伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.13ーアテネ・チュニス・奈良:世界の3つの古都を巡る、東西・南北文化の源流への旅
本年1月のアテネに続き、先月9月21日から10月5日まで、アフリカ大陸チュニジア共和国のバルドー国立美術館にて、「光と希望のみち」展が開催されました。
2016年5月にNY国連本部でスタートして以来、8カ国10箇所目の巡回先となり、主催は在チュニジア日本国大使館、チュニジア文化省、国立バルドー美術館、共催は日本カメラ財団、メディアアートリーグです。
本年1月のアテネに続き、先月9月21日から10月5日まで、アフリカ大陸チュニジア共和国のバルドー国立美術館にて、「光と希望のみち」展が開催されました。
2016年5月にNY国連本部でスタートして以来、8カ国10箇所目の巡回先となり、主催は在チュニジア日本国大使館、チュニジア文化省、国立バルドー美術館、共催は日本カメラ財団、メディアアートリーグです。
(チュニジア国立バルドー美術館「光と希望のみち」のバナー・写真は東大寺戒壇院多聞天立像[国宝、8世紀])
アテネでは、日希修好通商航海条約締結120周年記念事業キックオフ行事として、そしてチュニジアでは、在チュニジア日本国大使館開設50年を記念する催しとなりました。
これらの二つの式典は、展覧会のオープニングを兼ね、ストラスブールやリオ・デ・ジャネイロ、メキシコシティに引き続き、共催者ならびに作者として、スピーチをさせていただく大変名誉な機会を頂戴いたしました。
(チュニジア日本大使館開設50年を祝福するエラビディン文化大臣[右]と
ナイティギル館長のご挨拶を挟んでの、清水信介大使[壇上]のご挨拶)
カルタゴとユーラシアの接点 アテネでは、ギリシャから奈良までヘレニズム文化の伝搬の中に、東西文化の源流を辿ることで、すべてが一つであり、皆つながっていることを提示させていただきました。
そしてチュニジアでは、古代オリエント文明に遡る、カルタゴ帝国(前814年~前146年)とユーラシア大陸の文化遺産との接点をあぶり出す試みとなりました。
地中海世界において、クレタ文明(前20世紀~前14世紀)の後、ミケーネ文明(前16世紀~前12世紀)を受け継いだフェニキア文明(前1200年~前800年頃)がカルタゴ帝国として花開き、700年の間、海の交易で栄え、ギリシャ文化と混じり合いました。
アレクサンドロス大王によって、前326年以降、全オリエント地域が統一されると、エジプトからカルタゴ、メソポタミア、ペルシア、インドにいたる広大な地域で、ギリシャ文化と多文化が豊かに融合し合って、国際的なヘレニズム文化が生み出されました。
(バルドー美術館所蔵「笑み面」[前4~前3世紀]と春日大社所蔵「地久面」[国重要文化財、1185年]/
撮影協力:バルドー美術館・春日大社)
こうした歴史を紐解きながら、スピーチでも触れさせていただきましたが、カルタゴ帝国と日本文化をつなぐ接点があるとすれば、国立バルドー美術館所蔵のカルタゴの仮面かもしれません。同館の特別な許可を得て撮影させていただいた紀元前4~3世紀の陶製の笑み面、その魔を寄せ付けない爽やかな笑顔は、舞楽の地久面(春日大社蔵、重要文化財、1185年)との共通点が見出せます。
両者にはおよそ1500年の開きがあるものの、海のシルクロード諸国の王朝芸能の流れを汲む舞楽の中で、発祥が謎とされる地久面のルーツは、私見ながら、カルタゴにあるのかもしれないと思えるほどです。
(伊藤みろのスピーチの様子、2019年9月21日バルドー美術館「光と希望のみち」オープニングにて)
伎楽面・舞楽面のルーツを求めて またギリシャ国立考古学博物館蔵の伝アガメムノンの黄金マスク(前1550~1500年)には、遥か3500年前のミケーネ文明の栄華が偲ばれます。金・銀・銅・陶製の埋葬用の仮面は、生前の顔に似せたマスクを被せることで、不死の存在とする意図があったといわれます。
呪術や祭祀などの宗教的儀礼を中心に、仮面は不可知な世界と私たちをつなぐ変身の装具として、文化の中で表されてきましたが、それを演劇にまで高めたのは、古代のギリシャでした。紀元前2世紀の大理石製ギリシャ喜劇面は、広い意味で、伎楽面や舞楽面のルーツといえます。
