K.H 24

好きな事を綴ります

重力 ルーラー⑪

2020-06-01 14:06:00 | 小説



⑪悲しい反乱

 「はっ、驚いたわね。ここは、どこ?」
 中平の事務所の応接室に武装集団が入って来て、信子と巫女代が、将嗣と信恵、将臣と橙子を連れて、鎌倉時代の信子が住む神社の一室にタイムスリップして、最初に信恵が言葉を発した。
「お母さん、お父さん、ご無沙汰してます。兄さんも橙子さんも元気ね。初めまして、巫女代ちゃんね。あなたの叔母の巫女乃よ。」
 先日、信恵に聞かされた、信子の手伝いをすると、この時代に来た巫女乃が話しかけて来た。信子は自分の血を受け継ぐ子孫達家族が一堂に集まったのを嬉しく思い、笑顔で見ていた。
「巫女乃、元気にやってるのね何年振りかしらね。でも、巫女代ともそっくりね。」
 信恵は、泣脆くなっていて、左右の目尻から2、3本枝分かれする涙の筋を光らせていた。
「本当ね、なんだか妹みたい。私がここに来て8年よ、27になったわ。でも、お母さん達は、だいぶ時が経って来たのね。不思議な感じね、信子様がいちばん若いなんて。結構、悪戯心もあるから、信子様は。」
 巫女乃は信子にも笑顔を向けた。
「あはは、そうなりますね。でも、良い頃合いで行動しないと、この世は私独りの物じゃありませんから、決して自分勝手に時を操作しませんよ。」
 信子は、さり気なく大切な事を言った。
「巫女乃、信子さんに失礼だぞ。少し緊張感が薄れてないか?」
 将臣が指摘した。
「将臣さん、丁度良い塩梅と思ってますよ。家族みたいな存在になってくれてますから。独りは寂しいものですよ。」
 信子は巫女乃を庇った。
「あっ、すみません。そ、そうですね。」
 将臣は、この時代に神坂家が悲惨な目に遭ったのを思い出した。
「お父さん、みんなでお墓参りしようよ。折角なんだから。」
 巫女代は空気が悪くなりそうな雰囲気を察して提案した。
「それは良いな。我々のご先祖様、将十郎様。この人が信子さんらと頑張ったお陰で我々は生を受けたからな。将臣、行こう。」
 将嗣は巫女代の提案に賛同した。
「信子様、私からもお願いします。一緒に行ってもらっていいですか?」
 巫女乃は、父である将嗣に親孝行が出来る気持ちで信子に嘆願した。
「はい、行きましょう。」
 信子は快く引き受けた。

 一方、現在の時代では、中平達の『ファーザー』が巫女代達を捜索し始めていた。将臣と橙子、巫女代の3人が暮らす家、将嗣と信恵が暮らす家に張り込みを付けた。それぞれに神坂家の人間が現れたら拉致すると言う魂胆だ。しかし、一向に現れない。中平達は、巫女代がタイムスリップ出来る事、信子の存在までは知ってなかった。
 中平は、部下達に神坂家の人間を捕らえるよう言って、3日が経つと、痺れを切らしてしまった。他の2国、中和民国とアフメカ共和国の『ファーザー』達に、巫女代が居なくなり、捕らえられない事を告げ、どうせ居なくなったのだから、あのような摩訶不思議な力の影響は恐る事はないと話し、世界征服を実行しようと話した。
 中和民国の金北鮮(キムホクセン)とアフメカ合衆共和国のモンダナ・シザ・アリヤコブの3人でリモート会議を始めた。その中で、金とモンダナは、巫女代が居なくなった経緯と巫女代の力の影響が無いと言った根拠を問うて来た。中平は、適当な作り話をでっち上げ、2人を納得させた。実にエゴイズムな作話で、ハラワタが煮え繰り返った感情を押し殺し、客観的な事実かのようにその2人を丸め込み、強行手段を提示した。
 先ずは、核兵器を持ち、モンダナがその兵器を操作出来る事から、アメフカ合衆共和国の大統領を押さえ込み、モンダナに全権力を譲渡させる。その後、中和民国の王朝塔と中平の自国、陽本(ようほん)の王室館に核兵器で攻撃し、占領すると言った、単純明快で、残虐な戦略である。
 これで、3つの先進国を手中に入れ、かつ、統一国家にし、『ファーザー』の12人が首脳陣となり、他国から干渉させず、『ファーザー』達に有利な安全保障条約を締結させる事で事実上、世界を征服すると言った計画である。
 ここで問題になるのが核兵器を利用する事である。中和民国と陽本は、確実に放射能に汚染され、それぞれの国のGDPは下降し、特産品もしくは、国際貢献していた科学技術の発展が留まってしまうだろう。したがって、この2つの国は、使える国土が減り、軍事産業をせざるを得ない状態となる。すなわち、この3国の統一国家が、他国よりも軍事力を秀でた状態を保つ事で、武力が世界を支配する状況を作り、格差世界となるのだ。しかしながら、他国は、秘密裏にその3国の脅威を恐れ、対策を取っているのは知る由もなかった。
 そんな事態まで予測出来ない3人は、とにかく私欲ばかりを思い浮かべ、実行に移す事にした。そして、金北鮮はどうしても神坂家の人間達の再来を恐れ、2つの家を焼き払う事も付け加えた。

