言葉を発した瞬間に、
その言葉が意味をもって存在し、
その事実がとたんに恐ろしくなるようなことってありませんか。
それと同様に、
取り付けてしまった約束が、
とたんに怖くなるようなことがないですか。
楽しみだった。
わくわくした。
でもいざ約束すると、
その事実がたまらなく恐ろしい。
その約束の日が永遠に訪れなければいいと思うのと同じぐらいの切実さで、
その日が早く来ればいいいと願う。
原因はわかっているし、
それはどうしようもないことだけれど、
その影を恐れる。
一度負ってしまった傷を撫でて泣くのは、最上に近く、くだらないことだと思う。
だったらまだ、その傷の起因になった人を想って泣くほうが、なんぼかマシだ。
自分の傷を自分で舐めるのはみじめったらしい行為だと思う。
過去に縛られず、前を向こうと誇りを持つ人間のすべきことではない。
その傷はカラダの傷とちがって舐めたところで治りが早いわけではない。
くだらない。
この傷は時間というパテで亀裂を埋めて、表面をならして、なにもなかったように繕うことしかできないのだから。
見ないように、気づかないように。
そっとしておく。
すると時間というパテは亀裂に馴染み、いつしか境目がなくなる。
傷を忘れる。
若しくはほかの、なにかあかるい色のキラキラした液体を亀裂に注ぐ。
新たに他人との間で精製されるキラキラした液体を亀裂に注ぐ。
そのどちらかしか手だてはないのに。
どちらもできずにただ舐めている。
傷を癒す動物を真似るかのように。
動物ではないのに。
動物のように純粋で強く、生にしがみつくこともできないくせに。
DNAのなせる技か。
お前は動物にはなれないんだよ。
亀裂のまわりに立った、無数のささくれに引っ掛かってしまう些細な事象に、振り回されながら。
あがくことしかできぬ矮小なものなのに。
だからその醜さに誇りを持てと、強く思う。
ベストを尽くし、逃げるな。
甘えず、構えず、逃げずに向かえ。
あぁこんなことまでしなきゃならないなんて。
面倒だな男と女は。