今回は鉄道雑誌の話題です。先日購入した「鉄道ピクトリアルアーカイブスセレクション41・京浜急行電鉄1950~1960」を紹介します。
9月26日発売。定価は1550円(消費税8%にて。10%では1579円)全165ページ
迷ったものの楽天の期間限定ポイントが700ポイント近くあったのでポイント消化を兼ねて買いました。
アーカイブセレクションは鉄道ピクトリアル・電気車の科学の科学の過去の号の特筆すべき記事などを収録する形で構成された本です。私が昨年鉄道ジャーナルに執筆した香港島路面電車の記事もゆくゆく将来は鉄道ジャーナルのアーカイブで収録して欲しいものですね・・という余談は置いておいて、今回紹介する本はは京浜急行電鉄(京急)の1950~1960年代をまとめたものです。
タイトルに1950~1960とあるので1950年頃~1960年頃だと思っていたのですが、内容は1970年頃までの記事が含まれているので1950年代頃~1960年代頃が正しいですね。
京急の過去の写真などは書物で見ることもありますが、当時の研究や紹介・リポートなどの記事は見る機会がないので、記事に期待して買ってみました。
1950年代~1960年代からの京浜急行は230形に代表される戦前期からの車両が多数活躍するなかで、戦後復興にあわせ500・600・700形(デビュー当初の呼称)という近代的な新形式車が続々と登場。その中で地下鉄1号線(浅草線)直通運転という創業期からの悲願でもある都心直通と1000形のデビューを迎え久里浜線延伸、激化する通勤輸送への対応など、現代に続く京浜急行(京急)の基礎が作られた時代といえます。
P53~の「京浜急行最近5か年計画の概要」(1974)で、国鉄側の改良工事にあわせた、横浜駅改良工事で相対式2面2線から島式1面2線に改装された件、上大岡駅・浦賀駅・金沢文庫電車基地、三崎線延伸など、この時代の種々の改良工事で、今の京急の設備がイメージできる姿になったことが分かります。
三崎線延伸ではこの時点では油壷まで伸ばす計画で三崎口駅は存在せず。油壷延伸が実現しなかったのは残念ですね。
「京急都心乗入工事と車両」(1968)では、都心乗入対応について触れられていますが、肝心の品川駅の工事について触れられていないのが残念。直通前の写真などを見るに3線の頭端ターミナルだったようですが。
車両面で特筆するべきは地下鉄直通対応でデビューしその後1978年まで大量増備されて京急の一時代を築いた1000形。2ドア特急車の600形(デビュー時は700形と呼称)をベースに乗降が激しい地下線対応として3ドアにして登場したのが、試作的要素の強い800形(初代・後に1000形に編入)から1000形として量産という経緯。いわば1000形と600形は親子のような関係であることが分かります。
地下鉄直通車でありながら全面非貫通の2枚窓で製造されて後に貫通型に改造された1000形初期車のエピソードなど、「地下鉄直通は前面貫通が絶対」という現代の常識がこの時代まだ常識でなかったことなども読み取れます。
小ネタとして先日の神奈川新町駅踏切事故で注目された「(特殊)発光信号機」も触れられていて(P37)踏切の障害物感知センサーは、1961年に光電式、68年に超音波式が他社に先駆けて最初に使用開始し踏切事故防止に役立っていること。当時、有人踏切では掛員が非常ボタンを操作する形になっていたことが記されています。
P63~私鉄車両めぐり(1958)(1970)で、1958年と1970年の在籍車両について概要が述べられています。
(1958)では旧京浜デ41・デ51といった大正時代に製造された路面電車から郊外電車に脱皮期の単行車両が
クハ化されて最後の活躍をしていた時期が偲ばれます。ただ写真は少な目
(1970)では創業期の4輪車から掲載されています。創業期の4輪車は昔のカラーブックスや保育社私鉄の車両」シリーズの過去の車両の項では端折られていたので資料的価値が高いですね。また元湘南デ26形のうち2両が戦中期に厚木線(現相鉄線)に転出、昭和22年に復帰したトリビア的な件も触れられていますね。
この時点での最古参は230形、一方で最新鋭の700形(4ドア普通車用)は増備途中。1970年代にかけて230形・400形という旧型車が1000形後期車や通勤輸送に主眼を置いた4ドアの700・800形に置換えらえていかんとする時代の姿が想像できます。
京浜急行は過去に大規模な車両番号の整理改番を行っている上に、地下鉄直通運転の絡みで車両番号に使える番号が限られていて、番号の使いまわしをしているので、この号に主に登場する車両だけでも
湘南デ1・京浜デ71に代表される16m車両→東急時代を経て後に230形に再編
東急時代にデビューしたデハ5300をはじめとする18m旧形式車→後に400形に再編
登場時600形(湘南顔で3ドア通勤車)→後に400形(460・470番台以降)に再編
登場時700形(湘南顔で2ドア特急車)→後に600形に改番
登場時800形→1000形の先行試作車であり後に1000形に編入
1000形(地下鉄直通を対応でデビューし大量増備で京急の一時代を築く。晩年は旧1000形と呼ばれる)
2代目700形(2005年まで活躍した4両固定の4ドア通勤車)
こういった変遷が予備知識としてないと、少々読みずらい、理解しづらい部分もあるかもしれないので要注意です。
車両面に続いて注目のダイヤ・運用面ですが、鉄道趣味界はやはり「車両研究こそ王道」のような風潮があるのか、本号に限らずですが、車両研究・解説記事が多く、ダイヤ・運用にあまりスポットが当たっていないのも残念。
この時代、現代に較べれば貧弱な設備の中で、横浜・日ノ出町など待避線を持たない駅でのハイキング特急列車の待避、川崎・子安駅での二重待避、最繁忙期である夏の海水浴客輸送対策で「海特」大増発など、特筆するべきエピソードは色々あると思うのですが・・(一部は過去の鉄道ピクトリアル京急特集などで掲載)
本号では「巻末読者短信にみる京浜急行の記録」(P152~161)でもトピックスの中のダイヤ修正・改正に関する記述で断片的ながらある程度読み解く出来るのが幸いです。読者投稿ニュースも馬鹿にできないですね。
私は京急沿線で育ち鉄道の原体験が京浜急行による部分が多いこともあって、京急関連に関しては昔から書物などで過去の車両の変遷などの一応知識もありましたが、本号で京急に関する知識の再整理や更なる肉付けをすることが出来ました。
ただやはり残念なのは1記事辺りのページ数が少なく、概要・あらすじ+α程度に終始していること。昔の鉄道ピクトリアル誌は1冊のページ数が少なく薄かったのでまぁ時代ですかね・・。当時の字数制限が今となっては非常に痛いです。
アーカイブセレクションとしては、以前にこのブログで紹介した名古屋鉄道(1970~1980)のアーカイブセレクションの方が読みごたえはあったなと思います。
2019/10/13 1:42(JST)