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R線下のアリア

こんにちは。
さようなら。
どっちにしても、言ってもらえりゃ嬉しいもんです。

あのそらへつづくあいのうた 2

2006年03月18日 22時16分04秒 | 小説風味
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 私の家は父と母、それから私の三人家族。祖母は六年前に亡くなった。祖父の顔は遺影でしか知らない。病を患い、私が生まれるよりも先に世を去ってしまったという。
 父は家から少し離れた場所にある診療所で、医師として働いている。この町にたった一つだけの診療所で、訪れる人も多く、それだけ父を慕う人々も多い。私はそんな父をとても誇りに思っている。
 父の収入だけで家計は十分に落ち着いていたので、母は専ら主婦業に専念する日々を送っていたのだけれど――どういうわけか一ヶ月ほど前から、母はパートで仕事を始めた。スーパーのレジ担当というオーソドックスな職種だが、それは見た目よりもずっと大変な仕事だ。
 一度母の職場を見に行ったことがある。勤務時間はおよそ六時間ほど、仕事が始まってから終わるまで、ほぼ休みなくレジに立ちっぱなしで延々と手と口を動かし続けるという仕事だ。言ってみればただそれだけのことだけど、言うのと実際にやるのとでは全く違う。私はレジから少し離れた場所で十数分ほど母の仕事ぶりを見ていただけだったけど、そんな短い間でさえも人の流れは止めどなく、もしも自分が母の立場だったらと想像するだけで気疲れを起こしてしまった。ただ思い描いてみただけでそれなのだから、実際にそれを行っている母の疲労はかなりのものだろう。そして家に帰ればこれまでと変わらない主婦としての仕事。
 本当に、凄いと思う。

 それから私は母の家庭での仕事が少しでも減るようにと、自分にできることから少しずつ家事をやってみるようになった。母も私のことを気遣ってくれて、決して仕事を任せっぱなしにしたりはしないのだけど……まあ、それもごもっともな話。
 私の職業はというと――来年に受験を控えた高校三年生。そして今は天王山とも言われる夏休みの真っ只中。朝起きて、予備校の夏期講習へ行って、それが終わったら自習室で勉強して、帰ってきて夕飯を食べたらまた勉強して……といった具合に、一日を思い返してみると勉強以外の記憶がほとんど無かったりする。自分ながら、よく続いてるよなぁと感嘆してみたり。あはは、これじゃあまるで他人事だ。
 こうして毎日頑張っていられることに理由があるとすれば、やはり私に『目標』があるからだ。いまだ進路に悩んでいるクラスメイトもちらほらと見受けられる最中、私は比較的早くに自分のやりたいこと、なりたいものを見つけることができた。
 私は医学の道を進みたいと思っている。
 父の影響、だろう。
 人を助けるという仕事の意味。それは、時に逃れ得ない悲しみとも向かい合っていかなければならない仕事。それを幻想だけでなく間近で感じ、知り、見てきたからこそ、私はこの仕事に携わっていきたいと心から思っている。そして、そのスタートラインに立つにはそれ相応の努力が必要だ。私の志望大学はそれほどレベルの高い場所ではないけれど、やはり医学部という敷居は他と比べて格段に高い。私の通う高校の過去データを統計してみると、その学部に合格することが出来たのは一学年に二~三人程度。私の成績は決して悪いほうではないけれど、目標ラインにはまだまだ程遠い。
 だから私は頑張らなければいけない。
 それは決して義務ではなくて、私自身が望むことなのだから。


