ショートなはなし

実際に体験したことをもとに、ショートな話をお聞きください。

石占いの女~その1~

2018-09-11 21:05:22 | 日記
川崎あたりを歩いていた

~次がダメだったら諦めるしかないな~

冷たい風が頬を切るように吹き付ける


狭い路地をぬけて
大学時代の友人が経営する通信機器の会社に着いた

「用立てしたいのは山々だけど、うちも精一杯なんだ・・・すまん」

暗い階段をあがったその部屋には
覇気は感じられなかった


狭い路地を戻る
焼き鳥の煙に包まれる

腹がなった
しかし、ここで一杯やる金もない


行き交う人々の笑い声が、僕をさらに不幸にする

迷路のような狭い路地をぐるぐると回る
何度も同じ道を通っているような感覚になった

~迷ったな~

前を見たり、振り返ったり、右を見たり、左を見たり



「ちょっと、あなた」

その声は後ろからやってきた


声の方向に目をやると
黒いベールに黒い服を着た女が
赤い布をかぶせた台を前に置いて座っていた

~占いか~


「僕のことですか?」

「そう、こちらにいらっしゃい」

黒い手袋が僕を手招きした

「すみません。占ってもらうだけのお金がありません」

「わかっているわ」

女の表情がわからない


「この中に手を入れて」

女は、黒い天鵞絨の袋を僕の前に差し出した

「石を6つ取り出して」

僕は、赤い布の上に、6つの石を転がした



「なるほどね」

ベールの奥の目が笑ったように見えた