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And This Is Not Elf Land

ステージからスクリーンへ(3)



映画「ジャージー・ボーイズ」

引き続き、舞台と映画を比較してみます。ネタばれしていますのでご注意ください



ステージからスクリーンへ(1)
ステージからスクリーンへ(2)

★金銭問題【内容を訂正しています】

映画では、4人がプロデューサーのボブ・クルー(以下、クルー)に出会って、仕事の契約をしますが、ボブ・ゴーディオ(以下、ボブ)は「事実上はバック・コーラスとしての契約だった」という内容のナレーションを入れます。舞台では「ドアからドアへ売り込みするよりはマシだったが…そんなに良くもなかった」と話すだけですが、契約の内容は観ている側が察するような感じです。

そして、映画では、4人がバック・コーラスの仕事が嫌でクルーとけんか別れをしますが、そのときにクルーはボブの持ってくる曲にこれといった魅力がないことと同時に、本人がお金に困っていることを伝えます。この「クルーがお金に困っている」ことの「告白」は舞台よりも早い。

映画でも舞台でも、クルーのもとを飛び出した4人は、仕事を探しますが、せっかく見つけたボーリング場で演奏する仕事も「トミーの過去の悪事」が原因でさせてもらえなくなります。落胆した4人が、「ある啓示」(笑)を受けて、グループ名を変えて心機一転、クルーの下で頑張る決意を伝えに行きますが、舞台では、ここで初めて自身が無一文状態であることを伝えます。

映画では、ずっと以前から、クルーは既にお金がない状態だったような話になっているのですが…この辺りはどうなのでしょう?(「事実」かどうかは別として、私はひたすら「話の流れ」を問題にしていますので、よろしく~笑)デビューさせる資金力もないのに、本人たちが不本意な仕事だと思っているバック・コーラスをさせる…ちょっと冷たい人ですよね(笑)

確かに、舞台では「いつクルーはお金がなくなったのか?」は、ハッキリさせていません。ただ、バック・コーラスの件で4人と衝突したときは、観ている側の印象としては「4人が、クルーの求めるレベルにはまだ達していないのだろう」と思わせます。まさか、お金がなくてレコード・デビューさせられないなんて思えません…また、舞台では、その後ボブが印刷工場で働いていたエピソードも話したりしますので、4人は相当の期間クルーと連絡を取っていなくて、その間にクルーの金銭問題が起きたような印象を受けますし、私もずっとそうだと思っていました。

そこで、舞台でも映画でも、トミーは高利貸しから大金を借ります。

ところが、そのあとが舞台と映画で大きな違いのあるところなのです!!

舞台では、トミーがお金を用意してくるも、今度はクルーは「金銭問題は解決したわ。父が助けてくれたの。父は私を愛しているのよ!」と言って、トミーのお金に手をつけません。(話はそれますが、性的志向のマイノリティーを思わせるクルーが、父との関係が良好なことに言及しているのも、60年代の話であることを考えてみても、興味深い台詞)そしてトミーは「俺が用意してきた金が要らないなんて、なめんな!」と激高し…そして、そのお金をポケットにしまいこみます。このシーン…誰もトミーがそのお金をそのまま返しに行くとは思いません。きっと、ギャンブルなどで使ってしまうんだろう…というのは容易に想像できるのです。

ところが、映画では、トミーが借りてきたお金を使うのですよね。また、話は前後しますが…映画では、ボーリング場での仕事を断られてすぐにお金を用立てていることから、トミーが自分の悪事が原因で仕事がもらえなかったことに対して責任を取っているようにも見えます。実際、舞台では、ボーリング場の仕事を断られたことについて、誰もトミーを責めないのがちょっと不思議な感じを受けるのですが…(それだけ怖れられていたのでしょうが)

いずれにしても、映画では、トミーがお金を用立てて来なければSherryはレコーディングできなかったことになっています。これは、かなり「トミー寄り」の解釈になっていると言わねばなりません。



