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帰ってきた みんなのハッテン場

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読切~奴等は反乱を知らない~ 1

2011-12-27 19:48:52 | 読切
はい、読みきれない読切です。
全部書けなかったので分けて追々上げることにします。すみません……m(_;)m
まあそんな前置きはどうでもいいと思いますのでそれでは……
























場所 出逗丹高校 北校舎3階 1―D教室
日時 10月8日 一三五二時(日本標準時)



老眼鏡をかけた白髪、初老の男性教師が教科書(高等学校第七版現代社会)を片手に教壇の上に立っていた。
昼食の満腹感に加え、窓から差し込んでくる西日の暖かさから、舟を漕いでいる私服姿の生徒がちらほらと見られる。金髪や、カラーコンタクトをつけている生徒もいるが、決して格好つけているわけではないことを付け加えておこう。
それに、この初老の教師は生徒の中で「寝ても怒られない」と認識されていた。言い方は悪いがナメられているのである。
平和。
平和そのものだ。
なんら変わらない、日本の平和。日本を取り巻く漠然とした平和。
特に咎める様子もなく―なぜならこの老年教師は寝ている奴は放っておけばいいという考えだからである―初老の教師は時折板書を入れつつ、授業を続ける。

「―――えー、2029年に発生しました―皆さんもよくご存知だとは思います―東海大地震は、予測できる大型地震といわれていましたが、その被害までは予測できなかったようですね。
地震自体も2011年、3・11の東日本大震災と匹敵するものでした。それにしても……日本の家屋っていうのは強いですよねぇ……。外国とかの例を見てみると、地震だけで殆どの建物が崩れちゃいますからねぇ……。
でも、日本の場合、一番怖いのは地震自体じゃなくてその地震で起きる災害なんですよねぇ……。
阪神淡路は火災、3・11は津波による被害が甚大だったのですが、東海大地震はなんといっても富士山の噴火が致命的でしたね。
私は今でも鮮明に覚えていますよ。そんときはね、私は37でね。もうね、こう……ぐぁぁーっ……って揺れてね。
その時も私はここに務めていたのですが、自分の机の書類とかパソコンとか全部落ちちゃってね。ぐっちゃぐっちゃになって片付けをするのが大変でしたねぇ……。
家に帰ってテレビで噴火の様子を見たのですが……これが今、日本で起こっていることだとは思えませんでしたよ。マグマがね、火口からぶぁぁーっ……って吹き出してね。凄まじいスピードで流れ出ていくんですよ。
富士の樹海なんてなぎ倒されちゃって見る影もなくなってねぇ……。あっ、そうか。みんなは知らないか、富士の樹海。今の泰平山ですね。
さて、昔話はそのぐらいにしておきますか。このクラスは祝日が重なって授業が随分つぶれちゃったからね。他のクラスよりも遅れているんですよ。テスト範囲までたどり着けるか心配ですね。
で、幸か不幸か、その噴火のお陰でできた泰平山からある鉱山資源が取れるようにましました。
今も問題になっていますが、そうですね、グレイメタルです。こいつはですね、いわゆるレアメタルの一種なのですが、世界的な技術進歩でレアメタルが尽きかけていた時にこれが発掘されたものですから強力な外交カードとなり、日本の低迷していた経済は一気に回復して復興を成し得たわけなんですよ。俗にいう、第二次高度経済成長ですね。ええ。
ここまではよかった。
2035年、アメリカのある軍事会社が―――」


オーンオーンオーンオーン……


初老の教師の説明はけたましいサイレンで掻き消された。
机に突っ伏していた生徒も、そのやかましさに目を覚ました。
老年教師は口を半開きにしたまま、それから、ゆっくりと鼻で息を吐き、口を閉じる。
町のあちこちにあるスピーカーから、女性の声が聞こえてきた。