「――ふう、こんなもんかな」
「ん。それじゃ、お母さんの最終チェック」
 許容量を踏み越えて油を吸い取り続けてくれたキッチンペーパーを恭しく隅に置いて、私は母にその成果を見せた。横目に真剣な眼差しが見える。……駄目、かな?
「――うん。まあ、いいでしょ」
 そう思った次の瞬間、母は相好を崩してにっこりと微笑んでいた。
「よかった……」
 緊張した分、何だか気が抜けてしまった。この程度のことで気を張っているようでは、とてもじゃないけど大学の面接なんて通れないんじゃないかなぁ……先行き不安だ。
「ねえ、お母さん。ずっと聞こうと思ってたんだけど」
 そんな気持ちを紛らわそうと、すかさず話題を持ち上げる。
「お盆でたくさんのお客さんがうちに来るから大掃除……ってのはわかるんだけど、どうしてこんな見えない場所にまで気を遣うわけ? 換気扇の裏側なんて誰も見ないのに」
 そんな私の問いかけに対し、母は少しも表情を変えずに言う。
「誰も見ないからこそ、よ。目に見える範囲だけの掃除はね、なんて言うのかなぁ、わかっちゃうの。柚香だったら……例えば部屋の掃除をする時、なかなか片付かないものをとりあえず目に付かない戸棚の中に詰め込んで、それを良しとして掃除を終わらせちゃうなんてことはない?」
「あ、うん。よくある」
 そのときの光景を思い出してみる。あれって、片付けた瞬間だけは綺麗に見えるんだけど……結局はすぐに元通りになるんだよね。
「つまりね、そういうことよ。掃除に限ったことじゃないけど、上辺だけの行いはいつか必ずボロが出るの。だけど、誠心誠意心を込めて一生懸命にやったことは崩れにくい。一年に一度のお客様だっているわけだし、『気の遣いすぎ』なんてことはないのよ」
「へえ……説得力ある」
「長年の主婦暦、ってやつね」
 歯切れのよい口調でそう言い切った母の姿は、なんだかいつも以上に輝いて見えた。私たちはふだん友達のように接しているけれど、やはりこういう場面では親子になる。
 五、六年ほど前だっただろうか。ほんの一時期だったけれど、母の言うこと為すこと全てが気に入らなくなった時期があった。それはきっと――というより、間違いなく反抗期だったんだと思う。あのときの私は母に対して本当にひどいことを言ったし、実は今でもそれを後悔している。嫌な記憶というものは、小なり大なり忘れられないものだ。
 だけど母は、決して私を見放すようなことはしなかった。どんな悪口雑言も受け入れて、誠心誠意、私と向かい合い続けてくれた。――ああ、そっか。母はいつだって、誠心誠意心を込めて一生懸命に――接して、くれてたんだ。
「ほら、そんなことより早く終わらせちゃいましょ」
 ぽん、と背に優しい感触。その温もりは、母の手のひらが離れてからもずっと残り続けた。暖かい。私が生まれてから今までのあいだ受けてきた情愛の数々が、身体の内側からじんわりと染み出していく。
 昔、今、そして未来へ。ずっとずっと、呼応していく。
「……お母さん」
「ん?」
 この気持ちを表現するには、いったいどんな言葉がいいのだろう。「ごめんなさい」は違うよね。だったら……うん、そうだ。

「ありがとね、お母さん」

 ――うん、これがいい。
「……? いきなりどうしたの、柚香?」
 見るからに訝しげな表情。それもそうだろう。我ながら実に脈絡がない。
「いろいろ、全部ね。生まれてから今までの感謝の気持ち」
 でも、そんなのは問題じゃないんだ。
 少し大げさな気もしたけれど、それは決して間違ってなんかない。あとから思い返すとすごく恥ずかしいことを言ってるんだろうなぁとも感じたけれど、そんなことよりもずっと、伝えたい気持ちのほうが大きかった。
 母はしばしの間、訝しげな顔のままで私の瞳をじっと見つめていた。笑われちゃうかな。私、変なことを言っちゃったのかな。
 ――ううん、そんなことない。
 だってほら、きっと。