★ボブとニック

フランキーが、「トミーのこしらえた莫大な借金を自分が責任を持って返す」と宣言したとき、映画では、ボブとフランキーが表情でやり取りしているのが見えて面白い。明らかに、この二人は、この件について、事前に話を決めていたのだろうと伺わせます。このとき、もうすでにニックは蚊帳の外…映画では、はっきりしてます。二人でニックがどう出るか見守っていたのでしょうが、彼が「グループをやめる」と言い出すのは、ほぼ予想通りでもあったように見えました。

ここで、ボブが、冷徹な表情で「ツアー中なんだ。やめることは許さない」と言うのも、舞台とは違う印象で驚きました。舞台では、ここのシーンのボブは、頭は良くても修羅場は苦手(?)なお坊ちゃんのような感じでしょうか。映画では、音楽家としても大成功しているボブが、他のメンバーよりも身なりもよく、風格も漂わせていることにも感心。実質的に、グループのリーダーとして君臨している様子がうかがえます。舞台は、ほとんど衣装は変わらないし…こういうところは「想像」に任せられます…で、私は、今まで、そこは想像できていませんでした(汗)こういうところを明確に見せるのも映画なのですね。

舞台では、ボブは、ニックとも友情で結ばれていたと語るシーンがあるのですが、映画ではなくなっていますね。舞台では、ボブはニックから女性や車についての指南(?)を受けます。そして、ニックという人物が、生活のすべてにおいて、徹底的に自分のやり方にこだわるタイプだとボブの口から述べられます。映画では、例のパーティーのシーンで、舞台と同じく、ボブが「女性については、ニックの言ったとおりだった」と言うシーン以外は、特に二人のつながりを表す部分はありません。

ただ、ニックは物事にこだわるタイプだった…というのは、これは実際にそうだったようで、ある資料では「今の時代なら、あの強いこだわり方には診断名がついていただろう」とも述べられています。それを考えれば、映画では実際にシーンとして見せられる「ホテルの部屋のタオルの山」なんて、ニックには耐えがたいことだったに違いありません。単にトミーとの力関係に屈していたというだけではなく…でもまぁ、ニックの独特の精神面については映画でも表現しにくいでしょうし…あそこのシーンはトミー役のヴィンセント・ピアッツァの肉体美に目を奪われるシーンってことでいいでしょう!(キャッ)


★Sherryができたのは…

話は前後しますが…映画では、ボブが「本気でヒット曲を作るんだ!」と意気込むも、なかなか浮かんでこない。とりあえず、約束の時間に合わせて、ニュー・ジャージーの雑然とした下町をバスに乗ってフランキーの家に向かっているシーン。

ここ、お気づきになった方もいらっしゃったと思いますが…町の騒音の中で、かすかに聞こえる車のクラクションが「しぇえりぃ~~♪」の音色に聞こえませんか(!)(いや、聞こえますよ!)そして、ボブの顔色がさっと変わり、バスに揺られながら楽譜を書き始めるんですから。

この曲は、ボブ・ゴーディオが短時間で書き上げた曲であることは知られていますが、映画のここのシーンは本当に素晴らしい!こういうのも、映画ならでは…これが、天才作曲家なのですね…


(続)

コメント一覧

Elaine's
鳩サブロー様、

情報ありがとうございます。そういう事情とも合うようになっているのだとはじめて気づきました。

「ジャージー・ボーイズ」も好評ですが、フォー・シーズンズのCDセールスも上がっていることを望んでいます。やはり映画の浸透力は凄いですね。
鳩サブロー
「Sherry」までをずっと調べているのですが、大変な思い違いに気付きました。Goneからの「Bermuda」もVee-Jayからの「Sherry」も、レーベルと契約して録音したのではなく.クルーが自前で録音して売り込んだんですね。だから先に資金が必要だった訳です。大変失礼しました。
Elaine's
鳩サブロー様、ご家族リピート決定でしょうか。素晴らしいです。

そちらのコメントの件ですが、私も東京の試写で見ると、舞台とはセリフが違っているのに気づきました。舞台では、ボブが「一番素晴らしいミュージシャンをオーディションで選ぶんだ」と息巻いていますが、映画ではチャーリーとジョーの名前を言うだけでした{/face_ase2/