『フジ地区で第三級戦闘発令が出されました。住民の方は避難を開始してください。避難の地区は―――』

淡々と避難地区を告げていく。
その放送が終わってから程なくして、校内放送が流れた。

『えー、今の放送の通り、この一帯で戦闘発令が出されました。これより、放送の指示に従って避難を開始してください。繰り返します。フジ地区で―――』
              
教室内にいる生徒は驚き、怯えた様子も見せずに、「またかよ」などとうんざりして悪態をついていた。彼等にとってすれば、これは日常茶飯事なのである。              
「やれやれ」初老の教師は老眼鏡をはずして教卓の上に置くと、「日本語で」呟いた。

「嫌な世の中になったものだ」



                  #



場所 フジ地区上空 輸送ヘリ内
日時 同時刻



バレット・ロングマン二等軍曹は、狭く薄暗い中、しかめっ面でスクリーン上に映し出された明るくともっている映像・文字を閲覧していた。
肩まで届く金髪。端整な顔立ち。年齢は21。およそ兵隊の風貌だとは思えない。どちらかといえば、ファッション雑誌に出てきそうなモデルのようである。だが、どうしても安っぽさが否めなかったが。
映像には、真新しい第2世代型オートマトン<オルトロス>がライフルを振り回している姿が映し出されていた。

「……つまり、今回の任務は」

うんざりして今回の任務の内容を確認する。

「あの<オルトロス>を鎮圧させろ、ってこと?」

『そういうことだが、それがどうした?』

通信回線を繋いでいる同僚のシュルズ・ロブソン一等軍曹はなぜバレットがそんな声を上げるのかわからず、疑問で返した。
シュルズはアフリカ系アメリカ人。短く髪を刈り上げ、その引き締まった体躯から、いかにも軍人というイメージを連想させられる。年齢は26。実際の年齢よりもやや老けて見える。
性格はバレットは軽い、適当な性格。かたや、シュルズは冷静沈着、堅い性格であった。
そんな対照的な2人なのである。
だから―――よくこの二人の間では言い争いが絶えない。言い争い、といっても、一方的にバレットが噛み付いて、それを的確にシュルズが言い返すだけであったが。
だが、不思議とこの2人は相性がいい。喧嘩をするほど仲がいい、とはいったものである。なので、よくこの2人はコンビになることが多かった。
そう、今回の場合も。

「それがどうした、ってお前よぉ……。俺たちゃ在日アメリカ陸軍特殊機甲部隊特殊対応班なんだぜ? それがなんだよ、この任務は。あんな何年も前のアンティーク機をぶっ倒すのになんで最先端をいっている俺たちが行かなきゃなんねーんだよ。ニホンの自衛隊とやらはどうした。自衛隊は」

『さあな。今の日本は、軍事力も何もかもアメリカ頼りだからな』

「搭乗者がプロってなんならわかる。だが相手はただの民間人のチャイニーズだぜ? 大体なんであんなものを持っているんだよ」

今回の任務の内容は、バレットの言う通り、民間人の乗った<オルトロス>を鎮圧させる、といったものであった。
なぜ、その民間人はオートマトンという最強の陸戦兵器を買って暴れまわっているのかというと―――理由は簡単。端的に言えば隣人とのトラブルであった。
この男はフジ地区一帯で唯一の中国人だった。周りは日本人かアメリカ人しかいない。そして、アメリカ人から偏見の目で見られ、時には陰険な嫌がらせをさせられ―――その何年もちょっとずつ溜まっていった憎悪が、遂に現在溢れた、ということであった。
隣人間のトラブルから散弾銃を使った殺人事件にまで発展したという事例があったが、今回のようなオートマトンを使うケースは初めてであった。
そんなことを2人は知る由もなかったが。

『中国人は経済成長のお陰で金持ちだからな。自分で買ったのだろう』

「でもよぉ、いくら数年前の機体だからっていっても第二世代型は今でも1000万ドルはするぜ? もったいねえな。あんな<人形>にそんな大金を叩いちまってよぉ。そんな金があるんなら俺は女を買って遊んで暮らすぜ」

『くだらんな』

「なに? 馬鹿。お前、東洋人は最高だぜ。特に日本の女は最高さ。欧米人みたいに太っていない。肌も綺麗だ。あ、や、東洋人は東洋人でも韓国人は駄目だ。みんな整形してやがる。どいつもこいつも顔面サイボーグさ。俺はいくら顔が綺麗でも整形しているんならお断りだね」