「ふふ、どういたしまして、柚香」

 窓の外に目をやれば、真夏の太陽を目指して真っ直ぐに咲き誇る向日葵の花。
 母の笑顔は、そんな素敵な笑顔だった。


あのそらへつづくあいのうた 1

2006年03月12日 23時12分31秒 | 小説風味
 何のため?
  あなたの幸せのため。

 何を祈るの?
  あなたの笑顔。

 辛くない?
  ううん、ちっとも。


 無償の愛って、そういうもの。



 *平成十七年 八月

「……暑っつぅ……」
 仏間のまわりをぐるりと取り囲むように、およそ三メートルに渡って立ち並ぶ大窓たち。その一枚を半分ほど開け、私は恐る恐る顔をのぞかせてみた。そこで私を待ち受けていたのは――予想通り、いや、予想していたよりもさらに強烈な熱波。それだけで消沈してしまいそうになる気持ちをどうにかこうにか奮起させ、私は思い切って窓を完全に開け放った。およそ涼風などという心地良いものからは縁遠い空気が、じわじわと家の中へと流れ込んでくるのを首筋に感じた。
「早いとこ終わらせなきゃ、と」
 解き放たれた熱源から半身を乗り出して、私は水で湿らせた新聞紙の一片を逆側の窓ガラスに擦りつけた。暑い。本当に暑い。ほんの十数秒その動作を繰り返しただけなのに、汗の雫が首筋を伝ってぽたぽたと落ちていくのがわかる。横目に見える庭の中央、熱の猛射にさらされてすっかり焼け付いてしまったアスファルトからは、陽炎……というよりも、なんだか湯気に近いものが見えたような気がした。暑さで私の頭もおかしくなったのかな。全く、今年の夏は少し張り切りすぎなんじゃないだろうか。
 そんな愚考をさっさと切り上げ、出来るだけ暑さを意識しないようにして、私は与えられた仕事だけに全精神を注いだ。一枚が終わったらもう一枚。それが終わったらその隣、暑いけど気にしないでもう一枚。今少しだけ視界がブラックアウトしたような気がするけどもう一枚。大丈夫、人間やって出来ないことなんてない……と思う。

 後半のほうになるともう半分ぐらい意識は飛んでいたけれど、必死の作業の甲斐があったのだろう、それは思ったよりも早く終わってくれた。首を引っ込めて、窓を閉じて、まずは一息ついてから、今しがた拭きあげた窓ガラスたちに目線をやった。うん、我ながらいい仕事をしたと思う。ぴっかぴかの新品同様。
「お母さーん、こっち終わったよー!」
 台所で一年分の油汚れと格闘しているだろう母を呼ぶ。
「あ、ほんと? うん、えっと、それじゃあこっちのほう手伝ってくれるー?」
 その声の余裕のなさから察するに、母は結構に苦戦しているらしかった。私は苦笑を漏らしつつ、窮地の母を救うべく早足で廊下を抜けていった。
 板張りの床から感じるひんやりとした感触が素足に心地良くて、それだけで何だか不思議な、明るい気持ちになる。涼しいとは言えないまでも、家の中は風通しがよくて外とは段違いに居心地が良い。母の教えで小さい頃から極力エアコンを使うことを避けてきたのだけれど、そのお陰か、私はこれまでに夏風邪というものを引いたことがない。あの頃は「どうしてエアコンがあるのに使っちゃだめなんだろう」なんて思っていたのだけれど、今にして思えば母には感謝するべきなのだろう。環境にも、それに経済的にも優しいし、ね。
「柚香ー?」怪訝さ混じりの母の声。
 考え事をしているうちに足が止まっていたようだ。私は慌てて声のするほうへと駆け出していった。

