K.H 24

好きな事を綴ります

重力 ルーラー⑫(最終話)

2020-06-05 22:08:00 | 小説



⑫決断

 中平の恐ろしいまでの執念に圧倒された巫女代は、世界中の状態を見廻った。恐ろしい状況で、先に、核爆弾が投下された場所は、地獄のような状態。その他の国々は、戦争の準備をしていた。流石の巫女代でも困惑した。一旦、信子の基に帰り相談する事にした。その前に、あの2人だけでも助けたかった。

「みなさんも集まってもらってご意見を聞きましょう。」
 顔が青ざめていた信子は、血色が戻り冷静になっていた。
「人間は罪深い存在だ。信子殿、己はよく時空を駆け巡っているものだ。私には出来ぬ業じゃ。」
 信子が宮司も呼び、巫女代の話を聞いていた。
「巫女代、ここはどこ?突然連れて来られたから。」
 巫女代は捜査一課の絢子と志水を一緒に連れて来た。
「神社?どこだろう?ここ?」
 絢子と志水は、目線を合わせたり、周りを瞬きさせながら見回し、そう言った。
「私の祖先がお勤めしてる神社です。2人だけは、どうしてもお世話になったから、恩人だと思ってるから。」
 巫女代は絢子と志水を優しい表情で見つめた。
「あ、ありがとう。うん、分かった。将臣さんに橙子さんも。そうなんです。我々の世界は、もう駄目かなぁ?私は覚悟してましたが。」
 絢子は表情を曇らせた。
「中平議員には、敵わないですよ。僕は奴等が動き始めた時、絶望しかなかったです。自分の微力に嫌気がさしてました。」
 志水も心身ともに暗く沈んでいた。
「鳥肌立って来た。でも、ここに来れて良かったわね。これからどうなるか分からないけど、私達も一緒だから、ね。」
 橙子は絢子と志水を励ました。
「おぉ、お宅さんらが巫女代を世話してくれてたんだな。ありがとうございます。」
 将嗣はお礼をした。
「お2人も事態を収集しようと頑張ったんでしょ。いつも私達、庶民の味方で居てくれてありがとうございます。」
 信恵もお礼した。
「巫女代殿、この方々は己の恩人と申すのか。どんな生業を営んでおられるのかな?」
 宮司も気に掛かっていた。
「はい、宮司様。このお2人は警察官で罪人を捕らえる生業です。丁度、この時代で言うと町奉行みたいなものです。」
 巫女代は自慢気に言った。
「そうなのか高いご身分でござるか。巫女代殿にとっては、頼もしい味方じゃのう。」
 絢子と志水は恐縮した。
「では、宮司様にはご多忙な所、お越し下さったのですから早速、今後について話し合いましょう。益田さんと加藤さんは、空腹のようですので、何かお食べになられながらすすめます。巫女乃さん、鹿肉の味噌漬け、お出ししてくれますか?」
 信子は、絢子と志水を気遣った。
「さっきから気になってたけど、巫女乃さん、巫女代ちゃんにそっくりだぁ。」
 志水は思わずに口にした。
「巫女代の叔母です。宜しくお願いします。」
 その志水の言葉を巫女乃は拾ってあげた。
「先ずは、将嗣さん、将臣さんの自宅は焼き払われたという事、核爆弾が10基以上投下された事、この2点で私の子孫のみなさんと益田さん、加藤さんは、当分、ここに滞在した方がいいですね。そして、爆弾投下をどう処理するか何ですが、意見を伺いたいのですが。」
 信子は、リーダーシップを取り、話し合いを進めた。
「信子殿、その爆弾なるものは、我らに影響があるのかね。」
 宮司が初めに質問をした。
「はい、原子力爆弾と申しまして、爆発力は計り知れぬものに加えて、その時に放射能なる物を大量に発生させます。その放射能は、微量ですがこの空気中に存在します。量が多過ぎると不治の病を患うとの事で、我々が生きる事が出来ない世界に変わってしまいます。」
 信子は分かり易く宮司に答えた。
「未来人はそんな恐ろしい物を作ってしまうのか。哀れじゃ、哀れじゃ。」
 宮司は呆れてしまった。
