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悟浄出立

2016年03月28日 22時14分45秒 | 
万城目学・著

表題作を含む5つの短編から成る、中国を舞台にしたの歴史小説。
『悟浄出立』だけは『西遊記』に題材を得ているので、時代小説とまとめていいかどうかは不明ですが。
帯に、なぜか「主役」になれない人へ、とあります。
うーん、なれないんじゃなくて別になりたくない人なんだけどな~。
…とかちょっとつっかかってみました。


ネタバレがありますのでご注意を。


『悟浄出立』
西遊記の沙悟浄を主人公に、傍観者脱却を図ります。
今語られる猪八戒の意外な過去…というかあまり西遊記知らない…。
仏の手の上で弄ばれる孫悟空とか、金角銀角とか、『ドラゴンボール』に飛び火しているイメージとかしかなかったのですが、詳しくなくても問題ないです。
八戒の言が奥深くて面白いです。
前向きになれる素敵な話でした。

『趙雲西航』
三国志より、劉備配下の趙雲が主人公となった、故郷にまつわる話。
成都攻略を前にした劉備に呼ばれた援軍が船団を組んで長江を遡っている。
大将は張飛なので、趙雲は副将くらいでしょうか?軍師の諸葛亮も一緒です。
特別事件は起きず、趙雲が胸の中のもやもやについて考えていきます。
50歳の老武将(当時だと。なにせ日本は邪馬台国の時代。人生五十年の信長より1500年以上も昔)が冷静に自分を見つめ直しています。
いくつであっても自己を省みるのは大事なのだな、と思いました。プラス客観視。
あと、そろそろ三国志読もう、とも。
なんだかんだ読んでないので。長くてややこしそうだと思うとなかなか手が出ず…。

『虞姫寂静』
今度は項羽と劉邦の時代に遡ります。
秦を滅ぼした項羽の寵姫・虞(ぐ)が主人公です。
高校の漢文でやりました。「虞や虞や、汝をいかんせん」
物語は「四面楚歌」の場面から始まります。
前の2つと打って変わって内容はドラマチックで情景が目に浮かぶよう。
一言で表すなら女のプライドでしょうか。
男に対する、自分達ばかりが主役だと思うなよ!?という気概と、愛する人に対しての、自我をかけたプライドが感じられました。
項羽と虞美人のエピソードから成る映画『さらばわが愛/覇王別姫』を見なくては!という気分になります。更に言うと本物の京劇の方も見たい!

『法家孤憤』
また少し時代を遡って、秦の始皇帝暗殺未遂事件です。
刺客の荊軻と同じケイカの名を持つ、始皇帝に仕える側の京科(さすがに実在の人物ではないでしょう)が、法治国家について考える話です。
法家の思想:まず法ありき、に目からウロコだった京科や、暗殺未遂現場での法の機能を自嘲する高官の視点が興味深いです。
『始皇帝暗殺』は高校時代に映画も見て本も読みましたが、あまりよく分かりませんでした。
同じく授業でやったのですが、その暗殺未遂事件の顛末を書いた『史記』の文章がそもそもよく分からない(内容が盛り上がりに欠けるというかお粗末なんだけど、たぶん史記が悪いわけではない)せいで、一番の見所のはずの暗殺の立ち回りが残念な出来になっているみたいです。なんでそこは忠実に再現したのでしょうね…。あと、姫の狙いが正しく理解できなかった。策を弄したら思わぬところで自分がつっかかったようでした。

『父司馬遷』
前述の『史記』を書いた歴史家・司馬遷の娘が主人公です。
書物と男兄弟しか眼中にない父に寂しさや憤りを感じながらも、屈辱的な刑に甘んじてまで生きることを選んだくせにウジウジしている父に喝を入れる話。
この話で、歴史書の大切さと脇役達の大切さを示すと同時に、この本に収録された5つの連作をひとまとめにする芯を筆者は示しています。たぶん。


というわけで、いつになく真面目な作品です。
よかったのだけど、軽妙な万城目節がもっとほしかった!というのが正直な感想です。

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