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書籍-鉄道ピクトリアルアーカイブセレクション・名古屋鉄道1970~80(後編)

前回から続く

書いていると筆が進んでしまい、思ったよりも長くなってしまいましたが、
「鉄道ピクトリアル、アーカイブセレクション 名古屋鉄道1970~80」
の後編に入ります

前編では「パノラマカーと座席配置」「豊田新線と新線計画」の2つのテーマで書きましたが、後編の今回は「岐阜600V線」とそれ以外の項について紹介していきます。

本記事では「岐阜市内線・揖斐線谷汲線・美濃町線」など、この岐阜地区の2005年に全廃された路線系列をここでは便宜上、「岐阜600V線」と総称します。
これら岐阜地区の路線を「路面電車」、他のいわゆる1500V線を「鉄道線」と区別する表現も時に耳にしますが、名鉄を語る上でこのような表現は的を得ていないように思います。という余談はおいておいて・・・



岐阜600V線に関しては67ページ「名鉄美濃町線の輸送改善について」(初出1980年12月)、99ページ「名鉄美濃町線モ880形新造車の概要」などで美濃町線を中心に述べられています。

30ページ「名古屋鉄道の現勢」(初出1979年12月)内の図表で「600V線区の昼間運転系統図」として当時の日中の基本パターンと毎時本数が記されています。
この表を見て驚かされるのが、岐阜駅前~長良北町・忠節の市内線区間だけでいえば、毎時7~8本の市内線電車が頻繁運転されていて市内線黄金期を感じるものの、忠節から先の揖斐線区間や美濃町線に関していえば、2000年代の600V線末期の方がよっぽど充実していたダイヤであること。(美濃町線は2001年の日中減量前を基準)

揖斐線に関しては新岐阜~本揖斐(谷汲)までの急行が毎時2本の運転(日中のみ)。普通は忠節~美濃北方・黒野が各毎時1本という情勢。新岐阜~黒野で毎時4本運転されていた末期に較べると隔世の感を感じます。
また美濃町線に関しては新岐阜~野一色・美濃/徹明町~美濃の3系統が各毎時1本という貧弱ぶり。こちらも新岐阜~新関で毎時4本・徹明町~日野橋毎時2本だった末期のダイヤに較べると・・という状態。

少なくても「路面電車の時代」であった1970年代よりもその後、2000年代の全線廃止前の時代の方こそが黄金期である印象を感じたのは驚きます(美濃町線に関しては日中減量前基準)


さて美濃町線に関しては「美濃町線の輸送改善」の項で1970年代の輸送改善と実態について述べられています。

1970年に田神線新設により新岐阜駅に乗り入れを実現。急行運転も行い速達化も実施。
しかしながら行き違い設備の制約なども相まって、新岐阜~美濃間を26分間隔(1本おきに急行)というそれ以前に較べても減便になる中途半端なダイヤを実施。最終的に普通のみ30分ヘッドのダイヤに後退。
本文中では「新岐阜直通に伴う足の長い旅客は増加したものの列車回数減による旅客の減少は3割以上に」という大失策を演じます

前編の記事で「(後に1500V線と呼ばれる路線での)長距離客重視の特急黄金(偏重)ダイヤ」について触れましたが、こちらではそのミニ版が行われ結果失敗した事になります。

しかしながら1980年になって「復権の時代を向かえ」(本文から引用)、変電所の新増設・行き違い設備の増設・車両新造を含め10億円規模の改良計画を実現。新岐阜~新関15分間隔、徹明町~日野橋・新関~美濃が各30分間隔(日中時基準)の「美濃町線黄金ダイヤ」を実現します。
本文中では「過去の失敗」に関しては言葉を濁しながらも、1980年の改良計画では誇らしげ感も見え隠れし、将来のLRT化(都市計画と一体化した中での軌道系交通の意)にも言及するなど将来への期待も見えます。

本文中では美濃町線に関して「他の大手私鉄など郊外軌道線のように、本格的な鉄道線に進化する前に自動車時代に突入して進化のタイミングを失った」という意の記述があります。
本格的な鉄道線に進化できなかったのは仕方がないにしても、せめて1970年代中盤、できれば新岐阜直通時点で1980年の改良計画を先取りできていればまた違ったのではないか??という感がしてなりません。


市内線・揖斐線系に関しては残念ながら本誌では言及が少なく、1967年から510・520形を使用した日中時間帯の直通急行の運転、72年から市内線区間での連結運転が、前出「名古屋鉄道の現勢」で特筆されている程度。

その後揖斐線系では、直通急行は1987年に登場した770形(連接車)に置き換え。更に97年に780形が登場して、新岐阜~美濃北方・黒野間の直通運転が基本となり特別な列車としての「直通急行」の概念は発展的に解消して、2005年の全廃を迎えます。