「信子さん、中平を消すしかないのでは?」
 志水は短絡的に問うた。
「それは、簡単な事です。しかし、あの人は味方も敵も沢山抱えてます。そうなると、私か巫女代が手をかけると、謎の死となります。多分、第二、第三の中平が出現する事が予想されます。現状では鼬ごっこでしょう。」
 志水は納得した。
「中平さんは、ある意味被害者でもあるのです。国会議員選挙に出た当時から、周辺の腹黒い輩に利用されてたそうです。そして、ご家族にも多大な被害を被ったようで、お子さんの中には、精神疾患を患ったって人も居るみたいです。逆恨みと言えばそれまでと思いますが、我々の時代のインチキ政治家、インチキな統治システムが生み出した悪魔と言っても過言じゃないと思います。」
 巫女代が付け加えた。
「人間社会なんてそんなもんだよ。父さんだって嫌んなってさ、会社辞めたんだから。」
 将臣は落胆した。将嗣と信恵も苦い顔つきになってた。
「人間ってそんなもんよ。1日3食を勧めたのは、あのエジソンが自分の電気製品の購買意欲を高める為にって噂話があるもんね。偉人なんて言われたる人達も所詮、欲張り。」
 橙子は眉を細め、愚痴のように早口で言った。
「講談師、マツノジョウだったかしら、グレーゾーンなんて新作を作ってたから。この世の中騙し合いですよ。」
 絢子が怠そうにした。
「正直者は馬鹿を見るもんね。」
 信恵もボヤいた。
「みな様方の言の葉を聞いとると、私は心苦しゅうてならない。私も忙しさにかまけて将十郎殿に甘え、それが無残な結果を招いた。」
 宮司は涙を流した。
 巫女代は言葉を失った。どうしたらこの事態を治める事が出来るのか迷っていた。信子も同じように考えていた。
「一度、リセットしたら?」
 志水がどこを見てるか分からない目線で言った。恐らく、絶望を感じていたようだ。
「大丈夫、志水。あんたとち狂った事言わないでよ。しっかりして!私はお前が居ないと生きて行けないだからね。しっかりしろ!」
 絢子は、思わずと言うか、素直に志水に本心を打ち明けた。
「加藤さん、私に任せて、絢子さんを困らせちゃ駄目!」
 巫女代も怒鳴った。
「加藤さん、そうですよ。あなた方2人に初めて出会った時に、あなた達の絆を感じてたわ。ほんとよ。」
 橙子も志水を励ました。
「巫女代、やり直して良いと思うが。人間はどうしてこんな生き物になってしまったのか。始まりを止めたらいいんだよ。そうなれば、我らがこんな思いをせずにすむ。悪魔を産む社会も無くなる。かな。加藤さん、あなたは、素晴らしいお人だ。絢子さんに愛されておる。素直に絢子さんに委ねれば良いと思うぞ。」
 将嗣の言葉は説得力があった。
「あ、あ、絢子さん。ありがとう。」
 志水と絢子は抱き合った。
「巫女代ちゃん、私は何も出来ないから、この痣、私は受け入れられなかったから、お願いね。悲劇を止めて。」
 ずっと黙ってた巫女乃もとうとう言葉を発した。
「ふぅ、じゃあ、私が止めて来ます、ビックバンを。」
 巫女代は決断した。
「えっ、ビ、ビ、ビックバンを止める?そんな事出来るの?宇宙の始まりを止めるの?」
 絢子は驚いた。想像もつかない言葉だった。
「巫女代殿、ビック、バン、とは何者じゃ?宇宙とは?」
 宮司は呆気に取られた。何の話だか全く見えない。