『ほう。妙なところで純真だな』

「馬鹿野郎。俺はプラトニックラブなんだよ」

『金があったら女を買うのにか』

「細かいことはいいだろ」

『支離滅裂だな』

「うっせぇ」

そのとき、2人の回線に男の声が割って入ってきた。この輸送ヘリの機長、ローウェル・ブラットフォード中尉の声であった。

『OK。2人ともおしゃべりはそこまでだ。間もなく降下ポイントに到達する。準備はいいな?』

「うっす。大丈夫っす」

『同じく』

このローウェルは、とかく人受け、下士官からの人望が強い。
自身が将校でありながらも、権威を振り回す様子も見せない。本人曰く「サーと呼ばれるのは虫唾が走る」だそうである。

『よし……30秒後にハッチを空ける。ちゃっちゃと終わらせてくれよ。早く帰りてぇんだから』

「了解。300秒あれば十分っすよ」

『頼むぜ。一昨日からカミさんと喧嘩してんだ。ちと電話で口論になっちまってよぉ……。今日のナリタ発1900時の飛行機で帰らなきゃ離婚ものさ。それに間に合うようにしてくれよ。交信終了』

回線が切れたのとほぼ同時に格納庫内後部のゆっくりとハッチが開き、がくんと輸送機内が震える。
強い日光が差し込み、荒れ狂った乱気流が格納庫内で暴れまわる。今日は穏やかな晴れであるのだが、上空は嵐を髣髴させた。
戦場で家族の話をするのは鬼門なのではないか、とバレットはふと思ったのだが、そんなことはマンガやアニメのなかの話であろう、死ぬときは死ぬ、それだけだ、と妙な気持ちになった。

「チビんなよ、グローリー5」

『そっくりそのまま返してやる、グローリー8』

「いくぜ。そんじゃ……ショウタイムだ!!!」

2人は自機を固定しているロックの解放スイッチを押した。
専用のガイドレールに固定されていた二体の現段階最新鋭、第4世代型オートマトン―――<ファルコス>はたちまち床のレールを滑って、大空へと放り出されていった。
凄まじいG。並みの操縦兵なら失神しているところだろう。
重力に従って、雲を裂き、二機はみるみるうちに地上へ接近していく。

「4000…………3000…………2000…………」

画面上に示された数字を呟く。
地表500mになったところでAIがレッドアラームを出した。

「OK。パラシュート展開だ」

[了解。パラシュート展開]

自機に取り付けられてあったパラシュートが開き、バレット機は大きく空中に持ち上げられた。
シュルズ機も成功。ここまでくれば後は何も問題はなかった。
段々地上になにがあるのかが見えるようになってくる。見ると、確かに<オルトロス>がライフルを振り回して暴れていた。

「ひでぇ動きだ」

バレットから―――プロからして見れば、その動きはまるで街中にいるチンピラのようだった。
スクリーン上で様々な情報が怒涛のように流れ込んでくる。
その中で目標についてのデータを参照した。
AM2GT-005<オルトロス>。
中国製の初期型だ。
そんな情報を割り出すぐらい、最新型のAIを搭載している<ファルコス>にはわけもなかった。
なんでぇ。第2世代型の初期型の上にメイド・イン・チャイナかよ。
バレットは思わず吹き出した。
降下に気がついた<オルトロス>はライフルを空中にいる二機の<ファルコス>に向ける。

[ロックオン警報]

AIがアラーム音を出す。
バレットの顔つきが変わる。
次の瞬間には、<オルトロス>がフルオート射撃をした。
しかし、逆光でよくこちらを視認できない上に、相手は訓練されていないただの民間人。
いくらこちらが空中で無防備だからといっても、恐れることではなかった。

