[2001年3月31日 東京朝刊:媒体不明]
東京都世田谷区の会社員、宮沢みきおさん=当時(四四)=一家四人殺害事件は、三十日で発生から三カ月を迎えた。豊富な物証があるため早期解決が期待されたが、犯人検挙にはいたっていない。警視庁への市民からの情報提供は千五百件を超えた。成城署捜査本部は「犯人は周辺の地理に知識があり、家族に何らかの恨みを持つ者」と犯人像を固め、「指紋」という決定的証拠を支えに、約百五十人態勢で犯人のあぶり出しに全力を挙げている。
◆動かぬ「指紋」、豊富な物証、150人態勢
◇ローラー作戦
都立祖師谷公園の一角にある宮沢さん宅は、現在も周囲に立ち入り禁止の黄色のテープがはられたまま。桜は見ごろを迎え、子供たちの遊び声も戻ってきた。周辺では、「お宅に若い男性はいますか。年末は何をしていたでしょう」と、聞き込みを続ける二人連れの刑事たちの姿がすっかり定着した。
裏通りにある宮沢さん宅が狙われたことから、捜査本部は「犯人は近くに暮らしていた可能性が高い」との見方を強めており、現場に残された血液やスニーカーのサイズ(二八センチ)などから、犯人は長身の若い男性とみられる。これまで、十五-三十五歳の年齢層を対象に、周辺に住む若者約一千人から指紋の任意提出を受けた。
現場周辺を中心に聞き込み捜査を展開する「ローラー作戦」は八割を終えたが、自宅にひきこもっていたり、住民登録がない一人暮らしの若者らが多いため、捜査員は「残る二割との接触が本番」と気をひきしめる。
◇水面下の捜査
三月下旬に入り、捜査本部が色めきたった。「現場近くに、正月休み後も出社せず行方不明になっている一人暮らしの若者がいる」。会社の社長は事業への影響を心配し届け出を悩みつづけたうえ、知り合いの警察官に相談して情報が発覚した。
十九歳で、身長約一七五センチ、血液型も犯人と同じA型。宮沢さん宅は男性の通 勤路沿いだった。しかし、男性を調べたところ、指紋から事件と無関係と判明した。
「これまで、十数人の有力不審者が浮かんでは消えた。週に一度は、何らかの情報で捜査本部が緊迫する」と、捜査幹部は「捜査の行き詰まり」を完全否定する。
しかし、動機の解明が進まないのは事実だ。幼い姉弟まで殺害するなど手口が残忍なため、「何らかの怨恨が背景にあるはず」との見方は根強い。
捜査幹部は「一方的なねたみの可能性や、何年も前の交友関係にまで幅を広げて徹底的に調べたい」と強調する。
◇情報提供
捜査本部は二月に、犯人のトレーナーなどをカラーポスター十万枚にして全国へ配布した。異例とも言える証拠品の積極公開は、住民からの情報提供が狙いだ。世間の注目も高く、寄せられた情報は千五百件を超える。
「六本木のクラブで、犯人を知っているという女性と隣り合った」。そんな噂話レベルの情報が寄せられても、翌日には捜査員が本人に接触し、「あれは酒の席でのたわごとだったのに刑事さんが来るなんて」と、当事者が目を丸くしたことも。
「ありがたいことだが、提供される情報が多すぎて、裏付けのために振り回されることもある。これからは腰を据えて捜査していく」と、捜査幹部は気を引き締める。
今回の事件は犯人の指紋という動かぬ証拠がある。「いつかは絶対捕まるが、一刻も早く検挙したい」。捜査員たちは、三カ月という節目を重くとらえている。
【写真説明】事件発生から3カ月が経過。被害者の宮沢みきおさん宅付近では今も聞き込み捜査が続けられている=東京都世田谷区
東京都世田谷区の会社員、宮沢みきおさん=当時(四四)=一家四人殺害事件は、三十日で発生から三カ月を迎えた。豊富な物証があるため早期解決が期待されたが、犯人検挙にはいたっていない。警視庁への市民からの情報提供は千五百件を超えた。成城署捜査本部は「犯人は周辺の地理に知識があり、家族に何らかの恨みを持つ者」と犯人像を固め、「指紋」という決定的証拠を支えに、約百五十人態勢で犯人のあぶり出しに全力を挙げている。
◆動かぬ「指紋」、豊富な物証、150人態勢
◇ローラー作戦
都立祖師谷公園の一角にある宮沢さん宅は、現在も周囲に立ち入り禁止の黄色のテープがはられたまま。桜は見ごろを迎え、子供たちの遊び声も戻ってきた。周辺では、「お宅に若い男性はいますか。年末は何をしていたでしょう」と、聞き込みを続ける二人連れの刑事たちの姿がすっかり定着した。
裏通りにある宮沢さん宅が狙われたことから、捜査本部は「犯人は近くに暮らしていた可能性が高い」との見方を強めており、現場に残された血液やスニーカーのサイズ(二八センチ)などから、犯人は長身の若い男性とみられる。これまで、十五-三十五歳の年齢層を対象に、周辺に住む若者約一千人から指紋の任意提出を受けた。
現場周辺を中心に聞き込み捜査を展開する「ローラー作戦」は八割を終えたが、自宅にひきこもっていたり、住民登録がない一人暮らしの若者らが多いため、捜査員は「残る二割との接触が本番」と気をひきしめる。
◇水面下の捜査
三月下旬に入り、捜査本部が色めきたった。「現場近くに、正月休み後も出社せず行方不明になっている一人暮らしの若者がいる」。会社の社長は事業への影響を心配し届け出を悩みつづけたうえ、知り合いの警察官に相談して情報が発覚した。
十九歳で、身長約一七五センチ、血液型も犯人と同じA型。宮沢さん宅は男性の通 勤路沿いだった。しかし、男性を調べたところ、指紋から事件と無関係と判明した。
「これまで、十数人の有力不審者が浮かんでは消えた。週に一度は、何らかの情報で捜査本部が緊迫する」と、捜査幹部は「捜査の行き詰まり」を完全否定する。
しかし、動機の解明が進まないのは事実だ。幼い姉弟まで殺害するなど手口が残忍なため、「何らかの怨恨が背景にあるはず」との見方は根強い。
捜査幹部は「一方的なねたみの可能性や、何年も前の交友関係にまで幅を広げて徹底的に調べたい」と強調する。
◇情報提供
捜査本部は二月に、犯人のトレーナーなどをカラーポスター十万枚にして全国へ配布した。異例とも言える証拠品の積極公開は、住民からの情報提供が狙いだ。世間の注目も高く、寄せられた情報は千五百件を超える。
「六本木のクラブで、犯人を知っているという女性と隣り合った」。そんな噂話レベルの情報が寄せられても、翌日には捜査員が本人に接触し、「あれは酒の席でのたわごとだったのに刑事さんが来るなんて」と、当事者が目を丸くしたことも。
「ありがたいことだが、提供される情報が多すぎて、裏付けのために振り回されることもある。これからは腰を据えて捜査していく」と、捜査幹部は気を引き締める。
今回の事件は犯人の指紋という動かぬ証拠がある。「いつかは絶対捕まるが、一刻も早く検挙したい」。捜査員たちは、三カ月という節目を重くとらえている。
【写真説明】事件発生から3カ月が経過。被害者の宮沢みきおさん宅付近では今も聞き込み捜査が続けられている=東京都世田谷区