第弍什話 (婚)外 ※閲覧注意 性的描写あり
「サヨちゃんに先越されちゃいました、もう結婚なんて無理ですかね」
「何言ってんの、まだ二〇代でしょ、大丈夫よ、ここで出会いがあるかもよ」
「そうですね、まだ、諦めてはいけませんね」
三年前までは同じ会社の同僚だった、来年三〇歳を迎えるアリサと結婚一〇年目でアラフォーのヒデミが、もう一人の同僚でいちばん若いサヨの披露宴に招待されていた。
「それにしてもヒデミさんとマサトさんは安定なさってる感じですもんね、相変わらずスーパーでの買い物はお二人で、羨ましいです」
「たまに会うわね、まぁ、日曜日で一週間分の食材を買い溜めするから一人では荷物がね、喧嘩する程、会話もないだけよ」
ヒデミは結婚して直ぐにセックスレスになったことまではいえないでいた。
「えっ、僕はもう少しやることがあるから先に寝てていいよ」
ヒデミとマサトが結婚をして、ひとつ屋根の下に収まると、ほぼ毎晩、マサトは趣味の風景写真の編集に費やした。
「そうじゃなくて、私だって」
「どうした、体調悪いの、熱はなさそうだよ、一週間の疲れがたまってるのかな、明日は君のお母さんの誕生会なんだら早めに休んだほうがいいよ」
マサトはヒデミの首に右手の甲を当てて体温を確かめると、直ぐディスプレイに顔を戻し、冷静さを崩さなかった。
一方、ヒデミはそれまで疼いていたが、そうやって透かされると萎えていた。
「はい、おやすみなさい」
結婚を機に同居し物理的に近くなった二人は、心がついて行けず、徐々に徐々に遠ざかっていった。その距離のなかには気恥ずかしさもあるのだか、それさえ気がつかず、互いにの気持ちを言葉で表現しきれずに、いつぞや不信感までも湧き上がり、益々、セックスに目を向けることを避けていった。
そもそも、マサトとヒデミは情熱的な部分があって、結婚前は会える日になると、夕食を外で共に済ませ、どちらかの部屋に行き玄関へ入るや否や抱き合い、唇を重ね舌を絡ませ脱がせ合い、マサトが乳房と乳首を愛撫し始めてヒデミが息遣いを荒立てると互いの性器を愛撫しあい、ベッドへ辿り着く前に、窓の外から注がれる弱い人工の光が、更に、二人を燃え上がらせて、時にはヒデミから時にはマサトから、ヴァギァナとペニスの繋ぎ合わせを声に出して求め合った。立位のままに前から後ろから、マサトが床でヒデミが騎乗し、ヒデミが四つ足でマサトが腰を手で止めて、と。
それに追随して、二人の性器から湧き出る体液は床や壁等を汚してしまうことは少なくはなかった。落ち着いた後、二人で綺麗にするのも二人の秘事として楽しんだのだ。
「ヒデミさん、二次会はどうします、私、ヒデミさんが行かないなら行きませんけど、サヨちゃんの職場の人とか同級生ばかりで、一人で行くのも」
「一緒に行こう」
ヒデミはアリサの哀しげな表情を察し、二次会を付き合うことにした。
「ありがとうございますヒデミさん、実はですね、お手洗いの帰りに誘われちゃったんですけど、二次会の会場に行ってその人がいなくなってたらって思って」
「こら、アリサ、まぁいいわ、あなたにとっていい出会いになるかもしれないしね」
「流石ヒデミさん」
二次会の会場は薄暗く雰囲気の良いカフェバーを貸切にしていた。アリサは周囲には気づかれないように胸を躍られていた。
「ヒデミさんマティーニでいいですか、私とってきますよ」
「気が利くわね」
ヒデミはアリサが落ち着いていないのを直ぐに気がついた。
アリサとヒデミはマティーニをゆっくり時間をかけて味わいながらサヨのウエディングドレスの話から、ヒデミの披露宴の時のこと、アリサが夢見る披露宴の話しをしていた。これは、アリサがあの男性へ期待する気持ちが溢れ出ないように抑え込むための故意的な策略だった。ヒデミはそれに気づいていて、一生懸命話しをしてあげた。
「恐れ入ります、ご一緒させてもらって構いませんか」
二次会が始まり三〇分も経たないうちに、ヒデミとアリサのマティーニが半分も減らないうちに、あの男性が現れた。
「はい、どうぞ」
アリサは少し表情を強張らせていて、ヒデミがその男性を誘った。
「初めまして、ヤマギワといいます。カズオ君が僕の会社の担当をしてくれてて、お世話になってるのに、披露宴まで招待してくれて」
ヤマギワはアリサとヒデミに名刺を差し出した。
「初めまして、僕もヤマギワと同じ会社です」
ヤマギワは二人できていて、二人目の男性の名刺にはCEOの文字が刻まれ、オクデラナギサと綴られていた。
アリサがサヨの前の会社の同僚だと説明し、緊張を解すようにした。
四人の男女はこの場ではマイノリティーであることに意気投合し会話が弾んだ。
「やっぱりお忙しくて、行き違いが原因だったんですか」
