K.H 24

好きな事を綴ります

義賊とカルトの温床。僕らはどれを選ぶのか。⑦

2020-02-03 13:48:00 | 小説
⑦皆殺しの功罪

「申し訳なございません。1人の者は、非常勤職員でございまして、本業は医師であります。令高大学付属病院に勤務しておりまして、30分程遅れる見込みです。他の者は集まっておりますので、宜しくお願いします。」
 益田が普段の朝とは違い、見かけない男性2人と横井定幸に対し、テンション高めに話してた。
「おはようございます。久し振りですね。みなさんの活躍は耳に入ってますよ。つい先日も人身売買をしてる組織の壊滅にご協力して頂いてご苦労さまです。その時にですね。みなさんが得た情報からピンクキャメル号の乗組員達を勾留し、世界中から買い集められた女性10人を保護し、それぞれの祖国へ帰国させる事が出来ました。しかしながら、あの船の乗組員達は、単なる運び屋でした。で、ありますから黒幕が存在するのが明らかになりました。」
 横井もあの2人の男性が居るからか、普段より丁寧に話しを進めてる。益田は、いつもと違う横井の話ぶりを聞いて、ただならぬ事が起きたと察し、背中、脇の下、胸の谷間に僅かながら冷や汗が垂れるのを感じてた。
「あの船の船長はイタリア人でした。他の乗組員は、ユダヤ人で、ですから、黒幕は、」
 横井が核心を突こうとすると、ダークグレーのスーツにオフホワイトのワイシャツ、ライトグレーのネクタイをした1人の男性が言葉を遮った。
「横井さん、後は私から。私は、イタリアの日本大使館に席を置く織田有造と言います。みなさんが壊滅させた、永井虎将がリーダーだったロングタイガー、北海道のホワイトフォックス、北九州のスネークポイズンに人身売買を持ちかけてた黒幕は、イタリアンマフィアです。また、そのマフィアはイスラム過激派に資金援助してるのです。ですから、日本にテロ行為を仕掛けて来る可能性があります。それと、みなさんも狙われる可能性があります。」
 織田がそこまで話しを進めると、二郎がやって来た。
「すみません、遅れました。でも、益田さん、正直言うと困るんですが。あっ、あ、すみません。」
 ただならぬ雰囲気と、初見のクールな大人の男性が2人も居るのに気がついて、言葉を止めた。
「急に申し訳ないないです。私は、イタリア日本大使館に席を置く織田有造です。林田二郎さんですね。掻い摘んで言いますと、日本で行われてた人身売買は、イスラム過激派の資金源の一部だったことが分かりましたそして、日本、みなさんがテロの標的に成り兼ねないと言う事です。林田さんがいらっしゃるまでに、ここまではお話しさせて頂きました。では、続けますね。」
 二郎は驚き、益々、声を出せず頷くだけだった。
「実は、日本政府は、横井さん、益田さんの働きかけを、ここ、防犯研究所を特殊な組織と認めています。良い意味でです。しかしながら、ロングタイガーを惨殺してしまいました。それは、目を瞑るとして、その代わり、テロ対策に参加して頂く事になります。これは、強制的に参加してもらいます。日本でのテロ活動を未然に防ぎ、その危険性がゼロになるまでです。ご理解出来ますね。致し方ありません。」
 最後は、強い口調で話し、織田は口を詰むんだ。
「私は、法務省特命テロ対策室室長の室井達郎です。織田さんから話しがあったようにテロ対策に参加して頂きますが、横井さん、益田さんをはじめ、みなさんはこれからテロ対策本部の宿舎で生活してもらいます。」
 織田に継いで、ライトグレーのスーツに真っ白なワイシャツ、紺色のネクタイをした、欠点が無さそに見える室井が話し出した。
