MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

ザ・ロード

2010年07月14日 00時33分58秒 | 映画
たびたび書いているが、静かな映画が好きだ。

これはなにも映画に限ったことではなく、小説でも、絵画でも、なんでもいいのであるが、
とにかく、一定の距離感をもって、ある物事をあるがままに、慎ましやかに描いているものが好きなのだ。
逆に、これでもか、これでもか、と饒舌に訴えかけてくるものは概して胡散臭く感じてしまう。

先日、ピーター・ウィアー監督の“刑事ジョンブック目撃者”をDVDで見直した。
映画のラスト、主人公のハリソン・フォードとケリー・マクギリスの今生の別れを描くシーン。
はじめの脚本では、別れを惜しむ男女の会話が延々と交わされるはずだったが、監督はすべての台詞を削除し、静かに見つめあう男女のシーンのみを採用した。
見つめあう男女の交互のクローズアップのみで、監督は百凡の台詞の羅列では表現できない男女の悲哀を見事に描き出した。


時を同じくして、コーマック・マッカーシーのピュリツァー賞小説「ザ・ロード」を読了。
核戦争後(たぶん)の廃墟と化した世界を旅する父子の物語だ。
生きてゆくために時として人を殺めもする父と、“殺さないで”と懇願する穢れのない無垢な息子との静謐なやりとりが激しく胸を打つ。

そして、先日見たジョン・ヒルコート監督の「ザ・ロード」は、このコーマック・マッカーシーの小説を忠実に映画化したものである。小説の世界観が見事に再現されており、原作に負けずこちらも素晴らしい作品に仕上がっていた。

特に、父親役のヴィゴ・モーテンセンの演技が本当に素晴らしい。
この映画が原作の名を汚すことなく、高く評価されるなら、そのすべてはこのヴィゴ・モーテンセンに負っていると言っても過言ではない。

あえてラストには言及しないが、これほどまでに静けさに満ち、しかし強く心を揺さぶられるエンディングはめったにないのではないか。

原作も映画もおすすめである。
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