、【価格(単価)】、【支払い】、【相殺】の条文例を記載します。
【価格(単価)】
パターン①
『目的物の単価は、乙(受注者)から甲(発注者)に提出する見積書等に基づき、予め甲乙協議のうえ決定するものとする。
(2)目的物の単価には、書面による特別の定めがない限り、目的物の製造にかかる費用以外の荷造運賃費、積み降ろし費、契約の履行にかかる費用および保険料、その他一切の費用を含むものとする。
(3)単価決定の基礎となった目的物の数量、仕様、材料、納期、代金支払等の条件を止むなく契約期間中に変更しなければならないときは、乙は、直ちに甲に通知しなければならない。この場合単価その他の条件については、再度甲乙協議のうえ決定するものとする。』
⇒一つの基本契約書で取引される目的物(商品等)は必ずしも一種類とは限らず、大概の場合、多くの種類の目的物を包括的に取引対象に含もうとするので、目的物の内訳を記した見積書等を別途で作成する方が契約書自体は完結にまとまります。
ここで決定された単価設定が、基本契約締結後に開始される実際の個々の取引(個別契約)で、発注者により発行される注文書に記載されるべき価格の基準となります。
また、この条文の第2項は、『価格』条項の一つのキーポイントで、『民法 第485条』では、『弁済の費用について別段の意思表示がない時は、その費用は債務者の負担とする』とあります。
これは、例えば契約書内で「目的物の包装費や運送費などは発注者の負担とする」と規定されていない場合、原則として受注者の負担となることを意味しており、受注者側は注意しなければならない一文となります。
取引基本契約書内では、この『民法 第485条』は取引で発生した債務(『目的物の受渡し』と『代価の支払』)を対象としているため、収入印紙代などは契約自体に関することは従来どおりの契約当事者双方の負担となります。
パターン②
『甲(発注者)が乙(受注者)に対して販売する商品の品名、販売価格、仕入価格等の取引条件については、乙により作成され、甲乙協議のうえ決定された別途見積書のとおりとする。』
⇒更にギリギリまで文を削っています。
条文の内容が詳細であれば、その筋書き通り進めることを基本として、契約の当事者が予断をもたないためにある種わかり易くて良いのですが、まさに『職人』というような街の工場の社長さんなどには、小難しい内容を嫌う方もいらっしゃいますので…。
ただ、わかりやすいことは大事ですが、簡略化または抽象化すればするほど拡大解釈も可能になり、権利や責任の所在がぼやけることもあるので、この条項に限ったことではありませんが相手方との関係性を鑑みて最良の表現のチョイスが大切です。
【支払い】
パターン①
『目的物の支払期日、支払方法、有償支給原材料の決済等の条件は、甲乙別途協議の上、決定するものとする。』
⇒取引の交渉段階において支払い条件を別途定めることを想定した条文です。
つまり、契約書とは別で支払条件の合意書などが作成されることになります。
また、目的物によっては支払の条件を変えた方が合理的である場合もあるので、注文書ごとに明確に表示することもあります。
この場合は、基本契約書内に支払条件が記載されていても、同基本契約書内に「基本契約よりも個別契約が優先される旨」があれば、注文書に記載された支払条件が採用されることになります。
パターン②
『乙(受注者)は、目的物の代金について、毎月○日締め、翌月○日の条件で甲(発注者)に支払うものとする。但し、支払日が日曜、祭日、休日等である場合、その前日に支払うものとする。
(2)個別契約においては前項と異なる支払い条件を定めた場合、その支払い条件は当該個別契約に限り有効なものとする。
(3)乙は、甲より代金の支払いを受けた場合は、必ず領収証を甲に提出する。
(4)甲が乙に対し債権を有するときは、甲は当該債権と甲の乙に対する債務の対当額につき相殺することができる。』
⇒契約書面内で必要最低限の支払条件を提示した条文です。
個別契約や相殺に関する項目も含んだ簡潔なタイプです。
【相殺】
パターン①
『甲(発注者)は、目的物の代金支払時に乙(受注者)に対し債権を有する場合は、その対当額をもって相殺することができる。』
⇒もっともオーソドックスなタイプです。
ここで『民法 第506条(相殺の方法および効力)』を見てみると、
『相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件または期限を付することができない。
2.前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる』
とあります。
つまり、冒頭で説明した①から⑤の要件を満たしていることを前提とし、実際に相殺を行使するには上記の規定に則ることになります。
この様に法律によって定められた相殺を『法定相殺』と言いますが、この規定は任意であり、絶対にこの通りでなければならないというわけではありません。
そこで契約書内で相殺の予約などの条項を設けたりします。
この様に契約の当事者の合意による相殺を『相殺契約』と言います。
パターン②
『第○条の弁済期の到来、第○条の契約の解除による期限の利益の喪失、その他の事由によって乙(受注者)が甲(発注者)に対する債務を履行しなければならない場合には、甲は、乙に対し負担する債務と乙に対し有する債権とをその弁済期の到来にかかわらず、いつでも対当額において相殺できるものとする。』
⇒相殺予約込みの条項です。
以上、今回はここまで。
ではまた次回。
【ブログ内関連記事】
※当ブログのカテゴリー『取引基本契約書』をご参照下さい。
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失礼しました。そして、ありがとうございます。
正しくその通りです。誤字ですね。修正させて頂きます。
目ざとい友人には、誤字脱字を見た時に教えてもらえるようお願いしていたりするのですが、この様にご報告頂けると助かります。
ちなみに、そのうち『相殺』と『解除』と『期限の利益の喪失』との関係性など、機会があれば詳しく言及したいなぁとも思っていたりしますので、またご贔屓に。