「ごめんごめん、お母さん」
 そこはやはり板張りの、昔ながらという表現がぴったりな台所。私はこの場所が大好きだ。
 一家の食事をまかなうために奮闘する母の背中の心強さは、今も昔も何ひとつ変わらない。私が生まれてから十八年間ずっと見続けてきた、暖かくて穏やかな気分になれる空間。それが、ここ。
「で、私は何を手伝えばいいの?」
 換気扇のフレームを外し、脚立の上に立ってその内部を必死に拭きあげている最中の母に問う。
「ん、じゃあコンロ周りの油汚れを落としてくれる? お母さん、ちょっと手が離せなくて」
「りょうかーい」
 シンクの上に置いてあったキッチンペーパーを数枚手に取り、毎日の料理の副産物に立ち向かう。コンロと壁の境目、ガスの元栓が通っている隙間は特に油汚れがひどく、並大抵なことでは落ちてくれなそうだ。骨の折れる作業になることを覚悟しつつ、私は無心に手を動かし始めた。
「ごめんね。今、大事な時期なのに」
 天井から声が聞こえる。ああ、お母さんか。
「まあ、たまには体も動かさないと続かないしね。それに大事な時期なのはこっちも一緒、でしょ?」
「ふふ、ありがとうね、柚香」
「いーえ、どういたしまして」
 私たちは笑った。屈託なく笑い合った。
 我ながら、仲の良い母子だと思う。

Seiha/Stay Popn 第二話『愛しさと切なさと心強さと』

2005年12月10日 19時36分14秒 | 小説風味
空気を揺るがす雷鳴怒涛。
天は轟き地は猛る。
それは誰一人として知る由無く。
それは誰一人として知る事叶わん。
闘うことの理由は違えど、存在することに理由など無い。
賭けるものは己が滾る魂と、確かな礎を踏み越えて培われた矜持のみ。
さあ見るがいい、その溢れんばかりの輝きを。
さあ聞くがいい、その割れんばかりの雄叫びを。
その闘いを止める権利など、果たして誰が持つことが出来ようか。
いざ決さん、我らが雌雄。
究極を越えた至高の闘いの銅鑼が、今、打ち鳴らされる――!!

画面上に化身として映し出される「みこしばれあ」と「しおまる」の両名。
闘いはもう止まらない。第三者など最早彼らの目には映らない。
先手を打ったのは復讐のサーヴァント、しおまるの側だった。
果たしてどんな攻撃が繰り出されるのか。
以前の闘いでは、彼の打ち出す渾身の『釈迦』の前に、セイハはただ崩れ落ちることしか出来なかった。
しかし彼は知っている。サーヴァントに同じ手は二度と通用しないことを。
もはやセイハにとって釈迦は敵に非ず。そして同様、しおまるもその事を心得ていた。
誰もが固唾を呑んでしおまるの選曲を凝視する。
スクリーンの向こうに映し出されたその文字、セイハを奈落へと誘わんと繰り出されたその一撃は、


――敬老パンクEX――


「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああ!!!!!!!!」
その文字が、言葉通りセイハの心臓を抉り取る。
まさか、いやそんなはずがない。
どうして、どうして彼がそれを知っているのか。
バーサーカーのサーヴァント、英霊セイハ。
彼の最大にして埋め難き弱点。

――レベル42正規。

しおまるは全てを熟知していた。
他の曲であれば、別オプションに回避することも可能であったろう。
しかしこの敬老パンクという曲は、その譜面構造故に正規以外のオプションを弾き返してしまう特性を持つ。
セイハは失念していた。目の前に立ちはだかる敵が、果たして何を意味するサーヴァントであったかを。
不適な眼光がセイハを捕らえる。そう、元より「どうして彼が知っているのか」ではなく――「知っているからこそ彼」だったのだ――。



怒涛の変速、そして洗脳譜面。
セイハは懸命に食らいついた。
だが、しかし――現実は抗えないが故に『現実』という名を冠す。
闘いを終えてみれば、彼らの間についた点差はおよそ10000点。
それは決定的な、終わりを意味する差だった。
もう、無理なのだろうか。敗北を受け入れるのみなのだろうか。