「林田さんに関しては、大学病院には、法務省の外国人犯罪者の精神鑑定医に就いてもらい、犯罪心理の研究に携わってもらうと通達します。すなわち、令高大学医学部付属病院から特別に法務省へ派遣すると言う形を取ります。それと、梅木翔子さんはあなたのアシスタントの看護師として、勤務してる病院に通達して参加してもらいます。これはですね、みなさんをマフィアとテロリストから身を守る対策でもある訳です。私見ではありますが、これはあなた方の正義感から招いた反社会的勢力を壊滅させるために殺害と言った手段を取った功罪です。もしも、我々に協力しないと言うのならば、刑事事件としてみなさんを逮捕し、豚箱にぶち込みます。恐らく、今の生活を続けるよりは、殺される確率は減るでしょう。理解できますね。ここまでみなさんを特別優遇するのは、それぞれ高い能力をお持ちだからです。我々もみなさんから学ぶ事があると期待もしてます。国益、自国民に損害が及ばないよう、当面は我々と仕事するという事です。宜しくお願いします。」
 室井は若干、感情的になりながらも、横井や益田、二郎、加藤、神路三姉妹に好意的な表情で言い放った。
 7人全員が言葉を失った。特に、神路三姉妹はばつが悪い表情を浮かべた。しかし、独りだけ違っていた。
「室井さん、質問宜しいでしょうか?」
 加藤は言った。
「はい、なんでしょうか?」
 室井が加藤に顔を向けそう言うと、全員が加藤を見つめた。
「いつから、宿舎に入るんですか?」
 加藤は興味津々な表情で室井に聞いた。
「これから直ぐです。」
 室井は即答した。
「家には戻れないの?」
 加藤は緊張感があまり見られず、困った顔でそう言った。
「はい、戻れません。ですが、宿舎の部屋に入ってもらったら、その部屋に置きたい自宅にある私物をリストアップしてもらいます。そして、係の者がご自宅から回収する事になります。横井さんと神路さん達は、持ち家でありますから、当局で管理します。予定としては、益田さんと加藤さんが宿舎に持ち込まない私物は、横井さん宅で保管します。林田さんと梅木さんは神路さん宅で保管します。ですから、益田さんと加藤さんの賃貸契約してるマンションは契約解除の手続きをします。林田さんと梅木さんは職員寮ですから、退寮手続きをします。いずれも当局が進めて行きますのでご安心下さい。」
 室井は、みんなが安心するように表情を和らげ、加藤の質問に答えた。
「他に今すぐ聞きたい事はありますか。今日はこの後、マイクロバスが迎えに来ますので、それで宿舎に向かいます。到着したら、丁度お昼時なので、昼食を召し上がってもらいます。その後、部屋割りをして、搬入する私物のリストアップをしてもらい、16時から格闘技トレーニングです。これには横井さんと益田さんは自由参加です。私の部下を指導して頂く形になるでしょうか。今日のスケジュールはざっとこんなもんです。」
 室井が話し終わると、表には迎えのマイクロバスが来てて、早速、乗り込み、宿舎へ向かった。
「言い忘れてました。みなさんの携帯電話は回収します。電源を切ってお預かりしますので。代わりに、新しい携帯電話をお渡しします。宿舎に着いてからですね。」
 マイクロバスが走り出し、程なくして、室井が言った。また、張り詰めた空気に変わった。独りの男以外は。
「室井さん、俺、日本代表返り咲きですよ。嬉しいなぁ。まぁ、マフィアとテロに負けないように頑張りますよ。」
 加藤が、また、ズレた事を言った。
「情報通りですね。加藤さん。あなたみたいな方、嫌いじゃないですよ。今回は、表舞台には出ない、裏の日本代表ですけど、良いですか?」
 みんなが呆れる中、織田が言った。
「えぇ、構いませんよ。なんか、日の丸の付いたグッズ、もらえますかね?」
 みんなはクスクス笑った。
「加藤、ご機嫌だなぁ。」
 横井が言った。
「加藤さん、残念です。有りません。」
 室井が言った。
 こんなズレ過ぎる加藤の質問で、バスの中の空気は一瞬だけ和んだ。
 車窓では、通勤ラッシュが落ち着き、普段の日常が流れてた。それに反し車内では、度が過ぎた正義で、個々が敷いたレールから降ろされた者達が、行き先を見失しないかけ、非日常が流れてた。
