続・後宮物語<11>

2017-10-10 | ss(続・後宮物語)
※原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。苦手な方は閲覧ご注意ください。





「歌、かぁ・・・」

しばらく黙ってあたしを見ていた高彬は、呻くようにそう言うと(うーむ)と言う感じで腕を組んでしまった。

そのままの姿勢で目を瞑り、上を向いている。

お歌なんて公達の必須教養みたいなもので、有能花形公達である高彬にしてみたら、さしてハードルが高いこととは思えないんだけど・・・

なんて思う気持ちとは別に、あたしは高彬の腕を組む姿にドキマギしてしまった。

だって当然のこと、高彬は裸なわけで、腕を組むことで強調される腕や胸の筋肉が目について仕方ないんだもの!

逞し過ぎるわけでもないのに、でも、しっかりとしてる腕や胸。

武官だからちゃんと鍛えてるんだろうし、そこら辺の生っチョロイ公達とは違うのかも知れない。

こう言うのを<オトコの色気>と言うのかしら・・。

薄暗い部屋の中にある少しの灯りが上半身裸の高彬の身体に陰影を作ってて、今の今まで、この身体に組み敷かれたのか思うと、恥ずかしいような嬉しいような不思議な気持ちになってしまう。

結婚したと言う事は、高彬のこの身体はあたしのものだと思っていいと言う事なのかしら・・?

「・・・」

あたしは息を飲んで、一人で目をシロクロさせてしまった。

やだ、あたしったら<この身体はあたしのもの>だなんて、何、ハシタナイ事、考えてるんだろ。

自分の考えにびっくりしてしまう。

「・・歌は、実はそんなに得意じゃないんだよ」

一人であわあわしてたら、目を開けた高彬が言い、情けなさそうな顔であたしを見ている。

「え」

「今まで、瑠璃さんに歌を送らなかったのは、タイミングがなかったって言うのもあるんだけど、そもそも苦手でさ・・」

「そ、そうなの・・?公達って誰でも得意なのかと思ってたわ」

言いながら、そう言えばあたしも筝の琴が苦手だし、弟の融だって歌が得意と言う話は聞いたことがないし、そりゃあ人によるのかもね、なんて思う。

「じゃあ、いいわよ。前言撤回するわ。別にお歌は・・」

「いや、ちょっと待って」

またしても目を瞑り、思案することしばし。

高彬は少し恥ずかしそうにあたしの手を取ると

「九重の 霧に隠れし 撫子の 花にふたたび 逢ふぞうれしき」

囁くような声で歌を詠じた。

そうして、あたしの反応を窺うように心配そうな顔でじっとあたしを見てくる。

「・・・」

「やっぱり、変だったかな・・」

「ううん!」

あたしは大慌てで高彬の手を握り返した。

「素敵なお歌」

反応が遅れてしまったのは、あまりに嬉し過ぎたから。

九重とはズバリ宮中のことを指し、つまりこのお歌は

『宮中の霧に隠れて居なくなってしまった撫子の花に、こうして再び逢う事が出来て、本当に嬉しいですよ』

と言うお歌なのだ。

確かに凝ったお歌ではないのかも知れないけど、その分、ジンと胸に迫ってくるものがある。

───九重の 霧に隠れし 撫子の 花にふたたび 逢ふぞうれしき

心の中で反芻する。

逢ふぞうれしき、逢ふぞうれしき・・・・

何度も反芻してるうち、涙が滲んできてしまう。

「瑠璃さん?」

あたしの目の涙に気が付いた高彬が驚いた様に言い、顔を覗き込んできた。

「・・どうしたの」

あたしは頭を横に振った。

「・・素敵なお歌だから嬉しくて」

「・・・」

「あたしも、高彬にまた会えて本当に嬉しかったの・・」

「瑠璃さん」

次の瞬間、高彬に抱き寄せられていた。








<続>


瑠璃からのお歌のおねだり、高彬は素敵な歌で応えてあげました。

このお歌は、私が鈴夏さんにお願いして作っていただいたものです。お歌の意味も、鈴夏さんのを原文のまま使わせていただいております。

高彬らしい、ストレートで愛情たっぷりのお歌ですよね。

これまた鈴夏さんにお願いをして、このお歌の返歌を作っていただいておりますので、次回はそちらもどうぞお楽しみになさってください!

鈴夏さん、ありがとうございました。


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続・後宮物語<10>

2017-10-05 | ss(続・後宮物語)
※原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。苦手な方は閲覧ご注意ください。





身体を離した後も、高彬はずっと抱きしめてくれている。

「大丈夫?痛む?」

肩をさすらながられ聞かれ

「うん、少し・・。でも、大丈夫よ」

あたしは小さく頷いた。

無事、結婚出来たと言うことよりも、正直

(痛いのが終わった・・)