いや、違う。
まだセイハは闘える。
その闘志が消え行かぬ限り、彼は何度でも立ち上がる。
止まることを知らぬ重戦車、それがバーサーカーの生来の定義。
もう思考など必要ない。何も考えてはいけない。
ただ立ち向かえ。最後まで信じるべきは、己の力ただひとつ。
そして画面上に映し出される第二選曲――ハードPfEX。
決して得意な譜面ではない。またしてもレベル42正規であることに変わりは無い。
だが、セイハは全てを捨てた。苦手意識など雲の彼方に置いてきた。
大丈夫、もう負けないさ。だってそうじゃないか、それがヒーローアニメの定義!
ヒーローはいつも窮地から立ち上がるもの!
さあ、ここからが本領発揮!
今日もゆけゆけみこしばれあたん!!!!!!



演奏を終えて、結果はセイハの3000点勝ち。盛り上げた割にはとても微妙だった。


そして舞台は最終演目。
時は期した。
選曲権を持つのはセイハ。差は7000点、決して埋まらない差ではない。
僅かな逡巡の後、セイハは闘うべき曲を選び終えた。
彼の目には今、確かな勝利へのレインボーロードが映し出されていた。
さあ、あとは全力を出し尽くすのみ。
選んだ曲は『シンフォニックメタルEX』。
ランダムオプションに全てを賭けて。
しおまるよ、貴様にこれが受けきれるか。
全身全霊、この闘いにおける画竜点睛となる一撃。
迸る力の奔流、猛り狂う怒涛の咆哮。
燃え尽きよ!
砕け散れ!
今この瞬間をもって、我の元に平伏すがいい!!


――そして、風が吹き抜けてゆく――。





全てを出し切った。
後悔はない。
そして、結果は出た。

およそ10000点差で、セイハは敗北した。


「がッ……がぼはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァ!!!!!!」

敗者は地を舐めるのみ。
どうして負けてしまったのか。
その理由は、セイハには永劫知ることはできないだろう。
こうして、今。
セイハの聖杯戦争は、幕を閉じたのだった――。




Seiha/Stay Popn    ~E N D~






まあアレですよ、結局勝てる相手じゃなかったってことですね。
敬老きた時点で気付くべきでした。敬老を開始10秒でBAD出したあたりで気付くべきでした。
まあ、こんなわけで負け犬の烙印を胸に刻み込まれてしまったワタクシ。半ばブロークンハートでもう一度ネット対戦に向かいました。ほら、やっぱり相手は誰でもいいから勝って帰りたいじゃないですか。うわ最低だこいつ。
で、コイン投入。神部屋に入って待つこと数秒。きましたきました、私に倒されるべくいらっしゃった可哀想な方が。どうか恨まないでくださいね、これも勝負ですから☆
ん、よく見たら見慣れた名前じゃないですかこれ。知り合いとなると少し気が引けますが……まあ、それでも遠慮なく叩き潰させてもらいま……え……?



画面上に映し出された名前→しおまる











莫大な闘気が再びセイハの身体を覆い尽くす。
不屈の精神が天地を揺るがす。
灼熱のリターンマッチが、今再び、大地を焦がす――!!



つづく

まえがきその2

2005年12月08日 21時35分07秒 | 小説風味
※英霊しおまる ステータス一覧

・マスター……美坂栞

・監督……藤林杏

・チーフ……ちせ

・プロデューサー……春原芽衣

・クラス……アヴェンジャー

・譜面研究(Reserch)……S

・肘(Elbow)……A+

・グレンダイザーHダブル(Ne-yo)……E

・宝具……「果てしなき執念の白玉餡蜜(テンスウ・ナニソレ・オイシイノ)」 発動条件は「明らかに絶望的な状況に立ち向かう」こと。不屈の精神を基盤として発動されるこの宝具は、「不可能を可能に変える」という、ある種の奇跡とも呼べる運命改竄能力を持つ。『譜面書いて餡蜜覚えればフルコンできない譜面なんてない』と断言する英霊、それがしおまる。オイパンクEX正規フルコンはセイハに喧嘩を売っているとしか思えない。