「んなトーシロの射撃なんて当たるかよ」

ましてやこの状況でフルオート射撃なんてするなら尚更だ。
沈黙させるのにはたった一発でいい。
余裕たっぷりに呟き、降下の姿勢のまま、バレット愛用の狙撃銃、GWG-SRT-80を持ち、虚しく弾を撃ちつづけている<オルトロス>をロックオンした。

「やるならもっと正確な一撃をしろっての。……例えば……こう!」

トリガーを引く。
マズルから閃光を走らせ、反動から機体が少し後ろに動く。
放たれた銃弾は、空を切り、<オルトロス>へ―――
命中。
腹部の少し下辺り。人間で例えると鳩尾部分。
ジェネレータへの正確な一撃。

「イグザクトリィ……」

自尊の溜息がこぼれる。
機能を失った<オルトロス>はなおも虚空に射撃を続けていたが、やがて腕をだらりと垂れ下げ、そのままぴくりとも動かなくなった。
沈黙。
かかった時間、268秒。
着陸し、すっかり動かなくなった<オルトロス>に近付き、コックピットから出て<ファルコス>の腕を伝い、<オルトロス>の緊急用のコックピット開閉レバーを引く。
ふしゅぅ、と煙を上げて<オルトロス>の胸が開く。
中にはヘルメットもつけずに私服のまま目を閉じている若い中国人男性がいた。
息はしている。ただの気絶のようだ。
馬鹿。ロクな防備も訓練もしていないから気絶するんだ。
呆れた溜息をしつつ、バレットは作戦本部へ回線を開いた。

「グローリー8よりHQへ。対象敵戦力の殲滅を確認した。搭乗者の生存も確認。現地の警察に引き渡す」

『HQ了解。現地で警備に当たれ』

「グローリー8了解」

<ファルコス>に戻りつつ、ローウェルに繋いだ。

「……さて、予告どおり300秒内で終わらせたぜ、ローウェル中尉。これで色々後始末をしても1700時には終わりますさ」

『おう、助かったぜ。これで土産を買う時間もある』

「土産。何を買うんすか」

『まあ、無難に花束でいいんじゃないか?』

「花束は駄目っすね。やっぱ食い物じゃないと」

『食い物か。何がお勧めだ?』

「そうだなぁ……。あ、そうだそうだ、チバのフナバシにあるシュークリームがむっちゃ美味いんすよ。ボリュームもあるし、何より安い。ヘタに高価なスイーツを食うなら、あれを勧めるね」

『シュークリームか。わかった。恩に着るぜ』

「離婚沙汰にならないよう、祈ってますよ。……やれやれ……んで、俺だけで充分だったみたいだなぁ、シュルズ?」

先ほどからうんともすんとも言わなかったシュルズに対して、バレットはいやらしい笑みを浮かべて言った。

『そのようだな』

「ん~? 悔しくないのかなぁ~?」

『悔しい。なぜそうなる』

「だってよぉ、自分も折角参加したのに、お前は何もできなかったんだぜ? 例えば、体育の授業中にサッカーの試合をしたのに、自分は何もしないまま他の奴が点をいれて勝った、みたいなもんだろ。それって虚しくならねえか?」

『必ずしも自分が点を入れる必要はない。できる限りのアシストをするのも一つだと思うが』

「でもお前は今回その手助けすらしていなかったじゃねえか」

『その必要がなかったからだ』

「っはっはっは! やっぱ悔しいんだろ。俺が全部手柄を取っちまって」

『お前の考え方はどうも幼稚だな』

バレットはぴくりと眉を動かした。

「……んあ? んだと、コラ。誰が幼稚だって?」

『お前だ、お前。バレット・ロングマン軍曹』

「言ってくれるじゃねえか、この黒人風情が」

『黒人を馬鹿にするのは許さん』

「はっ、馬鹿。白人が一番優れているんだよ」

『お前、東洋人の女は最高だって言ってなかったか?』

「それとこれとは話は別さ。とにかく白人は最強なんだよ」

『ほう。操縦の腕は俺より劣るのにか?』

「なに。俺がお前よりヘタだって?」

『そうだが。なんだ?』

「おいおい、そいつは聞き捨てならねえな。はっきり言って、俺のほうが断然ウマイぜ」

『自惚れだな』

「じゃあお前は違うっていうのかよ」

『そうだ。現に、お前との訓練戦が何よりの結果を示している。89戦中47勝43敗。その上、お前が勝った半分は妙な小細工をしたのが原因だ。つまり、これから俺のほうが勝っている事がわかる』