「宮司様、我々が生活を営んでるこの地は、後に誰もが知る事になるのですが、球体になっていて、お日様の周りを回転しながら周回しているのです。だから朝は東からお日様が昇り、西に沈み、夜になります。そして、我が球体の回転軸は上から下へと垂直な線ではあらず、傾いてるが故、お日様の光の当たり方がある一定の期間で徐々に変わります。それが四季を作っております。暖かい春、暑い夏、冷たい秋、寒い冬でございます。想像つかないと思いますが、未来では、色々な事象が証明されて行くのです。しかしながら、私や巫女代の持つ力は気づかれておりません。ましてや私の存在は未来人には分かる余地もありませぬが。そんた色々な事が発達した未来では、国同士の戦が多くなります。我が国は島国でありますが、東の海の向こうの大陸にある国は勿論、西の海のずっとずっと向こう側にある国とも戦をする始末です。そんな中、戦の度に色んな事を発展させて行くのです。そして、今回は、未来からお連れした方々が懸念される、核爆弾が沢山使われる。すなわち、我々のみならず、犬や猫、猿、虫達も生きていけない環境になってしまう訳です。ですから、我々が生を受けたこの球体の地が生まれ出す瞬間を止めよう。我々の始まりを止めようと言う考えであります。」
 信子の熱弁は宮司に伝わった。
「なるほどよのう。核爆弾なる物を使ってしまえば、自ら命を断つと言う事か。いや、待てよ、始まりを止めても手段は違えど、同じ事ではないのか?」
 信子の話を聞いて、目を瞑り、頭の中を整理してた宮司が1、2分後に目を開き、新たな疑問を投げかけた。
「宮司様、確実とは言えないのですが、もしも、私が始まりを止めたとしても、一時的な物で、その後どれくらいかかるか分かりませんが、始まりは始まります。きっと。」
 巫女代が答えた。
「うん、うん、それを止めたとしても、また、似たような条件が揃えば始まるだろうと言う事か。じゃが、己等も含め、みな消えて無くなるのでは?」
 宮司は再三、疑問を投げかけた。
「宮司様、私の事をお気遣いされてますか。こんな事情ですから以下仕方ないと存じます。」
 巫女乃は意味深な言葉を発した。
「先程も巫女代が答えたように、確実ではありませぬが、私と巫女代は別の世界、時空の狭間に身を置く事が出来ます。そして、お互いにもう1人づつ連れて行く事が出来ます。巫女乃も連れて行けば、新しい世界で初めての赤児が産まれる事となるでしょう。」
 信子は知っていた。宮司と巫女乃の間に子を授かった事を。巫女乃は頬を紅潮させ。巫女代は信子に目を向けた。将嗣と将臣ら、他の人達は驚いた。
「信子様、それでしたらどうか巫女乃を連れて行って下さい。巫女代は宮司様をお連れして。」
 将嗣は咄嗟にそんな言葉を口にした。
「いやいや、わしは歳を取りすぎとる。若者を連れていって、そう、加藤殿か、加藤殿がいちばん若くて適しとると思うが。どうじゃ加藤殿?」
 宮司は遠慮し、歳の若い志水に話を振った。
「そうよ志水、男手が必要になる筈だから、行って来なさい。」
 絢子は涙目で志水を後押しした。
「私も賛成するわ。加藤さん、新しい世界ではあなたの種が貴重よ。うちの子に植え付けてね。宜しくね。」
 橙子は笑顔で言った。巫女代と志水以外は、クスクスと笑った。
「えっ、何言ってんのお母さん。」
 巫女代がそう言うと、笑い声が大きくなった。
「信子様、巫女乃、巫女代、加藤さん、平和な世界を作って下さい。決して、楽な事とは思いません。我々は、痛くも痒くも無く消えるだけだから、かえって楽ですよ。うん、そうだそうだ。」
 将臣は自分を納得させるようにそう言った。

 信子は巫女乃と、巫女代は志水と、それぞれシャボン玉に身を覆い、ビックバンが始まる数秒前の宇宙空間に移動した。巫女代と志水のシャボン玉の後ろに信子と巫女乃のシャボン玉が付いて、信子は巫女代達のシャボン玉に手を翳した。小さな光が灯った時、巫女代はその1点の光を消した。そして、信子はその瞬間に時空の狭間へ2つのシャボン玉を移動させた。
 その約千年後に、ビックバンは再開した。その間、時は止まり時空の狭間も動きが無くなった。巫女代達はシャボン玉の中で仮死状態で眠りについていた。いつ目覚めるのか自覚出来ないままに。

おわり




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