K.H 24

好きな事を綴ります

僕は何人も居る。みんなは独りなんだ。1-⑤

2019-12-14 21:52:00 | 小説
⑤梅木翔子を絶対助ける。
 僕と梅木はお互い忙しさが増した。特に、梅木は、テレビやYouTubeへの出演依頼が殺到した。僕とは、週に一回は会う時間を作ってくれた。その時は、大学の講義の復習で、梅木が分からなかった事を僕が教えると言う時間だった。大食いに行く、呑みに行く、一夜を共にする等は三ヶ月に一回くらいしか作れなかった。僕は、それで大満足だった。梅木は申し訳なさそうにする時もあったけど。
「ねぇ、二郎君、最近、誰かに着けられてるのよ。ストーキングされてるみたいなの、私。どうしたらいいかなぁ?」
 久し振りに梅木の部屋に泊まる事になった日に、枕を共にした時、梅木は言った。
「そっか、翔子ちゃん、大食いアイドルみたいな位置になったから、そんな事も起こっちゃうよな。僕が調べてみるよ。翔子ちゃんに変な被害がないようにするよ。任せて。今後のスケジュールは決まってるの?教えてくれるかな。」
 僕は冷静に言った。
 〝二郎、私、対策練るわ。〟
 アヤナミが言った。
 〝俺も準備万端だぜ。〟
 シンジ君も言った。
 僕は、梅木から教えてもらった彼女のスケジュールに合わせて、彼女が行く場所、移動手段、移動経路周辺の調査、彼女のファン達への聞き込みをした。最後は、SNSのファンとの写真からストーカーを判明した。
 先ず、梅木が撮影するお店、テレビ局、スタジオ周辺で、出入り口の環境を見て行った。身を隠しながら出入り口が見やすい場所を特定した。次に、移動経路をGoogle Earthで、道路から身を隠してカメラや双眼鏡等で走る車を見易い場所を特定した。そして、梅木を出待ちしてるファンが追って行くのを実際に試みた。
 移動経路では、特に、異常な状況は無かった。
 撮影場所では、盗撮のように遠くからカメラで梅木を狙う人が二人いた。その二人が使ってるカメラは同じものだった。一人が他のファン達に紛れて撮影を終えた梅木を出待ちしてるともう一人の男は遠くからカメラを構えてた。
 数名のファンにこの二人の男達の話を聞くと、ファン同士のオフ会で会った事は無いと言う事とこの二人が話しをしてる姿は見た事無いと言う。また、異様な雰囲気があると言う人もいた。
 SNSで梅木のファン達のページを見ると、一つのアカウントに、『イータークイーン梅木翔子の毎日』と言うタイトルを付けたものがあった。その写真には、梅木が撮影に行ったお店やテレビ局、スタジオ前等の画像が投稿されてて、交互にあの男達が写っていた。
 〝ここまで、分かればハッキングが早くないかな。この二人がどう連絡し合ってる、翔子ちゃんの事どう捉えてるか分かると思う。〟
 一文字さんが提案した。
 〝賛成よ。〟
 アヤナミが一言添えた。
 一文字さんがパソコンに向かった。ブラインドタッチで素早く操作した。
 あのアカウントへは2つの端末からログインしてる事。その2っの端末は主に、LINEで連絡を取りあってる事、ガラガラヘビとすっぽん仙人と言うハンドルネーム、勿論、電話番号と住所等、事細かな個人情報も突き止めた。そして、その2人の連絡内容には、具体的な日付けに2人で梅木を襲い、レイプする事、失敗したら殺害も厭わないとの内容があった。
 〝俺の本領を発揮する時が来たか。〟
 シンジ君が真剣に言った。
 〝そう、シンジ君の出番。〟
 アヤナミは言った。
 〝こんな時に、私達、身体が二つ、三つあるといいんだけど。シンジ君の能力は、あの二人から翔子ちゃんを守るのは出来ると思うけど。相手は武装してるだろうから、シンジ君が殺してしまわないか心配だわ。〟
 歌音が言った。
 〝そうなるかどうかは、その場でしか分からないと思うけど。先ずは、翔子ちゃんを守る事と自分の身を守る事を優先して行くべきだな。〟
 一文字さんが言った。
 〝彼らの計画は、梅木のマンションから50m離れた公園の雑木林に連れ込む訳だから、梅木が電車を降りたら、その公園に居るガラガラヘビにすっぽん仙人が連絡して、梅木を待ち伏せるから、駅近くですっぽん仙人がガラガラヘビに連絡した後、そいつを動けなくして、梅木よりも先に公園に入って、ガラガラヘビを動けなくしたらいい。シンジ君、出来るね。〟
 アヤナミは言った。
 〝ああ、行ける。多分、殺さずに済むと思うけど、どうかなぁ、俺の手加減次第だな。頸髄損傷は最低限負わす事になるけどな。車椅子生活だな。精神が崩壊しなければいいがな。〟
 シンジ君は言った。
 〝生かしておくべきよ。地獄の生活を味合わせばいいわ。あの二人には。〟
 歌音が言った。
 〝おい、おい、歌音、落ち着いてな。〟
 一文字さんが言った。
 いよいよ、あの二人の残酷な計画が実行される日が来た。
 ストーキングしてる様な男を確認した事は梅木に報告し、止めてもらう様に話し合いをするとしか告げてない。
 〝そろそろね。すっぽん仙人の動きを見逃さないで。〟
 アヤナミが指示した。
 何も知らない梅木は、安心した趣きでいつも通り電車から降り改札から出て来た。空かさずすっぽん仙人がスマホを片手で操作した。
 〝じゃあ、仕事して来る。〟