と言う気持ちの方が強い。

───ふぅ・・

またしても知らずに安堵の息が漏れてしまうと、肩をさする手に力が加わった。

「・・・ごめん」

「・・・」

痛い思いをさせたのが悪いと思っているのか、それとも強引な仕草が悪かったと思っているのか、謝りながら肩に接吻をしてくる。

「・・うん」

どんな方法を取ろうが、どのみち通らなければならない痛みだったことを思えば仕方ないわけだし、だから高彬が悪いわけではないんだろうけど───

それでも、無性に甘えたい気持ちになり、あたしは高彬の胸に顔を埋めた。

高彬って、人に<甘えたい>って気持ちを起こさせる人のような気がする。

あたしが特別にそう思うだけなのかも知れないけど。

今まで、父さまや小萩に我儘放題やってきたけど、それは<甘えたい>と言う気持ちとは少し違っていた。

人に対してこんな風に無条件に甘えたくなったのは初めてのことで、そして、それはなかなかに良いものである、と言うのが率直な感想だった。

太くはないけれどしっかりとした高彬の胸板は、甘えるのにもってこいだった。

頬をすり寄せてみると、高彬がいつも焚き染めている匂いがかすかにする。

でも、それよりも、少しの汗の匂いとか、肌から発せられる嗅いだことのない匂いの方が勝っていて、きっと、あたしはこの匂いが大好きになると言う予感がある。

予感と言うか、確信。

いつまでもくっついていたいような高彬の肌・・・

「瑠璃さん、そんなにくっついてられるとさ、その・・・」

「・・・」

「色々、マズイと言うか、ぼくにも事情があると言うか・・」

「・・・」

高彬の言わんとしていることがおぼろげながらわかり、あたしは慌てて身体を離した。

あの痛みの再来とか、ほんと、困る。

夜具から逃げ出そうかと、一瞬、真剣に思った途端

「いや。大丈夫だから。そこは規制する」

高彬に引き寄せられていた。

「それくらいの思いやりは持ち合わせてるつもりだから。・・多分」

自信なさそうに付け加えるので、ちょっと笑ってしまった。

あたしを抱く高彬の腕は力強く、単純だと思うけど、それだけで幸せになってしまう。

そのまま高彬の胸で目を閉じウトウトしかけたところで、あたしはふとあることに気が付き、ぱっちりと目を開けた。

「ねぇ、高彬」

「何だい、瑠璃さん」

「今、気が付いたんだけど」

「うん」

「あたし、今まで高彬に一度もお歌をもらったことがないわ」

「・・え?」

「お歌よ、お歌」

衾で胸を隠しながら身体を起こすと、釣られたように高彬も身体を起こした。

そうよ。

あたしたちって、ある意味、特殊な出会い方だったし、それにスピード婚だったから、世間一般の手順みたいなものを全部すっとばしてるんだもの。

高彬は、今をときめく花形公達の右近少将なんだし、きっと即興でお歌のひとつやふたつ、作れるに違いないわ。

「高彬。何か、お歌が欲しいわ」

じっと見ながら言うと、高彬は少しだけ目を開き、ものも言わずにあたしを見返してきた。








<続>


瑠璃からのお歌のおねだりに、どうする?右近少将高彬。ラストまでもう少しです。クリックで応援をお願いいたします。
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続・後宮物語<9>

2017-10-02 | ss(続・後宮物語)
※原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。苦手な方は閲覧ご注意ください。





「待って、待って・・」

身体を上にずらしながら繰り返し言うと

「う、うん、待つ、けど・・」

少し困ったように高彬が言い、上から心配そうにあたしを見てくる。

高彬を困らせたいわけじゃないんだけど、でも、痛いものは痛いんだもの・・・

「・・・もう、いいかな」

少しすると高彬が聞いてきて、あたしはまたしてもこっくりと頷いた。

高彬が少し身体を進めてきて、逃げる気はないんだけど、やっぱり身体が上に動いてしまう。

それを阻止するためなのか、高彬はあたしの肩を押さえてきた。

「あ・・」

逃げられなくなって、思わず声が出てしまうと

「ごめん、瑠璃さん。少しだけ我慢して」

高彬は確かめるように指先でその部分を触ると、身体を進めてくる。

それは今までよりも強引な仕草で、浮きそうになる腰まで抑え込まれてしまった。

「・・あ」

少しずつだけど確実に痛くなる感覚に、息が止まってしまう。

「イヤ・・、痛い・・、待って」

頭を振って言ってみたけど、もう高彬は待ってはくれず、それどころか更に身体を進めてくる。

結婚って───

こんなにも痛いものだったの?!

ようやく高彬の動きが止まり、知らずに安堵のため息が出てしまった。

身体を重ねたままの状態で高彬と目が合って───

「・・明日も明後日も、これをやらなきゃダメ・・?」

泣き言が、つい口をついてしまう。

「うん」

困ったようにも、笑いを堪えてるようにも見える顔で高彬が頷き、そうして接吻をしてくる。

「多分、痛いのは最初だけだと思うけど」

「高彬も痛いの?」

「え」

びっくりしたように高彬が目を見開き

「いや、ぼくは痛くないけど」

もごもごと言う。

「ズルい」

「・・・」

「高彬は痛くないなんて」

「イヤ。ズルいって言われても・・」

下からじぃっと見てやると

「ずっと大切にするから」

「・・・」

「ね」

額、頬、鼻の頭、と接吻をしてくる。

高彬はやっぱり優しい。

「・・・うん」

あたしはコクン、と頷いた。









<続>


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