カワセミ「病気とは戦いません。仲よく付き合います」
検査・治療は不要
※週刊ポスト2017年12月8日号
がん治療せず「逃病」を選んだ人はどんな最期を迎えるか
治療を拒否するという選択をした人は?
体に不調を覚えると、医師の診断を受けて病名と治療方針が示されたのち、病気が治るまで投薬や手術を受け続ける──これが一般的な「闘病」のプロセスだ。しかし、必ずしも正面から向き合うことばかりが病気との闘い方ではない。自分の人生を最後まで自分らしく生きるために、治療を拒否する「逃病」という選択をする人がいる。
75歳のとき、肺に2cmほどのがんが見つかった玉木雄一さん(82)は、医師から「治療しなければ余命2年」と告げられて抗がん剤治療を開始したが、副作用に苦しめられて2か月で治療を中止、「逃病」生活を始めた。
「治療を受けませんでしたが、がんが見つかってから2年経っても日常生活に支障は出ませんでした。
今年でがんになってから7年。宣告された余命よりだいぶ長生きしています。たまに胸水がたまって苦しくなるときがありますが、時間がたてば自然になくなるので、苦しい間だけ鎮痛剤を投与してもらっています」
玉木さんのように、「逃病」を選んだ結果、余命宣告より長生きすることはめずらしくない。日本在宅ホスピス協会会長で『なんとめでたいご臨終』(小学館刊)の著者、小笠原文雄医師が指摘する。
「私の経験では、在宅ホスピス緩和ケアを受けた末期がん患者のうち、約3割が余命宣告より長生きしています。闘病のストレスから解放され、不安や痛みを取り除くことができることが、余命を延ばすことに繋がっているのではないでしょうか」
一方で、がんを放置することにはリスクもある。
72歳の富田聡さんはステージIIの大腸がんが発覚したが、本人の意思で治療を行なわなかった。血便が出るたび、腹部にギリギリと締め付けられる痛みがあったが、短時間で収まるためあまり気に留めなかった。
やがて腫瘍が腹部の皮膚に転移すると、今度は臭いに悩まされるようになった。
「痛みまでは我慢できたんですが、お腹から膿が出てきて部屋中に腐った臭いが充満するようになると、耐えきれず皮膚がんだけ切除しました」(富田さん)
がんは成長を続けると、やがて腐って形が崩れ、皮膚を突き破ることがある。富田さんのような状態に到ることは、手術や抗がん剤治療を行なっていればほとんど起こらない。
◆「逃病」で幸せな最期迎えられるの?
このように「逃病」を続けていくと、どのような最期を迎えるのだろうか。
自らも10年前に顎の下にしこりを発見し、「これは、がんだ」と直感しながらも、その後精密検査を受けず「逃病」を選んだ社会福祉法人「同和園」附属診療所の医師・中村仁一氏(77)がいう。
「がんの場合、まず食が細くなり、毎日目に見えて痩せてきます。進行すると、今度は限られたものしか食べられなくなるので、栄養バランスが崩れて体がむくむようになる。最後には体が食べ物も水分も受け付けられなくなって脱水症状に陥り、ウトウトしながら眠るように亡くなります」
多くの人は死の間際に訪れる痛みを怖れるが、実際には、死は穏やかで安らかなものであると中村医師は指摘する。
「進行したがんが神経まで侵食すると、しびれるような激しい痛みを伴います。しかし、この痛みは鎮痛剤で和らげることができる。むしろ、大半のケースでは鎮痛剤を打たなくても体が食物を受け付けなくなると、脳からモルヒネが分泌されて、苦痛から解放されるといわれています。
例えば、大腸がんなら多少の出血により貧血を起こしたりするケースが出てきますが、そこまでがんが進行すると、1週間から10日程度で苦しまずに亡くなる人が多い。私が看取った患者たちは、まどろみながら安らかにあの世に旅立つ人ばかりでした」
※週刊ポスト2017年12月8日号
検査・治療は不要
※週刊ポスト2017年12月8日号
がん治療せず「逃病」を選んだ人はどんな最期を迎えるか
治療を拒否するという選択をした人は?