「二郎君、私、拉致られたって思ったよ。信じられないんだけど。ここで暮らすの?理由は聞いた?」
 翔子が宿舎の出入り口近くの応接スペースでソファーに座りテレビを見てた。すると、出入り口から入って来た織田と室井の後についていた二郎をみつけ、そう言った。
 因みに、この施設は、首相官邸の地下に位置してて、マイクロバスは、国会議事堂の正面で停まり、議事堂の中に入ると、女性用トイレの隣にある施錠された鉄の防火扉から入り、階段を一階分降りて、そこからは階数の表示が無いエレベーターで、更に、二、三階降りて着いた場所だった。
「翔子、先に連れて来られてたんだ。申し訳ないね。研究所の仕事で、こんな状況になってしまって。でも、翔子もここに居る方が安全だから。」
 二郎は、翔子に言った。
「翔子ちゃん、ごめんなさい。私達姉妹がこんな状況にしてしまって。ほんと、ごめんなさい。」
 姫子が翔子に謝った。側に居た美里は、両手を下腹部の前で合わせて頭を下げた。その隣のサキは、顔の前で両手を合わせて頭を下げた。
「いえいえ、みなさんも一緒で安心します。」
 翔子は言った。
 二郎達には、新しいスマホが配られた。自由に使って構わない事とお互い連絡が取り合えるように言われ、また、室井や織田からも連絡が入る事になる事。預けた携帯の番号や知人、友人の電話番号等は登録しない事が言われた。
 昼食は、このフロアにある食堂で、ブッフェ形式になっていた。高級な食材や豪華な料理ではないものの、誰もが口に合う味付けの料理だった。一番喜んだのは、言うまでも無い、翔子だった。また、室井の部下達五人も一緒に食事を共にした。会話は無く、皆、翔子の食いっぷりに釘付けになった。厨房の中に居る調理師達も注目していた。大学時代にテレビやYouTubeに出ていた翔子を知る者も居て、直ぐに人気者になった。昼食を終えると、部屋割りが伝えられた。
「みなさん、部屋割をお伝えします。私は、特テロ室の和久井です。宜しくお願いします。先ず、この施設ですが、このフロアを4階と定めております。ですから、ここより下に3フロア存在します。住居スペースは、1階と2階の半分になります。合計、40人が生活可能です。すなわち、40部屋用意できる構造です。この施設の一番の目的は、有事の際に、天皇のご家族、総理大臣をはじめ各大臣、最高裁裁判官、日弁連会長および副会長等、国を統治する事を機能させるための人物を収容する事です。ですから、各部屋には基本的な日用品は揃ってます。ご自由にお使いください。では、みなさんのお部屋は、1階に神路姫子さん、美里さん、サキさん。それと、林田さんと梅木さんは2人部屋を用意してます。次に、2階は、名前をお呼びしてない、横井さん、益田さん、加藤さんです。鍵とご自宅から持ち込みたい私物リスト用紙をお渡しします。現在の時刻は、13時30分です。16時に3階のトレーニングルームにその用紙も持参してお集まり下さい。トレーニングウェアは既に各部屋に用意してますので、それをお使い下さい。」
 和久井が滑らかに話し、鍵と私物リスト用紙をそれぞれに手渡し、エレベーターホールに案内して、一緒に。2階、1階に降りた。
「サキちゃん、俺と同部屋なんてどう?」
 エレベーターの中で、加藤らしい言葉を発した。
「力士じゃないの、ワ・タ・シは。」
 サキは軽くビンタして、その言い草をつき返した。
「加藤、いい加減にしなさい。」
 益田に怒られた。
「私のところ、たまには遊びに来て良いですよ。囲碁の相手してください。」
 美里は怒られた加藤をからかった。
「囲碁、ですか、五目並べ、なら、へへ。」
 加藤は、囲碁なぞした事がない。五目並べもだ。しかし、断る事も出来ずに苦笑した。
「えぇ、カトちゃん五目並べも出来ないじゃなぁい。アハハ。」