私が初めて岐阜市内線・揖斐線に乗車したのは95年頃。当時、新岐阜~黒野(本揖斐)間の直通急行が30分間隔で運転、他に岐阜~忠節の市内線電車に連絡して忠節~美濃北方の区間普通列車が運転されていました。
この頃既に市内線電車は減便されて駅時刻表の「岐阜駅前~忠節間は頻繁運転」の文字が不当表示に感じるような本数でした。
(当時、揖斐線直通ではない市内線電車は時刻表非掲載。市内線電車は毎時4本程度だったような・・)

正直なところ、もう少し早い時代に市内線に見切りをつけて新岐阜~美濃北方・黒野の直通15分間隔運転に移行していればまた違ったのではないか?
最後まで続いた、市内線運賃に郊外区間運賃(忠節・日野橋以遠)を加算する歪んだ運賃形態や、揖斐線内で2駅だけ通過する意味不明な急行運転の解消など、まだ他にもやるべきことはあったようにも感じます。
名鉄自身が市内線(路面電車)と鉄道線(揖斐線など)という区分から脱却できなかったのが問題の一つだったのではないか??とも思えてきます。

美濃町線・揖斐線系ともに2005年の廃止が非常に残念な思いがある私としては
「せめてもう少し早ければ」という部分をとても多く感じてしまいます。
一方で細かい問題はあるにしても「名鉄自身はその時代ごとに、(予算が取れた中で)新型車の投入など名鉄単独で出来ることはやってきた」という名鉄擁護も否定は出来ないのかな?とも思います。


その他の項について
ここまで紹介した3項目以外で特に紹介したい部分として車両解説面、125ページ「キハ8000系北アルプス号」(初出83年10月)では初代北アルプス用気動車気は8000について、車両解説や富山から更に富山地方鉄道に直通して立山に乗り入れていた当時の話が興味深いです。

前出の「1970~80年代の名鉄の車両開発を顧みて」の中ではLEカー(キハ10)の失敗についても語られていて、「小さくて経済的だが多客には対応できない」と国鉄の失敗を繰り返したとして、電車のLEカーが必要だったとまとめています。

実は880形をひとふた回り大型化した車体で高床の連接もしくは連結車こそ電車のLEカーに相応しいように思います。
「北アルプス号の経験で気動車の運転・保守・免許にアレルギーがなかった」のがLEカー失敗の要因の一つに語られていますが、岐阜600V線の経験で「小さくて機敏な電車」まで至らなかったのは残念な感もします。


132ページ私鉄車両めぐり「名古屋鉄道」(初出79年12月)では当時の在籍車両全車の概要が記されています。
といっても私鉄有数の規模と車種を有する名鉄だけに、各形式の解説は「あらすじ程度」になってしまうのは残念なところです。

まだ6000系が56両しかない1979年の名鉄で、どんな車両が運用されていたのか?を多少なりともイメージすることで、前編の記事で触れた「パノラマカーの成功体験」と称されるほどのエポックメイキングぶりや通勤輸送への対応が厳しくなった背景も感じられるような気もします。

その後、80・90年代の車両開発が「ああいった展望車で2扉クロスシート」という狭義のパノラマカーから、「通勤車のパノラマカー」という広義のパノラマーを如何に作るか?で3500系を初めとした3R通勤車(赤電形式)に進化して行ったという見方も出来るのかなと。

名鉄は関東関西の各大手私鉄と較べると2線級のイメージがあったり「迷鉄」と言いたくなる部分もありますが、本線の急行系列車が120km運転をしている部分など、他の私鉄を凌駕する面もあります。
1960年代後半にモータリゼーションに対処して鉄道の生き残りを図る為の「高速優等列車による都市間直結」思想が40~50年の時代を経て実現しているとも言えます。といっても本線以外の急行の表定速度は今ひとつ感がありますが・・


さて2回に渡って、「鉄道ピクトリアル、アーカイブセレクション・名古屋鉄道1970~80」の紹介と感想文を書いてきました。

色々いいたくなる部分はあるにしても、その当時の判断では、語られていない部分での問題があったり、担当部署では必要性を感じていても予算が取れなかったり・・といった、裏の部分での事情もあるのでしょう。

この鉄道ピクトリアルアーカイブで掲載された多くの記事が、鉄道趣味人やライターではなく当時の名鉄の担当部署の管理職社員氏が執筆しています。
この担当部署社員による執筆は定評ある鉄道ピクトリアル誌の私鉄特集の醍醐味とも言われますが、当時の公式な見解だけでなく、文中随所にその時点での思いや将来への期待などの感情を読取れる記述が登場していて、時代背景や当時の会社の方針や期待をも垣間見れる「時代の記録」としての意義も感じる一冊です。


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2015/6/20 00:05(JST)
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