(伝アガメムノンの黄金マスク[前1550~1500年]とギリシャ大理石製喜劇面[前2世紀]
撮影協力:アテネ国立考古学博物館)
当日は、チュニジア国営TV局(第一チャンネル)から取材をいただきました。チュニジアとギリシャ、そして日本に共通する類似点を辿り、写真作品として見せることで、私たちの文化の源流もひとつであり、そのことから東西・南北を貫く連帯の心を訴えることができたとしたら、本望に存じます。
(チュニジア国営TVの記者との記念撮影)
奈良まほろば館の講演会
さて10月13日(日)には、東京日本橋三越前にある「奈良まほろば館」で講演会を行い、「正倉院展を前に~ヘレニズム文化と奈良」について語らせていただきます(午前11:00~12:30分・午後13:30~15:00)。
その際には、中央アジアにおける仏像の起源を探りながら、その伝搬ルートと奈良の仏像に残されたヘレニズム文化の影響について、ギリシャやチュニジア、ウズベキスタンやパキスタン等を取材した成果をもとに、私見を述べさせていただきたいと存じます。
ご興味のある方は、ご拝聴いただきたく、以下のURLをご参照くださいませ。
https://www.mahoroba-kan.jp/course.html
(東京「奈良まほろば館」での講演会「ヘレニズム文化と奈良 正倉院展を前にして」
10月13日11:00〜12:30&13:30〜15:00)
奈良シルクロードシンポジウムと「光と希望のみち」里帰り展 また10月19日(土)には、奈良県・文化庁・国土交通省の主催にて「2019 奈良シルクロードシンポジウム」が、平城宮跡歴史公園・平城宮いざない館にて開催されます(13:30~16:30)。
基調講演は、奈良国立博物館・松本伸之館長が「シルクロード文化の結晶 奈良」についてお話をされるほか、本年1月の「光と希望のみち」展の会場となったギリシャ国立ビザンチン・キリスト教博物館より、ゲスト講演者が来日されます。ペリアンドロス・エピトロパキス展示・交流・教育部長&エフィ・メラムヴィリオタキ東アジアコレクション学芸員のお二人が、ギリシャ側から、シルクロードとヘレニズムおよびビザンチン文化の旅について、お話をされます。
私はパネリストとして、第二部に参加いたします。
また同時開催で世界巡回展「光と希望のみち」の里帰り展を、同館で開催いたします(11月4日まで)。
さらにシンポジウム終了後は、これまで海外で披瀝してきた「伎楽バレエ」(踊り手:春双、芸術監督:伊藤みろ)を、公式での国内初の演舞予定です。 ご参加いただける場合は、下記URLにてお申し込みくださいませ。
(「奈良シルクロードシンポジウム2019」10月19日開催予定)
☆☆☆☆☆
本年度は、古代ミケーネ文明の発祥の地であるギリシャから、古代フェニキア文明を継承する旧カルタゴ帝国のチュニジアまで「光と希望のみち」の思いをつなげることができ、大変素晴らしい体験ができました。
ビザンチン・キリスト教博物館、バルドー国立美術館、在ギリシャ日本国大使館、在チュニジア日本国大使館をはじめ、主催・共催およびご後援をいただいた各団体、東大寺、春日大社、奈良博物館、アテネ国立考古学博物館をはじめ、撮影のご協力をいただいた皆様に、心から厚く御礼を申し上げます。
これからも世界各地で世界巡回展「光と希望のみち」を通して、ライフワークとして、奈良を中心にシルクロードの遺産を受け継ぐ日本文化の1400年の深層、そしてそこから見えてくる未来への連帯と寛容へのメッセージを、発信させていただきたいと誓っております。
「光と希望のみち」は、これからも続きます。
ぜひご一緒くださいませ。
令和元年10月吉日
伊藤みろ メディアアートリーグ
Media Art League
East Meets West, North Meets South through “Media = Art + Message”
http://mediaartleague.org
Photo & Text by Miro Ito/Media Art League. All Rights Reserved.
(文中敬称略)
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