 シンジ君は言った。
 駅から三分程歩くと住宅街に入る。ここまで来ると街灯の無い路地が幾つもある。シンジ君はすっぽん仙人を尾行し、暗い路地に引き込むタイミングを図ってた。
 〝後、五分でケリをつけて。〟
 アヤナミが言った。
 シンジ君は、足音を立てずすっぽん仙人の背後に向かって走り出した。全く気づかれず背後を取り、同時に右側の路地へ左側から胴タックルし、口を押さえながら、暗がりへ突き押した。尽かさず、左手で下顎を持ち上げ、右手の拳を軸椎に当てた。下顎を持ってた左手を後頭部に移し、右手は軸椎の横突起を止め、左手で勢いよく前斜上に後頭骨を弾き、環軸関節を脱臼させた。すっぽん仙人の四肢は瞬時に麻痺し、動けなくしうつ伏せにした。声が出ないのを確認して、ガラガラヘビが居る公園に走り出した。アヤナミの指示を聞いて、3分も経たないうちにシンジ君は、すっぽん仙人を仕留めた。
 公園に着くと、ガラガラヘビは雑木林の直ぐ外側の暗がりに隠れてた。予想通りの場所だ。
 〝お兄さん。〟
 シンジ君は声をかけ、ガラガラヘビが顔を向けると、右手の拳で、下顎の左側にフックを入れた。ガラガラヘビの下顎は右側にズレ、左右の顎関節は脱臼し、脳震盪を起こし気絶した。脚を引っ張り雑木林へ引き込んで横向きに寝かせた。右足の甲をガラガラヘビの口に当て、両手で後頭部を前下方に弾き、環軸関節を脱臼させた。
 ガラガラヘビは気絶してるものの、四肢の脱力を確認して、素知らぬ顔で公園を抜け出し、梅木のマンションへ歩き出した。
 〝これで良いだろ、最悪は四肢麻痺になるよ、この二人。最低でも両手は不自由になるよ。〟
 シンジ君が言った。
 〝梅木に会ったら、その後、警察と救急に匿名で連絡すれば死なないわ。〟
 アヤナミは言った。
 〝じゃあ、二郎、翔子ちゃんに会ったら、一度駅まで戻るわよ。〟
 歌音が言った。
 〝シンジ君、見事だったよ。流石だ。〟
 一文字さんが言った。
 〝シンジ君、みんなありがとう。身体一つで充分だったね。僕らがチカラを合わせれば何でも出来そうだ。頼もしいよ。〟
 僕はみんなに感謝した。
 梅木のマンションに着いて、エントランス前で、梅木に電話をかけた。何処に居るか確認した。すると、マンションからの明かりで姿が見えた。
「こんばんは、翔子ちゃん、お疲れ。ストーカーは結局、居なかったよ。たまたま、翔子ちゃんの後ろを歩いてたら、翔子ちゃんだと気がついて、緊張して挙動不審みたいになったそうよ。それも、女の子だったみたい。だから、今度は勇気を出して、ちゃんと挨拶したいって言ってたよ。もう、安心だ。」
 僕が梅木に挨拶すると、歌音が瞬時に代わって、嘘を言った。
「良かったぁ、二郎君ありがとう。女子だったんだ。分かる気がする。私も、なぁんも考えてなくて有名人が目の前に居るって気づいたら驚くもんね。良かった、良かった。二郎君、お茶して行く?」
 梅木は安心して、僕を誘った。
「翔子ちゃん、ごめん。滋君から連絡があってさぁ、どうしても分からない問題があるって言うだ。でも、ストーカーは居なかった事、直接伝えたかったからさ。また、今度ゆっくりしようよ。」
 僕はそう言って、梅木がマンションに入るのを確認して、駅に歩き出した。
 先ず、公園に戻った。ガラガラヘビは、シンジ君が倒した状態のままだった。すっぽん仙人を仕留めた路地に近づくと、その近所の家に住む、主婦らしき人が、救急隊員と警察官と話しをしてて、すっぽん仙人は救急車で運ばれるところだった。それが確認出来たので、僕は駅に向かい、公衆電話からガラガラヘビが公園の雑木林で倒れてる事を匿名で通報した。
 すっぽん仙人とガラガラヘビの二人は、折り畳みナイフを持っていたのと、鞄の中に、LSDとMDMAを所持していた。この事から二人の自宅は家宅捜査を受け、大麻も発見され、小児ポルノ、盗撮と思われる女子更衣室やトイレの個室の動画まで出て来た。また、梅木をレイプしようとした計画も二人のスマホから明らかになった。駅や梅木のマンションまでの数台の防犯カメラで梅木との接触が無い事、二人のスマホと梅木のスマホで通話記録やメールで連絡を取り合った痕跡は無かった。
 警察は、この二人を大麻及び覚醒剤取締法違反で緊急逮捕した。また、折り畳みナイフを所持していた事、梅木を強姦する計画を認定し、殺人準備罪を起訴内容にまとめる方針で、捜査は進められた。また、救急車で一般の総合病院に搬送されたが、警察病院に搬送された。
 梅木は、警察から事情聴取する必要は無いと判断されたが、一度だけ、二人の写真を見せられ、何か被害を受けてないか確認された。
 しかし、男達の自宅のパソコンがハッキングされた事は明らかになったが、何処からハッキングされたかは、判明されなかった。一文字さんは完璧な仕事をした。
 結果的には、すっぽん仙人とガラガラヘビは、下肢の運動麻痺は回復し、歩けるようにはなった。上肢の麻痺は残り、手首に装具が必要で、物を持つのがままならなくなり、巧緻動作、指先で紙切れを摘む以外は、手先さえ自由に使えなくなった。

つづく


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