}ロレインも、舞台では明らかにチャーリーと言うのですが、映画では見ている人に馴染みのある人、ジョー・ぺシの名前に変わっていました。

ミュージカルは、もう完璧に理解されますよ本当に、今の盛り上がりが残っているうちに来日してほしいです!
鳩サブロー
http://tangodelic.tea-nifty.com/tangodelog/
今日、改めて劇場で家族3人で観ました。
観終わった後、全員、もう一度劇場で観たいという話になりました。こんなことは初めてです。

さて、クルーに「金を用意したら録音させてあげる」といわれた場面をまず確認しました。そんな話はやっぱりいくらでもあったのかな、という気にさせられました。うーむ。

ワクスマンとのRCAの話の部分は、RCAとの契約は実は過去のことなんだけど、それには触れずにぼかしたような印象でしたね。ハッタリかジョークかは微妙ですが。

私のブログの方に先日頂いたコメントにも、追加でお返事書いていますので、ご確認ください。

時系列との整合性が取れていないことによる突っ込みどころは数え切れないほどですが、それでも「作品」として見れば、傑作と言えると思いますね。

聞き取りが苦手でも、劇場で何回か観て、ブルーレイでも繰り返し観たら、ミュージカルを観てもなんとなく理解できるようになるでしょうか?
Elaine's
そうなんですね…情報ありがとうございます。
JERSEY BOYSは100パーセント作り話ともいえない…的な、微妙なネタも多いですね(笑)
鳩サブロー
http://tangodelic.tea-nifty.com/tangodelog/
ふむふむ。
フォー・ラヴァーズはRCAヴィクターに録音していましたから(1956年)、あながち間違いではないです。
Elaine's
鳩サブローさま、コメントありがとうございます!

「ジャージー・ボーイズ」のほうは、成功物語としての意味合いを出すことを重視して、話を単純化している部分が多いと思いますが、実際には彼らの音楽活動は非常に多様だったのですよね。個人的に興味深いのは、彼らの暮らしていたのがニュー・ジャージーの特殊な世界であったとはいえ、近くにショービジネスの都であるニューヨークがありましたし、音楽ビジネスというものが、日本の田舎に暮らす者が想像するよりは(笑)ずっと身近にある環境だったことです。

トミーがワクスマンから金を借りる時、舞台でも映画でも「RCAビクターと契約したんだ。そのうちにレコードも送るよ」なんて言っているんですが、あれは100パーセントトミーのハッタリだったということでいいのでしょうか?
鳩サブロー
http://tangodelic.tea-nifty.com/tangodelog/
おはようございます。さすがに場数を踏んでいる人は細かいですね、感心します。
ところで、舞台と映画の違いのほかにもう一つ、事実はどうだったかという話も少ししておきましょう。
「金銭問題」の話ですが、まず、バック・コーラスの仕事と、フォー・シーズンズ本体としての録音活動が、時間的に分断されている、ブランクがあるという印象はあまりありません。「Sherry」以後もバック・コーラスの仕事はいくつかこなしています。それと、フォー・シーズンズとして「Sherry」の前に不発に終わった「Bermuda/Spanish Lace」があること、さらにそれ以前、劇中でもニックの(正確ではありませんが)「俺たちにはいくつ名前があるんだ、どれが本当なんだ?」というような台詞があるように、バッキング仕事以外に自分たち自身でも様々な名前でリリースを繰り返して時期が長く続いていて、これらはバッキング仕事と平行しています。
それらのいくつかをリリースしていたTopixやPerriはクルーの個人レーベルなので、資金がないと立ち行かないでしょうが、「Bermuda」のGone、「Sherry」以降のVee-Jayはれっきとした会社で、アーティスト側にお金がないと出せないということはないはず。せいぜい契約金や印税をアドヴァンスしてもらって制作費用に当てる感じではないのかな、と思います。お金が必要とすれば、自分たちでプロモーション活動を行う場合でしょうが(「Can't Take My Eyes Off You」の時はレコード会社がまったく乗り気ではなかったために、実際にクルーやヴァリは自前のプロモーション・マンを雇っています)、これもあまり考えられない。ラジオDJへの賄賂、いわゆるペイオラも1959年に社会問題となった後ですし、この場合賄賂を渡すのは、アーティストではなくレコード会社でした。
私が思いっきり勘違いしているのかも知れませんが。
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