背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

姫の仰せのままに

2021年08月19日 18時09分04秒 | CJ二次創作
「いたいいたいいたい、いった〜い!痛いよう、ジョウ」
アルフィンはわめきながらジョウの首にしがみついた。
アルフィンをお姫様だっこしながら、ジョウは完全におたついている。
店から車寄せまで、ほんのわずかの道のりなのに、アルフィンが喚き散らすたびに立ち止まっては宥めるので全然進まない。
アルフィンの右足首には湿布と包帯が巻かれている。店のスタッフが応急処置してくれたものだ。
「ア、アルフィン。頼むから暴れないでくれ。危ない」
「だって痛いんだもの!」
まるで怪我したことが、ジョウのせいででもあるかのように、食って掛かる。
「う…….…」
見る見る間に碧眼に涙が盛り上がる。
ジョウは理由は何であれ、アルフィンに泣かれると弱い。たじたじになってしまう。
「うわあああん、ジョウにもらった靴、台無しになっちゃったよう」
アルフィンは知ってか知らずか、子供のように大泣きする。
「く、靴なんて、そんなのいいから。それより怪我がひどくなくてよかっただろ」
捻挫程度ですんでよかった。それぐらい、アルフィンは派手にすっころんだのだ。
クラブのフロア、ど真ん中で。
磨きぬかれた床に足を取られて。
一緒にいたジョウが、手を差し伸べる間もなく、アルフィンはいきなりすたーんとフロアに沈んだ。ぎゃあああという無残な悲鳴とともに、
見ると、ヒールが根元からぼっきり折れていた。
「く、屈辱だもん。太ったわけでもないのに、ヒールが折れるなんて、公の面前であんなカッコ悪いとこ晒してしかも捻挫なんてっ、恥ずかしくて死ぬううう」
ジョウの肩に顔をつけて獣じみた声を上げる。ジョウは服がアルフィンの涙で濡れるのを感じながら、
「たまたま床との相性が悪かったんだろ。不運なだけだ」
「ホントにそう思う?」
ジト目でジョウの目を間近で現き込む。
「もちろん」
ジョウは大げさほどあごを引いて見せた。
「じゃあじゃあ、ダメになったから、もう一足新しい靴、買ってくれる?」
「え.…」
あれ、デザイナーズブランドの今季の一点もの……なんだけど。
靴のものとは思えない高額な値札が、ちらとジョウの脳裏によぎる。
「その、ヒール修理とかじゃ、だめなのか?」
「もちろん直して履くけど。新しいのも欲しい。だめ??」
「だ、だめって」
「お願い~。ジョウ。一生のお願い」
「一生のお願いって、アルフィンにはいったい何べん人生があるんだよ。
~~わ、分かった。わかったよ。後で一緒に選びに行こう」
根負けしてジョウがつぶやく。
アルフィンは短く歓声を上げた。首っ玉にさらに強くかじりつく。
「ジョウ、大好き!  じゃあ明日ね、ショッピング行こうね、約束よ」
「はいはい。すべては姫様の仰せのままに、な」


「……どう思う? あれ」
二人の背後を、ヒールの折れた靴を持たされてついて来ていたリッキーがタロスに言った。
「どうって、なんだよ」
タロスは預けたキイを駐車場係から渡される。引き換え札と交換。
「兄貴ってばいいようにアルフィンにコントロールされちゃってさあ、みっともねえの」
「そうかねえ」
気のない相槌が返ってくる。予想外に。
「なんだよ、違うってのか」
「少なくともジョウはイヤがってないんだから、いいんじゃないのか、別に」
「嫌がってないって? まさかだろ。あんな無茶言われて」
「あれが嫌がってるような顔か?」
タロスがあごで指した先をリッキーが見る。
アルフィンを丁重に抱きかかえるジョウの姿がそこにある。
後ろからはジョウの横顔しか見えない。見えないけれど……。
「な? だからいいんだよ。あれはあれで」
したり顔のタロス。
「なんでえ、でれでれしちゃって、いつもアルフィンのことになると兄貴はああなんだからサ」
まるで自分が我儘放題言われたかのようにぶりぶりしているリッキー。
タロスは冷静に若い相棒に突っ込んだ。
「お前さんも、早えとこ我儘言ってもらえるのが嬉しいって女の子を見つけるこったな。スイーツより甘いぜ。他れた女の我儘てのはよ」
酸いも甘いも噛み分けた、大人の台詞。
渋いバリトンで言われ、リッキーはぼぼぼぼ、と頬が熱を帯びるのを感じた。
「……な、なんだよオ、それ!」
頬の赤みを悟られたくなくて、その場に立ち止まり、声を張り上げた。
「さあな、ほれ、行くぞ。姫のご機嫌を損ねる」
数歩先でタロスが立ち止まり、リッキーを手招きする。コイコイと。
「あ、待てよタロス。待てって」
4人で繰り出すと、クラブから引き上げる時も賑やかだ。
いつもの、変わらぬ光景。でもリッキーだけが一人「してやられた」の気分を味わった夜だった。

END

⇒pixiv安達 薫

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 夜空とヒマワリ | トップ | 君の弱さ(前編) »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (おすぎーな)
2021-08-20 11:15:09
投稿ありがとうございます😆
い~んですっ!←芸能人ネタ(笑)
A嬢のわがままに付き合えるのはJくんしか勝たんっ!(笑)
返信する
いいですか・笑 (あだち)
2021-08-20 17:32:09
私も可愛らしい女のコに我が儘言ってもらえるような甲斐性のある男に生まれ変わりたいです。堪んないと思いますよー
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

CJ二次創作」カテゴリの最新記事