「小細工とはなんだ、小細工とは。戦略の一つといって欲しいね。それに、俺が47勝43敗だろ。勝手に改竄してんじゃねえよ」

『お前こそ何を言う。俺が47勝だ』

「俺だ」

『俺だ』

それから数分ほどこの平行線のやり取りが交わされ―――ようやくしびれを切らしたバレットはうんざりした語調で言った。

「……OK。こんなことしてても埒があかねえ」

『同感だ』

「んじゃ……ここで一回やってみるか」

『そうだな』

「負けた方は……そうだな。裸で基地一周ってのはどうだ」

『いいだろう。お前に屈辱を味あわせてやる』

「へっ……後悔すんなよ」

二機の<ファルコス>が向き合う。
お互いに腰からオートマトン用ナイフを引き抜く。
日本製のそのナイフ―――ナイフ、と言うには少々サイズが大きかったが―――はきらりと光り、切ったもの全てを裂いてしまいそうだった。
現に、日本製のオートマトン用ナイフは世界でもNo.1の実績を誇っている。刀と密接に関わってきたからであろう。
二機の間には、何者も介入できない空気が漂っている。
まさに一発触発の状態。
そのとき。

『ピィピィうるせぇんだよ、テメェら!!!』

先ほどからその会話を聞いていたローウェルが怒号を響かせた。
狭い、密閉された空間の中でそれを聞いたものだから―――2人とも、耳を思わず覆った。

『さっきから聞いてりゃ、更年期のヒステリー女みてぇに喚きやがって。 ちったぁ黙っていやがれ!』

「でもよぉ、ローウェル。こいつが―――」

『だが、ローウェル中尉。こいつが―――』

二人の言葉を、ローウェルはぴしゃりと遮った。

『シャラップ! それ以上騒ぐっつうんなら―――いいだろう。テメェらをそっから引き摺り下ろして、ゴードンからスパナを借りてケツ穴につっこんでやる。 俺はやるっつったらやる男だ。そのときになって泣いて謝っても無駄だ。そこでクソを垂れ流して、その写真を部隊にバラ撒いてやる! それでもいいってんなら、さあ闘え』

『…………』

2人は一斉に口を噤んだ。
それもそのはず―――このローウェルは、嘘か真か、実際にそのことをやって1人を辞めさせた、という噂がかねがねあったのである。
まさか本当ではあるまい―――そういう気持ちもあったが、しかし、この勢いでは確かにやりかねない。
渋々2人は。

『……どうも、すみませんでした』

と謝るしかなかった。

『ふん、わかれば―――』

と、そこまで言ったところで黙ってしまった。
スクリーン上でバレットとシュルズは顔を見合わせる。

「どうしたんすか?」

そうバレットが訊ねると、ローウェルは本当に―――本当に、絶望した声で呟いた。

『よく考えたら……前の任務の報告書書くの忘れていた』

「離婚決定っすね」

シュルズは「やれやれ」と肩を竦めるしかなかった。
その行動はしっかりと<ファルコス>にも表れていた。



                  #



場所 在日アメリカ軍フジ基地 オートマトン格納庫
日時 10月12日 〇九四七時(日本標準時)


