裕子の二階の玄関である。
若い宅急便屋が山ごとの段ボールをチェックしている。
「引っ越し用ハンガーボックス3、段ボール大4、中4、キャリートランク1、計12以上」
「お兄さん、オーケー」
裕子はかなり上機嫌。外階段で宅急便屋を見送ったが電話の音で慌てて室内に駆け込んだ。相手は鞠子だった。
「段ボール出したところ」
「とりあえず完了ね」
「フォーマルは8回あるから着物入れちゃった!」
チワワを抱いて電話している鞠子。クスクス笑いながら
「ママ、タイタニック号思い出してよ」
「もうイヤね! また沈む話?」
「違うわよ。映画だってラブストーリー。船で恋が生まれたでしょ」
「そうだったわね」
「ママだってできるかも」
「ママは未亡人よ」
「未亡人だって恋はできる」
「無理無理。まだパパがいなくなってまだ3年」
「じゃあ、パパも連れて行かなきゃ」
「えっ!?」
鞠子との電話中にベランダを開けて空を見上げる裕子。
「だってパパはあそこ」
と空を指差す」
「家の中にいるでしょ」
と鞠子。
裕子絶句。家中眺めるがわからず
「幽霊?」
またクスクス笑う鞠子。
夜になってベッドルームで鏡に向かっていた裕子。ネグリジェ姿でパックをしていた。肌が乾燥しているから無表情で裕の位牌を立てたり横にしたりする。それから裕の位牌を花がらのハンカチで包んでベッドの横のテーブルに置いた。