体に不調を覚えると、医師の診断を受けて病名と治療方針が示されたのち、病気が治るまで投薬や手術を受け続ける──これが一般的な「闘病」のプロセスだ。しかし、必ずしも正面から向き合うことばかりが病気との闘い方ではない。自分の人生を最後まで自分らしく生きるために、治療を拒否する「逃病」という選択をする人がいる。
75歳のとき、肺に2cmほどのがんが見つかった玉木雄一さん(82)は、医師から「治療しなければ余命2年」と告げられて抗がん剤治療を開始したが、副作用に苦しめられて2か月で治療を中止、「逃病」生活を始めた。
「治療を受けませんでしたが、がんが見つかってから2年経っても日常生活に支障は出ませんでした。
今年でがんになってから7年。宣告された余命よりだいぶ長生きしています。たまに胸水がたまって苦しくなるときがありますが、時間がたてば自然になくなるので、苦しい間だけ鎮痛剤を投与してもらっています」
玉木さんのように、「逃病」を選んだ結果、余命宣告より長生きすることはめずらしくない。日本在宅ホスピス協会会長で『なんとめでたいご臨終』(小学館刊)の著者、小笠原文雄医師が指摘する。
「私の経験では、在宅ホスピス緩和ケアを受けた末期がん患者のうち、約3割が余命宣告より長生きしています。闘病のストレスから解放され、不安や痛みを取り除くことができることが、余命を延ばすことに繋がっているのではないでしょうか」
一方で、がんを放置することにはリスクもある。
72歳の富田聡さんはステージIIの大腸がんが発覚したが、本人の意思で治療を行なわなかった。血便が出るたび、腹部にギリギリと締め付けられる痛みがあったが、短時間で収まるためあまり気に留めなかった。
やがて腫瘍が腹部の皮膚に転移すると、今度は臭いに悩まされるようになった。
「痛みまでは我慢できたんですが、お腹から膿が出てきて部屋中に腐った臭いが充満するようになると、耐えきれず皮膚がんだけ切除しました」(富田さん)
がんは成長を続けると、やがて腐って形が崩れ、皮膚を突き破ることがある。富田さんのような状態に到ることは、手術や抗がん剤治療を行なっていればほとんど起こらない。
◆「逃病」で幸せな最期迎えられるの?
このように「逃病」を続けていくと、どのような最期を迎えるのだろうか。
自らも10年前に顎の下にしこりを発見し、「これは、がんだ」と直感しながらも、その後精密検査を受けず「逃病」を選んだ社会福祉法人「同和園」附属診療所の医師・中村仁一氏(77)がいう。
「がんの場合、まず食が細くなり、毎日目に見えて痩せてきます。進行すると、今度は限られたものしか食べられなくなるので、栄養バランスが崩れて体がむくむようになる。最後には体が食べ物も水分も受け付けられなくなって脱水症状に陥り、ウトウトしながら眠るように亡くなります」
多くの人は死の間際に訪れる痛みを怖れるが、実際には、死は穏やかで安らかなものであると中村医師は指摘する。
「進行したがんが神経まで侵食すると、しびれるような激しい痛みを伴います。しかし、この痛みは鎮痛剤で和らげることができる。むしろ、大半のケースでは鎮痛剤を打たなくても体が食物を受け付けなくなると、脳からモルヒネが分泌されて、苦痛から解放されるといわれています。
例えば、大腸がんなら多少の出血により貧血を起こしたりするケースが出てきますが、そこまでがんが進行すると、1週間から10日程度で苦しまずに亡くなる人が多い。私が看取った患者たちは、まどろみながら安らかにあの世に旅立つ人ばかりでした」
※週刊ポスト2017年12月8日号