格納庫内は、汗だくになった整備兵たちの怒号が行き交っていた。

「マニュピレータ、異常ないかぁ!?」

「トルク制御、終了しました!」

「おい、関節に変なモン挟まってんぞ! 誰だ、チェックした奴ぁ!」

耳が壊れるような整備の騒音―電動ドライバやドリル、カッター、ハンマーなどの駆動音など―に負けないように声を張り上げなければ、到底相手まで届かない。整備兵に求められるのは力と知識、そして声量だった。
それに、臭いも酷い。ガソリン、軽油等の燃料、金属の焼ける、鼻にツンとくるような臭いがこの辺りに充満している。少しいるだけで吐き気を催しそうだった。
だが、これでもよくなったものだと語るのは、整備班長のゴードン・ホイラーであった。
かれこれ、この職務についてから40年程が経つ。古株の一人だ。
それに、最初期のオートマトンから整備をしているのはこの整備班内でゴードンだけであった。
ゴードンはもう年齢が60にもなるが、今でもその能力が衰える事がない。誰よりも声がよく通り、最新鋭のオートマトンに対する知識の習得も、若い整備兵よりも圧倒的に早い。やはり、年の功というものなのだろう。

ここでオートマトンについての歴史に触れておこう。
オートマトンの歴史は浅く、その登場は17年前の2035年―――アメリカの軍専属兵器会社<ジェイド>社が陸戦人型機動兵器、通称オートマトンの開発を発表。それは瞬く間に世界中に広がった。
なにせ、今ではもう人型兵器など当り前のものとなったが、それまで人類が熱望していた人型兵器が遂に実現したのであるから、その衝撃というのは計り知れないものだったのであろう。
しかし、このオートマトンの設計にはグレイメタルが必要不可欠であった。ちょうど、携帯電話にレアアースが必要なのと同じように。
グレイメタルは日本でしか取れないものであり、グレイメタルを使わない案も出されたが、どうしても他の金属では劣ってしまった。コストや反応速度、その他様々な観点で。
翌年、2036年12月8日にアメリカは日本との和平条約を全て破棄し、宣戦布告。
日本の自衛隊はこれにあたったのだが、年々防衛費を削減しつづけた日本には勝てる見込などなかった。
その機に乗じて立て続けに中国とロシアもこの戦争に参加。だが、本土戦は殆どなかった。なぜなら、被害の拡大を恐れた日本政府は戦争が始まってからたった一週間で降伏したからであった。後に日本の警備の手薄さを皮肉り「一週間侵略」と呼ばれるようになる。
なんにせよ、経済大国日本が侵略されたというニュースは世界中に広がり、大きな衝撃を与えた。
勿論、このことを各国が見過ごすわけがなかった。
これは明らかな侵略行為であると、この3カ国を批判。国際連合で問題になったのだが、そのうちに雲散霧消となってしまった。世界の国々を黙らせるほどにまで、この3カ国の軍事力・経済力は強大なものとなってしまったからである。
この資源が入手できるのが日本というのも好条件だった。容易く侵略できるのは勿論の事、日本の技術力は世界でのトップを争うものだからだ。
そうして、日本人の協力を得てオートマトンの開発を進めるのと同時に領土の分割に関する戦争があちこちで起こった。
この戦争で初めてオートマトンが実践投入されるようになり、場所を問わず、なおかつ作戦行動時間の長いオートマトンによる戦果は凄まじく、陸戦最強兵器としての名はここから謳われるようになった。
九州から中部地方の半分にかけては中国。
中部地方の半分から関東地方はアメリカ。
東北地方から北海道にかけてがロシア。
ほぼ均等に分けられていったのだが、一番の問題だったのは泰平山であった。
この泰平山を獲得しなければ何の意味もない。
総力戦になることを回避するために、アメリカは泰平山をこの3ヶ国の間だけの共有地にすることを提案。それを二カ国は合意。「米・中・露 安全保障条約」が締結された。
その時から早10年程が経ち、オートマトンは様々なタイプが発表され、第二世代型、第三世代型、第四世代型と生産されていく度に性能が向上していった。
そして、今日。第五世代型が発表される。