Seiha/Stay Popn 第一話『彼らが彼らで在る理由』

2005年12月08日 20時04分13秒 | 小説風味
煌々と輝く金色灯。
立ち香る煙草の白煙。
賑わいに溢れる人々の喧騒。

新潟県某所、その名を「プレイタウンラッキー」。外から見ようとも内から見ようともその事実は頑として変わることのない、それは何の変哲もない普通のゲームセンター。
しかし見るがいい、人々よ。
そして知るがいい、人々よ。
今日というこの日、この場所で、マスターとサーヴァントという一見数奇な使役の関係が織り成す、意地と魂を賭けた至高の闘い――『聖杯戦争』の火蓋が切られたのだと云う事を。

まだ見ぬ絶望的な相手を前に、その身体は戦慄を覚える。
まだ見ぬ珠玉の闘いに打ち震え、その身体は旋律を覚える。
幾多数多の激闘を制してさえなお、その感情は乖離することなく湧き上がり続ける。
邪悪や正義といった概念さえも超越した、絶対的な破壊と発狂を司るクラス。そこに立ち居でしは『バーサーカー』のサーヴァント――セイハの姿。
その後方には、ここまで彼を常に支え続けてきたマスターの姿がある。

――御子柴玲亜。

バーサーカーとなることで自我を失ったセイハにとって、その存在こそが唯一の『闘う』ことの理由。彼にとって彼女は女神であり、崇拝すべき対象であり、そして、愛すべき心の拠り所だった。
彼女のためにセイハは今日も闘いを続ける。それが例え一分の勝機さえ見えない絶望に満ちた闘いであっても。

ネット対戦と云う名にその真の姿を隠した、此度の聖杯戦争。
鮮血に塗れたモニターの向こう側に、闘うべきサーヴァントの名が映し出されていた。

――しおまる――

その真名を口にするだけでさえ、心の弱き者は崩壊の運命を辿る。
最強にして至高、絶対にして無敵。
『釈迦』、『オイパンク0』、『グランヂデス』――彼ら強大な力を持つサーヴァントでさえ、彼の前では跡形も無く切り伏せられた。
どんなに勝機の薄い闘いでさえ、彼は不屈の挑戦心と恐ろしいまでの研究解析によって絶対の勝利を手中に納めてきた。それ故に彼のクラスは『アヴェンジャー』。存在しないはずの第八のサーヴァントであるはずの彼は、しかし決して敗北しない。
恐るべき存在。現にセイハは、前回の聖杯戦争で完膚なきまでの敗北を喫している。

勝てる、のか。
いや、勝つ!

不穏な思考は三途の川にでも置いてきてしまえばいい。
自らが朽ちるその瞬間まで勝利を信じ続けることがセイハの信条。
最早、迷いは無かった。
覚悟を決め、深呼吸をし――そしてセイハは、誰として予言することの出来ない激闘の中へと身を沈めてゆく――!!



続きは次回へ、乞うご期待。


※このストーリーは実際にあった話をもとに、900%の脚色を加えて構成されています。
※TYPE-MOONさんごめんなさい。

まえがき

2005年12月08日 19時27分01秒 | 小説風味
※英霊セイハ ステータス一覧

・マスター……御子柴玲亜

・クラス……バーサーカー

・発狂(berserk)……S

・正規(ochitsuke)……E

・LV42正規(zennichi)……Z-

・宝具……「超越する魂の発狂乱舞(スーパー・ランダム)」 常時発動系宝具。その効果は「進むべき道を困難なものに変化させる」という全くもって使えない宝具。付与する特殊能力もこれと言って無い、間違いなく全サーヴァント中最弱の宝具。唯一の利点は「どんな困難にも決して諦めない強靭な精神力」が育まれると云う点のみ。