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「紫式部 愛の自立 光源氏・道長を栄光に導く」を読む

2024-05-19 15:23:17 | 

 

著者:石村きみ子
発行:国書刊行会 2023

 今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」を興味深く見ている。
 高校生のころから平安時代に関心があって、日本古典文学大系の「大鏡」や「栄花物語」を古書店で購入した。・・・がそのまま積読になって数十年経過した。大河ドラマを契機に「大鏡」を取り出してみたが、さすがに古文はなかなか敷居が高い。そこで講談社学術文庫の「大鏡 全現代語訳」を購入して読み始めた。「大鏡」には紫式部は出てこないので何か良い本はないかと本書を手に取った次第である。
 本書では、源氏物語のあらすじと道長、紫式部の現実での姿が交互に書き進められていて、源氏物語の全体像を時代背景の中ですこし理解できたかなと感じた。平安時代は、和歌が貴族の生活の重要な一部をなしており、物語の中でも現実世界でも和歌が重要な役割を演じている。小学生のころ、何の意味もわからず、小倉百人一首をいくつか覚えたものだが、その中の

 いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな

という歌はとくにスッと頭に入ってきたことを覚えている。その歌が興福寺から中宮彰子に桜の献上があり、通常取り入れ役は紫式部であったが、新参の伊勢大輔に譲り、その時詠んだものだと本書に記載があった。
 このようにこれまで断片的な知識として頭の中にあったものが、本書を読むことで相互につながり、当時の貴族に様子が大河ドラマの画面と相まってイメージ化されるように感じた。勝手なイメージかもしれないが。
 ドラマでは、道長が権力のトップに立ってしまったので権力闘争という意味での面白さはないが、これから紫式部の中宮彰子のサロンでの活躍が楽しみである。それにしても源氏物語54帖の帖名はなんという美しさであろうか。
 

 


「シルクロード全史(下)」 を読む

2024-05-19 14:38:01 | 

著者:ピーター・フランコパン
訳者:須川綾子
発行:河出書房新社 2020
原書名:The Silk Roads: A new history of the world

 (下)は、17世紀位からのオランダ、イギリスの台頭あたりから始まる。大英帝国の誕生、ロシアの中央アジアへの進出やさらにはペルシャ(イラン)、アフガニスタンを経てインドにまで覗う南下政策、それを警戒するイギリスとの確執。オスマントルコの弱体化に伴う、イギリスとフランスによる恣意的な中東分割、さらには、中東で発見された石油をめぐるイギリス、ロシア、第一次世界大戦を経てイギリスに代わり覇権国家となったアメリカなど各国のせめぎあい。そこでは、ペルシャのシャーなど中東各国の政治的指導者者が中東の一般市民のことなどお構いなく、先進各国の確執を利用して私腹を肥やしていく姿。先進各国にしても自分たちに利益をもたらす政治的指導者を利用しているだけであり、一般市民のことなど念頭にないことは同様である、等々がスピーディに描かれていく。
 さらには、第1次世界大戦後、ヒトラーが台頭し、中東進出を狙うドイツ、その後の第2次世界大戦に至る話、第2次世界大戦後は、イラン革命やソ連によるアフガニスタン侵攻、サダム・フセイン、オサマ・ビン・ラディンまで中東をめぐる出来事の数々が関連性をもって語られる。
 現在のイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への侵攻に見られるような大規模な軍事的衝突が起きているとき以外は、中東情勢について日本ではあまり報道されることもないので、火山の噴火のように忘れたころに突然起こるように(少なくとも私には)見える中東における軍事的衝突や事件が、過去百数十年以上にわたるイギリス、フランス、ロシア、アメリカなどの自国の利益しか考えない行動と深くむずびついていることが衝撃的であった。
 付け足しの感想であるが、ヒトラー・ドイツによるホロコーストの理由についての記述が興味深かった。第2次世界大戦でドイツにとって戦況が好ましくない状況に陥ったとき、もっとも深刻な問題は食料の不足だった。このため、収容所に集められたユダヤ人の大量殺人を行ったというのである。独ソ不可侵条約を一方的に破り、ソ連に侵攻したのもウクライナの肥沃な土地を手に入れるためだった。この話を読んで、出来事の背景には思想的な理由だけでなく現実的な理由があるのだと思った。また、ロシアのプーチンがウクライナをナチと呼んでいるのにはこうした背景があるのかと思った。
 いずれにしても第2次世界大戦後の状況は複雑に絡み合っているので、本書を再読する必要があると思った。