 2日後実行した。先ずは、アフメカ合衆共和国の大統領を拉致し、民衆の前で銃殺した。同時に、核のスイッチを押した。陽本王室館と中和民国王朝塔に核ミサイルが発射された。30分後、2つの国は大惨事となった。両国の人口の1/3が消滅した。そして、国土の2/3が放射能に汚染され、使用不可能となった。
「アフメカ合衆共和国と陽本国、中和民国は、統一国家となった。私が第一大統領のモンダナ・シザ・アリヤコブである。こちらの方は、第二大統領の金北鮮、こちらは第三大統領の中平嗣盛だ。我々3人がこの統一国家の統治権を持つ事になった。そして、我々の国名を、トリアンゴ連邦共和国とする。」
 予想以上に核兵器での被害が大きく生産活動がままならない状況に陥ったものの、モンダナは、世界中に強気な発言をした。
 それを聞いた他国の首脳陣は、これまでに準備していた物を使って、共同軍事演習を実施した。その内容は、中平達に危機感を持たせるのと同時に怒気をも持たせてしまった。中平達、トリアンゴ連邦共和国は、2週間で核弾頭を15基製造した。そして、周辺10ヵ国を攻撃した。世界大戦が始まった。
「巫女代さん、分かる?」
 信子は、古の時代に居ながら、未来で人類を滅亡させる程の戦争が始まったのを感じ、巫女代に確認した。
「はい、分かります。これはヤバイですね。みんな死んじゃうかも。」
 信子と同じように感じてた。
「様子、見に行きましょう。」
 信子は深刻な表情で、僅かに冷や汗を垂らしてた。

 2人がタイムスリップし、現代に来ると、信じられない光景が広がっていた。先ずは、お互い身体の周りをシャボン玉で覆った。巫女代の自宅、将嗣と信恵の家が全焼してるのを確認した。そして、核爆弾の爆心地はクレーターのように焼け焦げ、爆風の広がりが一眼でわかる程、建物や樹木の倒れた向きが人工的に作られた円心状になっていた。また、人間の亡き骸がその瓦礫の周辺に散在し、瓦礫自体にも焼き付けられた亡き骸が所々で見られた。それは、正に地獄絵図で、殆どが全身を保っておらず、末端の部位、すなわち、手先や足先、顔や頭部が焼け溶けた状態だった。巫女代達はシャボン玉の中に居るものの、微かに、これまで経験した事のない焦げ臭さを感じてた。
「巫女代さん、私、耐えられません。この景色と臭い、どんな事をすれば、こんな状態になるのか。吐き気がします。」
 信子は、顔が真っ青になっていた。
「うん、核爆弾だと思う。信じられない景色ね。中平達、悪魔ね。許せない。信子さん、お父さん達の所に戻ってて。私独りで世界中回って来るから、ね。」
 巫女代自身も目眩がしそうな状況であるが、この状況にどう対処したらいいか分からないが、この状況を把握したい一心となった。
「すみません、巫女代さんお独りで無茶はしないで下さいね。お言葉に甘えて先に戻らせて頂きます。」
 信子は、顔面蒼白なまま、全身の力が抜け、なで肩になってすうっと消えた。

 気持ちを切り替えた巫女代は、中平を探した。旧アフメカ合衆共和国のブルーハウス、要するに、大統領官邸に居るのが分かった。これは、このように焼け野原になった状態を時間を遡って思い浮かべた巫女代の力が成せる業だった。
「中平さん、馬鹿な事をしたものね。許せない!」
 巫女代はブルーハウスに瞬間移動して中平の側に立った。
「おおぉ、びっくりしたぁ。お出ましですか、巫女代さん。あなた方が居なくなりましたので、やっちゃいましたよ。でも、予想以上の破壊力でですね、まぁ、何とかやってますよ。そろそろ10基の爆弾、落としますけどね。あはは。それとも巫女代さん、我々の代わりに24ヵ国を制圧してもらえますか。もう私は止まりませんよ。へへ、あはは。」
 中平は最早、悪魔と化したような表情、声に変わり、高笑いした。
「あんた馬鹿!人が生きていけない世界になるだろ!」
 巫女代は怒り心頭だった。
「この私に盾突くのですか?人類絶滅?上等じゃないですか。私の指1本でそれが可能な訳ですから、私は既に世界を支配してるって事ですよ。へへ。それとも、あなたが止めますか?へへへ。いや、あなたの力で世界を制圧してもらえますか?私の代わりに。」
 中平は、完全に悪魔の心に変わってしまった。
「中平さん、冷静になんなさいよ。あなただって死んじゃう可能性はあるのよ。あんただって家族、居るでしょ?お孫さんだって居るじゃない、私の歳と同じくらいの子達が?あんたが未来を奪う権利なんてないわ!」
 巫女代は自分の力で、その核爆弾の操作スイッチを中平から奪う事は簡単だった。だが、悪魔のまま、この事態を収めても中平はまた他の手段を考えるだろうと思い、説得する事にした。
「巫女代君、私が政治家になったきっかけはですね、周囲の人達に祭り上げられて立候補した訳です。社会的な様々の問題、例えば、その頃は障がい者がまだまだ世間から差別されてたんですよ。今もまだまだ足りない状態ですがね。バリアフリーを広めたのは私からなんです。ですが、そこで裏から手を回して犯罪スレスレの行為で至福を肥やす輩が現れたんです。怒りましたよその時は。でも、私の働きを客観的に見ると、私はそんな連中に囲まれてたんです。手遅れでした。でも、何とかしようともがいたのですが、叩かれました。子や孫まで嫌がらせを受けたんです。三男坊は、精神を病んでしまいました。だから、いづれ人類は絶滅する危機を迎える筈だ!だから、私の手で、そのきっかけを作ってやるんです。もう、私は何もいらない、命さえ、だからこの社会をリセットさせるボタンを押してやるんだ。がはは、がはは、がはは。」
 中平は目に涙を浮かべながらも悪魔のような表情は変えず、再び高笑いした。

つづく



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