「オラァ、テメェら! 今日はこいつのお披露目式だかんな。最終チェックで気ィ抜くんじゃねえぞ!」

そう言うと、あちこちから「ウス!」と野太い声が返ってくる。
「ふん」と鼻を鳴らし、ゴードンはこの最新鋭機―――第五世代型オートマトン<レスターブ>を見やった。
白色がベースの、スラリとスマートな体躯。
それにしても、とゴードンは思う。
第一世代型の、まるで工業用の重機のような鈍重さはどこへいってしまったのだろうか。
こいつは兵器としての無骨さを感じさせられない。
いやむしろ芸術性さえ見える。
ドイツではオートマトンの事をブッペチェン(可愛いお人形さん)と呼ばれるそうだが、まさにそうだった。「可愛い」かどうかはさておき、この姿はさながら人形のようであった。
いやはや、人間というのは恐ろしい。
核兵器にしろ、人間の手にでも負えないようなものを自らの手で造ってしまうのだから。
兵器、というのは人間が本来持っている闘争心を具現化したものなのだろう。やれやれ、この労力を果たして娯楽に活かすことはできないものであろうか。とはいっても、このことを否定するつもりもないわけであるが。
そんな考えに耽っていると、一人の若い整備兵が彼に近付いた。

「お疲れさんです。ゴードン班長」

「おう」

生返事をする。
挨拶されてもなお、ゴードンの心はこの最新鋭機に捕われていた。
「なあ」ゴードンは若い整備兵に話し掛けた。

「お前はこの機体をどう思う」

「……は。すいません。俺、こいつのスペックとかよく知らなくて……」

別に性能の事に関して言ったわけではないのだが、とは思ったものの、では一体自分はどんな事を訊きたかったのだろう。わからなかった。

「なんだ、知らないのかお前」

「まあちょっとゴタゴタしていてですね」

はにかみながら応える。
ゴードンは手に持っていたタッチパネル式の携帯端末をずいと寄越した。
「ありがとうございます」と受け取り、そこに書いてあることを読み上げていく。

「ははあ。AM5JGT-009<レスターブ>。全長8,7m、重量10,1t。ブースタはBS-XO/E7、FCS(火器管制システム)はVFT40―――って。どれもこれも最新式のものばっかりじゃないですか」

若い整備兵はしきりに感心し、驚きの声を上げる。

「ラジエータはRGI-KD77、パッシブ・センサはCRU-HBB92、ジェネレータはターボ・タービンドライヴを搭載―――」

そこでふと、若い整備兵は口を噤んだ。
そして訝しげな顔をゴードンに向ける。

「……ターボ・タービンドライヴ? これ、なんかの間違いですよね?」

「残念ながら、本当さ。こいつの動力源は紛れもない、それだ」

「で、でも。ターボ・タービンドライヴなんて代物がオートマトンに扱えるわけないでしょう。これの開発が発表されたのは3年前なのに、その圧倒的なパワーが故、実用するには難しく、最近になってようやくジェット機に実用されるようになったんですよ? それをオートマトンがなんて……」

「それをできるようにしちまったのが、この機体の開発者さ」

ゴードンはしわがれた声であざけるように笑った。

「当時最高峰だといわれていた第3世代型を超える第4世代型の開発に貢献。その類稀なる才能から24のときに博士号を取得、アメリカ軍研究部技術部長に抜擢。その後も様々な新兵器の開発に着手。そして、今回、この第5世代型の最高開発責任者である―――」

そこまで言われてようやくわかった若い整備兵はその男の名前を口にした。

「―――キサラギ・イクト、ですか……」























……主人公不在かよっ!って思った方、すみませんw
次回は絶対に出てきますので。つか次回でてこなかったらどうすんのよ。

まぁ、それはいいとして。
どうだったでしょうか。つまらない? うん、知ってる。
はっきり言ってどっかで見た事あるな……と思う方もいるでしょう。実際色々似たり寄ったりなので……w

ギャグが一切ないってのも辛いですね。いや、重い内容じゃないので辛くはないか。
というより自分でも何を書いているのかわからないw だから書いてて結構空を切る感じがあったのか。
もう型式番号とか適当ですからねw まったくもって意味はないです。適当です。

こう書いてみると……賀東さんスゲェなw ホント、あの人は一体何者なのだろう……。

ちなみにこの話のテーマは「ナショナリズム」です。まぁ、読切じゃ絶対に伝わらないだろうけどね!
もう駄目だ……この作者。自分の伝えようとしている事すら伝えられないというw

はぁ……

ではではノシ