 サキは加藤に失笑した。
「絢ちゃん、俺さぁ、未だに洗濯機だけ使った事ないんだ後で教えてもらえるかなぁ。」
 横井は言った。
「えっ、独りやもめになって何年だっけ?」
 益田が聞いた。
「15、16。15年以上かな。3日に1回は洗濯屋に頼んでたからさ。」
 横井は言った。
「勿論、教えてあげる。今の洗濯機は簡単よ。それはそうと定さん、トレーニングには出るの?」
「一応な。疲れが溜まらないくらいは身体動かした方がいいよ。若い連中とも交流したいしな。絢ちゃん、独りやもめってのは女の独りもんに使う言葉だよ。因みにな。」
 横井は言った。
「地下で暮らすなんてどうなるだろう、日焼けはしないからいいけど、乾燥してるかしら、いや、湿気が多いかも。化粧道具持ってきてもらわなくちゃ。MEDIHEALのフェイシャルパックは必ず持って来てもらうんだから。」
 姫子はぶつぶつ1人事を喋ってた。
 みんなの人となりが散らついて、部屋へ案内する和久井は親近感を抱き、これから何ら問題が起こらないよう考えていた。
 二郎と翔子が部屋に入ると、満腹な翔子は、ベッドに横になった。
「二郎君、横にならない。普段より沢山食べちゃったよ。急にこんなとこに連れて来られるなんて思いもしないから、ヤケになったわ。」
 翔子が愚痴を溢した。
「そうだな。でも、前向きに考えよう。ここの生活が終わったら、また、同じ職場に戻れるんだから。」
 二郎も翔子の隣りに横になりながら、そう言った。
「そうね。」
 翔子はそう言うと、目を閉じ、寝てしまった。二郎は翔子の寝顔を見て、同じように目を閉じた。
 30分ばかり経った時、二郎のポケットに入れてたスマホの着信音と連動する振動で2人は目を覚ました。
「室井です。林田さん、お部屋ですか?梅木さんもご一緒ですか?」
 慌てて電話に出ると、室井からだった。
「はい、部屋に居ます。翔子も一緒ですよ。」
 二郎が答えると、翔子は驚いた表情で二郎を見てた。
「確認させて頂きたい事があるのですが、10分後にそちらに伺っても構いませんか?」
 何の音もせず、鮮明に室井の声だけが聞こえて来た。
「確認?はい構いませんよ。」
 二郎は答え、電話を切った。
「なんて、二郎君?誰?」
 翔子は眉間に皺を寄せてた。
「室井さん、僕達に確認したい事があるらしい。10分後に部屋に来るってさ。」
 二郎は言った。
「僕と翔子ちゃんとを確認したい訳だから、共通点を考えるとやっぱり、独りじゃないって事かな。」
 一文字さんが代わって言った。
「私もそう思う。高い能力を持ってるから、とか言ってたしね。」
 ユキが代わって言った。
「婚約してるかどうかじゃなーい。いやだー。恥ずかしいわよねぇ。」
 杏が久し振りに出て来た。
「久し振りね、杏ちゃん。大丈夫よ。私達がついてるからね。」
 歌音は、翔子から杏に代わると、強く不安を感じてる状態だと察してて、そう言った。
 ドアをノックするのが聞こえて、二郎に戻り室井を部屋に入れた。
「すみません。休憩してる時に。」
 室井が言い、4脚の椅子がある正方形のダークブラウンの木目調のダイニングテーブルに、二郎と翔子も座って欲しいジェスチャーを交えてそう言った。
「えっと、お2人の資料を読まして頂いててですね。ちょっと疑問に思った事がありまして。森川組を解散に追い込んだ時の件なんですけど。覚えてらっしゃいますか?」
 室井が話し始めた。
「はい、僕の異父兄弟で兄が居た暴力団です。覚えてますよ。」
 二郎は答えた。
「捜査員達がガサ入れした時には、森川組の連中は既に動けない状態だったらしいです。益田さんに聞くと、恐らく林田さんだろうって教えてもらったんですけど、事実ですか?」
 室井は動揺見せずに聞いて来た。
「はい、僕達がやりました。」
 二郎は答えた。
「えっ、梅木さんとお二人で?」
 流石に室井は驚き、聞き返した。