オクデラがバツイチであることを知るとアリサはこの場にも酔わされ大胆になっていた。
「そうなんですよ、突然、前妻は家を出て行ってですね、誤解を解く島もありませんでした、子供ができてると違ったのかもしれませんがね」
「そうですよね、子は宝とは夫婦関係に於いても言えますよね。」
ヒデミはオクデラもセックスレスだったろうと捉え、しみじみとそう口にした。
「いやぁ、僕は経営することが好きで、社員やそのご家族も喜んでもらえるように頑張っていて、家事も率先して手伝ったんですが、流石に身体はひとつなものだから、会社、家の仕事が終わるともうぐったりになって」
オクデラは嫌味なく恥ずかしげに、しかし、楽しそうに喋っていた。
「そうなんですよ、オクデラさん、我々にも社長なんて呼ぶな、みんなで同じ目線でやっていくんだってのがその頃の口癖で」
ヤマギワは尊敬の念を込めて言葉を付け加えた。
「素敵な話ですね、師弟関係、漢同士の友情ですかね」
アリサはキュンとして、それくらいのことしか言葉にできなかった。
「オクデラさん、同じのでいいですか、ハヤシさんとムラカミさんはマティーニで」
オクデラとヒデミは頷いた。
「ヤマギワさん、二人で行きましょう」
数分も経たないうちに、ウエイターがマティーニとバーボンのロック、チェイサーを運んできた。
「あれ、あの二人」
「ヤマギワさんが披露宴でアリサに声をかけたみたいですよ、抜け出したのですかね」
オクデラは納得した表情でグラスに口をつけた。
少しの間沈黙が流れた。
「ハヤシさんはお子さんは、お身体悪くされたんですか」
「いや、身体は大丈夫だと思いますが、まぁ、病院に係ってないので、実際のところは」
「でも、子育てしにくい社会になったんでしょうね、きっと、ほんと近所付き合いも減ってますもんね」
オクデラは少し哀愁を漂わせた。
「そうですね、二人とも働いてるので、子供が欲しい気持ちはありますけど、恐らく、今だと、子育ては私一人になりそうなので、オクデラさんは独りで頑張ってらっしゃるんですね、凄いですよ」
「いやぁ、会社を経営させてもらってるのがありがたい限りです」
「傍には誰もいらっしゃらないの」
ヒデミはその哀愁に艶やか波をたてた。
「いやぁ、もういいかなって思ってます。あの時は頑張り過ぎました。会社をやっていくのは楽しいんですけど、家族を作るのは駄目でした、育ちが悪いから」
「都合のいい関係ってどう思われます」
ヒデミは、アリサとヤマギワが抜け出したのに感化され心を開いていった。
「テレビドラマで都合のいい女、なんて言葉を耳にしたことがありますが、そんな女性って少ないように思うんです、ほんとに男女が都合よくってのを理解しあえば成り立つように思いますけど、だから、気があって、しっかりコミニュケーションが取れてって男女じゃないと、ん、この時代、男女じゃないですね、同性であっても、深いプライバシーを見せ合うというか、分かち合うというか、個々が社会での関係性を上手く築いていく冷静さ、巧みさ、勇気を生み出すことができるのであれば、善じゃないですかね」
「深みがありますねオクデラさん、こんな私ですが、試してみません」
二次会の開催時間が半分過ぎようとした時、ヒデミとオクデラも抜け出した。
ヒデミはオクデラとホテルの一室に入ると、オクデラの胸の中に身体を埋めた。
「ハヤシさん、落ち着きましょ、汗を流してさっぱりしましょ、先ずは」
とても甘い声に聞こえた、焦った自分に恥じらいを抱かさない甘い感じだった。
「そうですね」
ヒデミは目を潤ませて、オクデラを見上げた。同時に腹部に硬い膨らみも感じた。
オクデラから先にシャワーに入り、次いでヒデミがシャワーから出てくると、部屋は薄暗くなっていた。
腰に巻いたタオルをオクデラが外し、全裸で近づいてくると、ヒデミも胸の上まで巻いたバスタオルを床に落とした。抱き合った。唇が重なり合う時間は短く、舌がからみあった。優しく、ゆっくりと。
ヒデミはオクデラの素肌に当たる乳首が硬くなるのを覚えると、腹部に硬いペニスが押し付けられるのを子宮で感じとり、膣のなかの湿り気が増していくことまで分かった。いつのまにか、ベッドの側まで移動していた。
「オクデラさん、気持ち良い、抱いて」
耳に息を吹きかけるようにした。
「そうなんです、私、レスられてしまって、私にも非があるとは思っているんですけど、なかなか」
「その気持ち分からなくはないですよ、もしも、今後、僕たち二人が同じ時間を共有することがあるのであれば、大切にしていきましょう。とても充実した時間でした」
ヒデミの婚外恋愛が始まった。今後どういった事態になるのか、誰もが分からない、でも、お互いに傷つけ合わないようにしたいと思うばかりだった。
終