「ブ~ン、ブ~ン、ブブ~ン」
水を切るモーター音が響く尼崎センタープール駅前
冬に突入したとゆうのにまだ昼間はポカポカ暖かい
競艇場からぽつぽつと駅に向かって歩く人の中に混じってよれよれのキャップを被った白髪のおっちゃんが杖をついてテクテクと小気味よく歩いてくる
目の前を通り過ぎて振り返った
「兄ちゃん何やっとん」
タバコをずっとくわえたまま煙たそうな目でこっちを凝視している
「あっ仕事ですぅ」
「ほうか~、どっからきとん」
「大阪のミナミの近くですわ」
急に持っている杖を振りかざし目の前の市営住宅を差した
「ほうか~、あすこにボロッボロの住宅みえるやろ、あれな、もう耐久年数過ぎとんのに住んどる奴がおんねん、居座っとんねんな、あらあかんどぅ」
巻き舌で力のこもったおっちゃんはまだタバコをくわえたままだ
「ここは昔水辺で地盤がようないんや、雨がよけ降ってもし洪水みたいなったら下は水びたっしや、この辺のマンボール(マンホール)いっぱいなりよるわ」
「へぇ、そうなんすかぁ?台風とかきたら怖いっすね」
「そうですぅ、怖いんですわ。だからこの辺のマンションもなぁ銭持っとって頭のエエ奴は買わんど、地下にな、水が溜まりやすいんやな」
まだタバコをくわえたままにんまりとして、指で銭のマークを作り、チョンチョンと頭を指差した
「あっ、あれっ?」
何もいわずおっちゃんは駅に向かって歩きだしていた
2秒後振り返ってまた再会
「大阪の大正の方のな、地下に駅通すんもな、大変やったんやで、あの辺も川多いやろ?地下に水通っとるからユルくて難しんや。だから九条とかは路面に駅あるやろ?」
「あ、そうゆわれたらそうすね」
「あれなどないしてやるかゆたらな、ゴッツいパイプ突っ込んで一回凍らしてゴッツい掘削機で掘っていくんや…ものごっついんやどぉ」
杖を腕に挟んで、シケモクにもっかい火を点けたおっちゃんは目を輝かせて身振り手振り
熱が入ってきた
「そゆえばミナミゆたら今難波から桜川んとこで工事しとるやろ?」
「あっ、ずうっと工事しとる交差点ありますねぇ」
「そう、そこですぅ」
さっきから敬語をちょくちょく混ぜてくる
「あれなミナミからこちのアマの方まで電車通すんや」
「へぇ、知りませんでしたわ、こっちまで電車でこれるんやったら便利なりますわ」
「でもあすこ長いことやっとるやろ?阪神だけやったら金ないからな市かなんかも金出して税金も使とんねん。だからゆっくりやっとんねん、第三セクタや、第三セクタ。ほんで赤字出たらいつの間にかトップ変わっとるんや。ちんたら、ちんたらして、アイツらちんたらホイやで。あないにかかる訳ないんや、突貫工事して…(省略)」
リアルなゼネコンと政治のからみのおもろい講義を10分程してくれた
「へぇそうなんすかぁ、あっ?あれっ?」
おっちゃんはまた歩き出して3m先へ
背は低いがよく見るとガタイがいい、手もごっつかったおっちゃんはきっと地下鉄工事とかの仕事を長年していたんだろう
ずっとタバコをくわえたおっちゃんの去り際のそっけなさとごつい背中が、強い男を物語っていた
仕事に生きた男って感じですね。
通りすがりのおいちゃんにも愛されるさっこんさんの人柄もやっぱり素敵です。
さっこんさんセンタープーで何の仕事してるんすか?