「いや、翔子はその時、自宅でしたから。知人の食堂の店長とそこの店員さんと3人で。」
 二郎は答えた。
「でも今、僕達って?言われましたよね。」
 室井が確認した。
「僕は、6人格でこの身体一つで生きてます。」
 二郎は言った。
「えっ、え、多重人格って事ですか?」
 室井は眉毛を持ち上げ額に皺を寄せ聞いた。
「はい、そうです。信じられないと思いますが。森川組を襲撃した時は、主に、僕らの二人でやりました。代わってみますか?」
 二郎は言った。
「は、はい。お願いします。」
 室井は動揺を隠せないで居た。
「あの時は、俺が奴らを蹴散らして、3階から逃げる時は、身軽な俺が、窓から飛び出したんだけど。」
 シンジ君、佐助に代わってそう言った。
 室井は目が点になり、大きく開いた口は数秒間閉じれなかった。
「あの頃は、身体まで代われなかったんですけどね。いつの間にか、代われるようになったの。」
 歌音とアヤナミが代わって言った。
「それで、二郎が研修医の時に全身のMRI画像を撮ったんです。そしたら、大脳皮質の運動野と感覚野。それと、海馬と扁桃体が他の健常者よりも大きくて、神経細胞も多かったです。それと、女性になると、生殖器の形状、胸の形状は変わりますが卵巣、乳腺は存在しません。」
 一文字さんに代わり、二郎に戻ってそう言った。
「が、あ、うん。凄いですね。はい、ちゃんと見ました。女性にも代わるんですね。」
 室井は言った。
「あっ、室井のおじちゃん、歌音とアヤナミのどこ見てたのよぉ。エッチねぇ。」
 翔子は杏に代わって言った。
「へ、へっ、梅木さんも。」
 室井は椅子に腰掛けたまま、腰を抜かした。
「すみません、驚かせて。私達は3人です。解離性同一性障害でした。治療を受けました。治療前は、何人居たか分かりませんけど。」
 ユキが言った。
「ほぉー、素晴らしい。大変ご苦労なさったんでしょうね。医師になられて。助産師になられて。貴重な方々です。お仲間のみなさんは、ご存知何ですか?」
 室井は、感心した表情で腕組みをして聞いた。
「僕の事は知ってますみんな。翔子の事は、特に言う必要ないので。特に、言ってませんけど。」
 二郎は答えた。
「じゃあ、梅木さんに関してこれまで通りで。この後、トレーニングがありますから、私の部下には伝えてて構いませんか?その方が彼らもやりやすいと思うんですが。」
 また、室井は聞いた。
「その方が良いですね。僕らも動き易いですから。」
 二郎は答えた。
 室井は二郎と翔子に握手をして部屋を出て行った。
「翔子、何かあれば僕が守るから安心してよ。こんな状況だしょうがないよ。なるようになるさ。」
 二郎は翔子の不安を取り除きたく、そう言った。
「分かった。私、大人しくしてるね。」
 杏が言った。
「ありがとう、いつも。」
 翔子に戻って二郎に言った。
 そして、また、ベッドに戻って二人で目を閉じた。
「では、みなさん宜しくお願いします。私の隣りから、宮里、辰吉に鬼龍院、大垣です。一番格闘技の経験が長いのが宮里と辰吉です。それぞれ、琉球古武術の有段者で宮里はプロボクシングのライセンスも持ってて、辰吉は柔道も合わせて一二年の経験があります。私と鬼龍院、大垣は空手とテコンドーを五年程習ってました。今は、宮里と辰吉に琉球古武術を指導してもらってます。みなさんの中では、林田さんと加藤さん、神路サキさんが格闘技の経験がおありだったですかね。」
 16時になり、トレーニングルームに室井の部下、五人と二郎と翔子、研究所の6人.合計13人が集まり、和久井が特テロ室の他の4人を紹介した。
「じゃあ、先ずは我々の格闘技経験者と特テロのみなさんの実力を確認し合いませんか?」
 加藤が楽しそうな顔で提案した。
「そうですね、未経験の方もいらっしゃいますし、横井さんと益田さんは、我々のブレインになって頂きますから、見て頂いて。その後どうやってトレーニングしていくか考えていきますか。」
