背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

祈り

2022年06月12日 00時11分00秒 | CJ二次創作
「アルフィン、そろそろ晩飯に、」
とキッチンに顔を出したジョウ。振り向いたアルフィンの手元を見て言葉を切った。
「すまん。取り込み中か」
「ううん。支度はもうできてるの」
シンクに向かって薔薇の水切りをしながらアルフィンは言った。
「こっちやっちゃうからもう少し待てる?」
「待てるけど……。きれいだな、それ」
薄いピンク色の花弁。かすかにだがキッチンに薫る芳香。
瑞々しい薔薇。生花を目にすることは、ミネルバの中では、宇宙生活をしている毎日ではほとんどない。アルフィンの手元だけ、ぱっと春が訪れたようだった。
ジョウはアルフィンの隣まで行って、
「さっき立ち寄った港で買ったのか」
と訊いた。
「うん。急ぎだったけど、いちばん新鮮だったから」
けっこう日持ちしそうでしょと花瓶に生けた。花と花のバランスを整える。
「……もうそんなになるか」
声のトーンを落として、ジョウが言う。
アルフィンは黙って手を動かしたまま「うん」とうなずいた。
ジョウはアルフィンの後ろに立って、そっと腰に手を添える。
背後から抱き寄せて、金髪に鼻先を寄せた。
「ジョウ」
「ん」
「どうしたの? おなか減ってるの?」
くすっと笑みをこぼしてアルフィンが言った。
「うん。今夜は何だい?」
「港に立ち寄ったからね。お魚。たまにはお肉じゃないのもいいでしょ」
「いいね。――ガンビーノも、魚料理が得意だった。俺やリッキーの前で見事な手つきで捌いて見せてくれたよ。何度も」
「……そう」
アルフィンは、薔薇の花瓶を持ち上げた。肩越しにジョウに尋ねる。
「どう? こんな感じで」
「きれいだ。リビングが華やぐな」
ジョウはアルフィンを抱きしめる腕に力を籠める。花瓶を持つ腕に差しさわりのない程度に。
そして、
「アルフィン。ありがとうな」
と言った。
「何が?」
「毎年いつも花を用意して飾ってくれて。……忘れないでいてくれて、ありがとう」
アルフィンは毎年、ガンビーノの命日に花を絶やしたことがない。彼をピザンの一件で喪ってからというもの。
ミネルバのリビングの写真が飾ってあるところに、いま用意した薔薇を置くのだろう。
ガンビーノ自身は花になんか興味がなかったということは、アルフィンには打ち明けないでいた。花より団子を生きた人だったことは。
「お礼なんていいの。当たり前でしょう」
「……それでも」
ありがとう。繰り返したい言葉は飲み込んだ。ジョウの沈黙をしっかり受け止めるだけの時間をかけてから、アルフィンがしんみりした空気を変えるように笑顔で言った。
「これ飾ってくるわ。そうしたらご飯にするわね」
「ん。俺は恵まれてるな。ガンビーノの料理の腕はプロ級だし、アルフィンの飯も美味いし」
「ジョウはどっちが好き? あたしとガンビーノの料理」
不意に尋ねられ、ジョウは思わず言葉に詰まった。ガンビーノの手料理のおかげでジョウは大きくなった。でも、今食べ慣れているのはアルフィンの家庭料理だ。若干、彼女の生まれ故郷のピザンの風味の強い。
「そりゃあ、どっちも好きだよ」
結局無難な答えに収まる。
「ふうん、『どっちも』?」
「あ、いや、アルフィンの方かな。いくらでも食べられる。君のご飯なら」
アルフィンはたまらず声を上げて笑った。
「お上手ね。いいわ、今夜の盛り付け、奮発しちゃう」
ジョウの頬に軽くキスして、アルフィンは彼の腕から逃れ、花瓶を手にしたままリビングに向かう。
「待ってて。戻ってきたらご飯よ」
薔薇の花にも負けない鮮やかな笑顔を残して。
「――ん」



食事の前に、今夜はちゃんと祈ろう。ジョウはそう思った。タロスと、リッキーと、アルフィンと4人で。
普段は、祈りの言葉なんて口にしないのだけれど。柄ではないけれど。
それでも、今夜くらいは。ちゃんとな。
ミネルバの名コックの御霊がどうか安らかであるようにーー。

END
⇒pixiv安達 薫

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2 コメント

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私の妄想 (ゆうきママ)
2022-06-12 21:10:22
ガンビーノの高笑いが聞こえるようです。
きっと、
「(ユリア)姐さん、見たかい。
 すっかり胃袋を掴まれてしまって...」
と、あの世で会話してるよ。
新作、どうもありがとうございました。
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きっと姫は (あだち)
2022-06-15 05:12:06
ガンビーノだけでなく、ソニアの命日にも同じことをしているのではないかなーと思っています。
出自が高貴なのでそういうところを大切にするのではないかなと思って書きました。
読んでくださりありがとうございました。
返信する

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