背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

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2013年01月29日 01時56分55秒 | 雑感・雑記
※「My Valentine」オープニング※


 槙は柚木より二つ学年が下。
 柚木は春生まれで、槙は晩秋、いや、初冬といったほうがいい季節に生まれた。
 まもなく十一月。恋人として付き合うようになって、初めて柚木は彼氏の誕生日を迎えようとしている。


「なあ、誕生日のプレゼント、何がいい?」
 邪道な質問だと、分かってはいる。
本来、恋人なら、あれこれ相手の嗜好を鑑みて、デパートのメンズグッズ売り場を巡るとか、服飾関係のネットショップを探すとか、試行錯誤するべきだと。
 でも、柚木ははなから自分のセンスを疑っている。
 男物なんて、何を買えば喜んでもらえるのか皆目見当もつかない。
 だったら直接訊いた方が失敗がなくていい。槙に喜んでもらえるのが一番いい。
 槙は柚木に訊かれても、動じなかった。
むしろ、そろそろ尋ねられる頃合かと読んでいた風に「なんでもいいんですか」とさらりと返した。
 読まれているなあ、こちらの手の内をと悔しく思いつつ、
「あんた、こっちの給料額、知ってるよな? 範囲内な」
と言うと、んー、と顎に指の関節を当てて槙は考え込んだ。
「一番欲しいのは、ってかしたいのは、あんたと結婚することですけど」
 さくっとプロポーズ。
 彼はこの手の台詞を臆面もなく口にするので、柚木としては気が抜けない。ぽんと抜き身の刀を渡される想いだ。
 今までも複数回、槙から結婚を申し込まれている。いろんな場面で。
 が、明確な返事は保留にしたまま。それが多少後ろ暗い。
「……う、それは、いずれということで」
「分かってますよ。でも、異動の辞令出る前に、まとまっちまいましょうね」
 新婚なのに、遠距離は辛いですからと釘を刺す。
「……はい」
 意外と素直に頷く柚木を愛おしそうに眺めながら、さて、プレゼントですかと改めて考え直す。
「俺はしゃっちょこばったレストランで食事とか、そういうの、ぶっちゃけ苦手です。どちらかというと居酒屋とかが性に合う」
「知ってる」
「でもせっかく先輩からの申し出ですからねー。この権利を有効に使わない手はないな」
 柚木は眉をひそめた。
「みみっちいことを言うな。これから先、毎年お互い祝うんだぞ。せこせこするな」
「ふうん。毎年、ね」
 にやにやと人の悪い笑みが槙の口元に浮かぶ。
「な、なに」
 からかいの種を蒔いたかと警戒の色を見せる柚木。
「いや、先輩、割と可愛いですよね」
 それって俺たちが一生一緒ってことだと解釈していいんすよねと、あからさまに喜色を浮かべる。
「上から目線で言うな。締めんぞ」
 真っ赤になって恫喝するも、惚れた男の前だと迫力も半減。しかも照れ隠しだとばればれの場合はさらに四分の一。
 それでも昔取った杵柄。柚木は槙の腕を拳固ではたいた。
「てて、もう、殴ってるじゃないですか締める前に。ったく、粗暴なのは直りませんね」
「ほっとけ」
「冗談はさておき。リクエストしていいですか。欲しいもの、思い浮かびました」
「あたしがあげられる範囲内のものなんだろうな」
 少々柚木は懐疑的だ。緊張を覗かせる彼女に鷹揚に笑って見せて、槙がうなずく。
「もちろんです。先輩、耳を貸して」
「え? こう」
 そうです。とひそひそ話の要領で、槙が柚木の耳に口を寄せた。手で話を隠すように、そこに言葉を置いてやると、みるみる柚木の顔つきが変わる。うなじまで朱に染めて、がたんと音を立ててイスから立ち上がる。
 狼狽した。
「無理無理無理! そんなの、絶対無理だ!」
「だいじょうぶ。先輩ならできますって。てか、先輩にしかできないでしょ」
「そんなの、恥ずかしくて舌噛んで死んでしまう展開だろう! よく考え付くな。一体どういう思考回路してんだ」
「案ずるより生むが易しってね。まあ、俺の勝手なリクですから、参考程度でもいいですよ。でも、それがプレゼントなら、死ぬほどうれしいです。俺」
 柚木は唇を引き結んだ。ぐ、とくぐもった声がその隙間から漏れる。
「ずるい、お前。そんな風に言ったら、断れないの、分かってて」
 不貞腐れた顔で、視線を逸らす。
 そんな柚木を槙は宥めた。
「すみません。でも、一年にいっぺんのことだから、それくらいの我侭は言ってみてもいいでしょう?」
 ね? と極悪な笑み。
 操られてる、絶対、こいつに操られてる。そう臍を噛みつつ、柚木は頭の中ですでに白旗を掲げてみせるのだった。