 加藤の提案に対して、和久井はそう答えた。
 このトレーニングルームには、20畳程のマットが敷かれてて、エアロバイクにトレッドミル、ウェイトトレーニング用のダンベルやバーベルにベンチ等が揃ってた。
「じじぃは、自転車こぎしながら見てていいかい。」
 横井も楽しそうな表情で言った。
「熟女もそうしまーす。」
 益田も横井に倣って、エアロバイクに向かった。
「カトちゃん、先鋒ね。」
 サキが加藤の背中を叩いた。
「宜しくお願いします。」
 辰吉が出てきた。ベッドギア、オープンフィンガーグローブ等、全身のプロテクターを側の棚から出して来た。
 2人の戦いが始まった。MMAのルールで5分1ラウンドで和久井がレフリーをした。
 辰吉が身につけた琉球古武術は、実践的な武術である。琉球王朝時代に首里や那覇の士族が実戦を通して開発、発展させたもので、武器を持ち攻めてくる大人数の敵を、武器を持って対峙すると言った理念で、槍や棒、ヌンチャクやトンファー等用いて一撃必殺の技が研究され発展した。また、徒手拳術、いわゆる拳は勿論、全身を武器にする戦術もある。なので、沖縄空手も熟せるのだ。すなわち、武器が無い時のために、鍛えた指先や爪先、腕、腿、全身を武器にして戦える。また、人体の急所である目、喉、各関節、金的等を如何に破壊するか、自分の身体を武器を使う時の動作に似せ攻撃する。そして、防御する時も相手の身体にダメージを与える戦略を持つ武術だと言える。
 加藤は、爪先に多く体重をかけ、辰吉を中心に弧を描くようにゆっくり動いた。
 対する辰吉は、そう動く加藤に自分の身体の正中線を向け続けるように右脚を軸に左脚を動かして回転した。すると辰吉は仕掛けた。左に弧を描く加藤に辰吉は左脚を1歩出した。加藤が足を止め、逆方向に動き出す瞬間に右脚でローキックを出した。加藤の左太腿にヒットするかと思いきや、膝と爪先を上げ、足の甲と脛でL字を作り、辰吉の素早く動く右脚を往なし辰吉の身体が半身になるように更に右側に自分の足と地面に着きながら膝を曲げ、辰吉の右膝を折りバランスを崩した。辰吉の上体が後ろに倒れかけると、加藤の右腕は辰吉の首に顎の下から回し入れ、背中に抱きついた。2人はそのまま、後ろに倒れ込んだ。加藤は瞬時にチョークスリーパーを極めた。辰吉の顔は青白くなり、加藤の腕をタップした。
「一本、ヤメ。」
 レフリーの和久井は叫んだ。秒殺だった。周りで見てる二郎以外は『オォー』と、声と拍手が沸いた。
「参りました。加藤さん。空手のレジェンドだと思ってたんですけど。色々熟すんですね。これからご指導お願いします。」
 辰吉は言った。
「次鋒は私でーす。人の名前覚えるの苦手で、あなたどう?」
 サキは唯一女性の大垣に声をかけた。
「望むところです。大垣です。」
 2人がプロテクターとベッドギア、オープンフィンガーグローブを着けた。
「始めっ。」
 和久井が言った。
 大垣は、サウスポースタイルで軽くその場でステップを始めた。サキも同じようにサウスポースタイルで構えたが動かない。空気が張り詰め、大垣がステップする音しか聞こえなかった。
 サキが仕掛けた。右ジャブを出し、拳を戻す瞬間、大垣が左ストレートを繰り出した。大垣は、右脚を大きく踏み込む、左拳が充分当たる距離となりサキの顔に誰もが当たったと思った瞬間、右に顔を向けながら左斜め前にサキは左足を出し、体勢が低くなり右手で大垣の左上腕突き上げ左肘を右胸に入れた。
 大垣は左後方へ吹き飛ばされ、二回転後ろ回りで転がった。
「ストップ。大丈夫かっ。」
 和久井が大垣の側に近づいた。
「ごめん、大垣ちゃん。大丈夫?」
 サキも近づいた。
「大丈夫です。強すぎる。初めてです。こんなに飛ばされたのは。参りました。サキさん、教えて下さい。私、強くなりたいです。」
