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蟻の兵隊

2006年08月31日 20時35分58秒 | 事務局通信
 今話題になっている映画「蟻の兵隊」を渋谷のシアター・イメージフォーラムで観た。ドキュメンタリー映画である。私も知らなかったが第2次大戦の終戦後中国で終戦を迎えた奥村和一さんらの部隊が、戦争が終わったにもかかわらず上官の命令で山西省に残され、蒋介石軍の兵士として毛沢東の共産軍と戦うことになる。2600名が残され。550名が死亡し、捕虜となり敗戦から9年後にようやく返される。
 ところが戻った日本では「逃亡兵」扱いされ、軍人恩給も出ない。上官の命令で残ったのに、命令した上官はさっさと帰国し、おまけに「彼らは勝手に残ったと」言い逃れて知らん顔をする。奥村さんらは裁判を起こす。そしてその証拠を探しに中国への旅に出る。
ドキュメンタリー映画「蟻の兵隊」はこの奥村さんの執念の旅を追ったものだ。

 私はこの映画を知らせる文章を読んでこれはぜひ観たいと思った。そういうことを知らなかった不明とともに、今なお何故と問い続ける気持ちを知りたいと思ったのだ。

 奥村さんは自ら中国人を殺したことを明らかにして、わびながらかつての戦闘の地を訪ね少しでも手がかりを知る人を探して歩く。その会話の中で、自らが帝国軍隊の軍人であった立場にたってしまうこともある。それを悔いながらまた歩き続ける。無念が晴れる証拠を求めて。しかし最高裁判所も上告を棄却する。

 今私はこの映画をどう受け止めればいいのか、いらだつような思いで困っている。それは映画が伝える事実を受け入れるかどうかというようなことではない。映画の説得力は確かで、中国に保管されている歴史資料は軍の命令だったことも蒋介石軍との取引であったことも白日にさらしていく。奥村さんの執念もよく解る。こんなに明白なのになぜ国は事実を事実として認めないのか。そのいいようのない怒りだけで歩き続けているのだろうと思う。
 しかしそういうことが多すぎるのだ。戦争という最大に理不尽な行為が生み出した一つの結果だが、弱者が全く虫けらのように放り出され、省みられない事実が多すぎる。残留孤児の問題しかり、戦後の謀略事件しかり、レッドパージと名誉回復の問題しかり、そういう翻弄された背中を見せられて、どう応えればいいのだろうか。

 国はひどい、裁判所もひどい、今日まだ生きているという当時を当事者たちの証言拒否、どうにもならない壁のような相手に向かって、ひたすら歩く背中だけを見せるドキュメンタリーは、もちろん結果もあるが、そういうことをしてしまった当時の軍指導部とそれを追認した国に謝らせて、遅ればせながら補償させるという結果もあるが、それ以前に、とにかくおかしいのだから、納得行くまで調べる、追求する、生きている限りそう生きるしかないのだよと言うのだろうか。

 しかし私は奥村さんはこの映画を撮ってもらうことで、事実を認めさせ補償させるという結果意外の多くの目的を果たせたのではないかとも思っている。弱者のたたかいというのはこんな風にしか構築できないのかもしれない。
 戦後60数年を経てまだ知られていないこんな事件があったことは衝撃だが、何百万もの人々を死地に追いやった戦争という不条理が無数の同じような衝撃的事件を引き起こし、いつも誰も責任をとらないで来た。どれほど白日にさらされても731部隊はなかった、南京事件はなかった、侵略戦争ではなかった、などと開き直る人たちはいるのだ。

 結局それぞれが関わることで、知り得た歴史の実相を伝え合うことをするしかないのだろうか。こういう映画を創り、多くの人に観てもらおうという人々のいることに感謝したいと思う。

 中国、落陽・西安公演から1年が過ぎた。様々な中国への旅があるが、旅はやはり心を通わせるものが良い。

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