 槙の誕生日は平日だった。
 日中は淡々と職務をこなし、いつもどおり仕事に専念。でも、二人はこの日だけは定時で切り上げ、残業はなし。
 別々に官舎に帰り、それぞれ身支度を整えてから、柚木が槙の部屋に向かう。棟が別なので、階段を上り下りするだけでも数分かかる。
帰宅途中、予約してあったケーキ屋で買った、ホールケーキを入れた保冷バックと、ちょっといいワインを片手に行く柚木だが、別に悪いことをしているわけではないのに、きょろきょろと左右を窺ってしまう。人目を忍び、階段を上がり、槙の部屋までたどり着く。
 両隣の人はまだ帰ってきている様子はない。
 チャイムにかけられた柚木の人差し指には、パールホワイトのマニキュアが載せられている。帰ってから大急ぎで塗ったから、ちょっといびつにはみ出している。
 ベースコートはしっかり塗ったんだけどな。やっぱり前の日、鑢をかけておけばよかった。後悔しても、時既に遅し。
 ピンポーンと、場違いなほど軽やかなチャイム音が指先でした。
 インターフォンでのいらえが返る前に、足音が近づいてきて、ロックが外されドアが開く。相手を確かめることもなく、槙の顔が開いたドアから覗いた。
「お帰り」
 いらっしゃい、ではなくこの台詞かよとこの部屋を訪れるたびに思う。その都度なんだか泣きたくなる。
 でも今日は緊張が勝って、「ただいま」の前に「これ」と先に手にしていたものを差し出した。
「誕生日、おめでとう」
 槙は上がり框でそれを受け取って、ひとまず柚木を中に促した。
「ありがとうございます。嬉しいです」
 そして、コートの襟をきゅっと立てて、それに顔を埋めている柚木の顔を覗き込んだ。
「先輩、着てきてくれてます?」
 訊かれて柚木はさらに鼻先を襟に沈めた。
「だって、あんたが……言うから」
槙は笑い、柚木を部屋に入れながら「楽しみです。自分の誕生日にイベント的なこと、小学生以来してもらってなかったですけど。久々にわくわくします」と声も弾んでいる。
対照的に、柚木の足取りは重い。
 リビングに入って、槙は柚木に向き直り、さあという感じで彼女を促した。
 柚木はトレンチコートの襟を依然掻きあわせたまま、上目で槙を窺った。
「……ほんとに脱ぐのか? これ」
 槙は穏やかに頷く。
「はい。っていうより、俺が脱がせてもいいですか?」
 答えを聞く前から、既に槙の手はトレンチコートの腰紐に向かっている。
 しゅる、とリボン結びを解きにかかる。大事な贈り物の包装リボンを解くように。慎重な手つきで。
抵抗する間もなく、コートの袷が左右に開かされた。慌てて柚木が胸元を覆うが、あかあかと照明に照らされた室内に、惜しげもなく水着姿のしなやかな肢体が現れる。
柚木はコートの下、白の、ホルターネックのビキニしか身に着けていなかった。足もとも裸足だ。
柚木のコートを腕にひっ掛け、槙は惚れ惚れと見つめる。
頭のてっぺんからつま先まで。
とてもじゃないけど柚木は顔を上げられない。恥ずかしすぎる。
柚木は彼の視線をおなかいっぱい浴びながら、最大級ふてた声で「もう、誕生日だからって、あんた、横暴なんだよ」と喚いてみせた。


プレゼントは、柚木先輩。あんたがいい。
ハワイに行ったとき、あのとき着てた水着、あれを着て誕生日、俺のうちに来てください。
あの水着、とても似合ってた。また着ているところ、見たいんです。
あと、ケーキ。丸くて白いケーキ。イチゴののったやつ。あれをください。男じゃ、買いにくくて。最近食ってないんですよ。
それでいいです。いや、あんたからもらえるんなら、それがいいです。


槙にリクエストを訊いておきながら、柚木は反発した。
あんたんちに行くのはやぶさかではないけど、水着、じゃなきゃだめなの?
だめです。言下に槙は言った。
じゃ、じゃあ行ってから着替えればいいんだよね? もって行けば。
それにも槙は首を横に振る。
だめ。コートの中に着てきてください。それ以外、カーディガンとかも羽織っちゃだめですよ?
コートを剥ぐのは俺の役目ですから。と付け加える。いや、役得かなと。
へ、変態っぽくないか、それ。思わず鼻白む柚木に、槙はさわやかという形容がぴったりな笑みを浮かべた。
恋人の水着姿を拝みたいってのは、男としてひどく健全な願望だと思いますけど? どこが変態なんですか。そう言って柚木の反論を封じ込める。
このあたり、一枚も二枚もうわ手な槙なのであった。

(続きは 春刊行予定の「My Valentine」にて coming soon)


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3 コメント

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首を長くして (たくねこ)
2013-01-29 14:55:39
いい子で待ってます!!!
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Unknown (まききょ)
2013-01-30 09:40:11
拍手もしましたが、こちらにも。
楽しみに待ってます(*≧∀≦*)
返信する
ありがとうございます (安達)
2013-02-02 06:29:56
>たくねこさん
お加減いかがですか? まだまだ寒い季節が続きます。お体ご自愛くださいね。なるべく早くお手元に届けられるよう頑張りますね。

>まききょさん
拍手コメントもありがとうございます。いつも応援して支えてくださって感謝しております。新刊もよろしくお願いしますv
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