 大垣は言った。
 二郎と加藤以外は唖然としてた。最早、横井と益田は、エアロバイクをこげないで居た。
「林田さん、お願いします。」
 とても緊張した顔でプロテクターを着て宮里が言った。
「室井さんからお聞きしました、僕の事?あ、僕はプロテクター要らないので。」
 二郎は言った。
「は、はい。聞きました。」
 宮里は、特テロ室のメンバーの顔を見ながら答えた。
 二郎は、ジャージーの上着を脱ぎ、マットの端に置いた。宮里の方を振り向くと、シンジ君に代った。タンクトップ姿の身体は、身長が高くなり両腕両脚の筋肉が太く盛り上がった。胸板も厚くなった。ゆっくりマットの中央に向かって歩き仁王立ちした。
「オォー。」
 特テロ室のメンバーから声が漏れた。
「始めっ。」
 和久井が声を張った。
 シンジ君は、微動だにせず宮里に目を合わせた。宮里は左右の拳を握り胸の高さまで上げ、左腕を少し前に出して、右足を前に着いて構えた。2人は1分間動かなかった。宮里はその間3度固唾を飲んだ。シンジ君はゆっくり宮里に向かって歩いた。
「宮里さん、動けなくなったね。」
 宮里のこめかみから汗が垂れた。シンジ君は軽く右肩をポンポンと叩いた。
「動けません。すみません。」
 宮里は言った。
 仕方なくシンジ君は、ジャージーの上着を取りに行った。すると宮里は動けるようになった。
「私が相手します。」
 上着を着て、振り向くとアヤナミに代ってた。
「えっ。」
 大垣だけが声を出せた。
「宮里さん、行くよ。」
 アヤナミが言うと、素早く宮里の20cm前まで移動して顔に四発、左右の脇腹に四発、パンチを寸止めした。
「すみません。」
 宮里は再び凍りついた。
 アヤナミは1m程下がると歌音に代った。そして、恐ろしく速い上段蹴りを左右2発づつ寸止めした。宮里は動けず、腰を抜かしマットに尻を着いた。
「ごめんなさい。バケモノで。」
 歌音は言った。
「僕らには敵わないよ。きっと、世界最強のつもりなんだけど。」
 佐助に代わって、壁を垂直に5歩走りながら言った。マットに降りると隣りの壁を一蹴りして天井を五歩走り着地した。
「すみません。僕らは6人です。室井さんから聞いてたと思いますけど。どんどん身体能力も何もかも進化してます。漫画みたいですよね。」
 二郎に代わってそう言った。
「辰吉さんは、Core Muscles をもっと鍛えて八卦掌を加藤君から学んで下さい。大垣さんもそうですね。後、上半身の筋力アップ、サキさんからキックボクシングを習って下さい。宮里さんも辰吉さんと同じように。和久井さんと鬼龍院さんは、筋トレと二郎とのスパーリングがいいですね。後、翔子ちゃんと姫子さん、定さんと絢子さんは、シンジ君が太極拳教えますので。みんな直ぐ強くなりますよ。」
 スマートに一文字さんがみんなのトレーニングを指示した。
「じじぃと熟女も強くなれるのかい?」
 横井が聞いた。
「勿論。きっと、自分でも驚きますよ。」
 一文字さんは言った。
「凄い、頼もしい。想像以上ですよ。私も太極拳がいいですかね。ハハハ。」
 室井がトレーニングルームに入って来て、嬉しそうにそう言った。
「衝撃的な日になりました。我々は言葉になりませんが、林田さん達と過ごす事で、最強のteam、One Team になれそうです。和久井、宮里、辰吉、鬼龍院、大垣、頑張れよ。今日のトレーニングは終わりにしましょう。18時から夕食になりますので、食堂で懇親会をします。勿論、アルコールもあります。梅木さん、料理も沢山用意しますからね。明日からのスケジュールを作りましたのでこれに目を通してて下さい。お疲れ様です。」
 室井は笑顔で全員の顔を見て言ったが、目には涙を浮かべてた。

つづく



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