(集団的自衛権)憲法解釈変更、割れる社説 新聞各紙にみる論点
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11231396.html
2014年7月9日05時00分
憲法解釈変更への賛否と各紙の主な社説
憲法解釈変更への賛否と各紙の主な社説
国民の議論が深まらないまま、安倍内閣は1日、集団的自衛権が使えるように憲法解釈を変更する閣議決定をした。翌2日付新聞各紙の社説は賛否が割れた。海外での武力行使に道を開く閣議決定をどう見るか。各紙の論点を整理した。
■朝日・毎日・東京は批判 在京6紙
朝日新聞は、戦後日本が70年近くかけて築いてきた民主主義が踏みにじられたとして「憲法の基本原理の一つである平和主義の根幹を、一握りの政治家だけで曲げてしまっていいはずがない」と批判。大野博人論説主幹は「集団的自衛権にしろ集団安保にしろ、武力行使にともなう内外への責務や負担がどれほど重いか、目をそらしたままの決定は危うい」と話す。
毎日新聞は「歯止めは国民がかける」との見出しで、社説を1面に掲載。米国の要請に応じることで「国の存立」を全うすることに疑義を呈した。小松浩論説委員長は「目先の脅威が議論になりがちだが、過去の教訓を踏まえ、警鐘を鳴らすのがメディアの役割。『国の存立』を大義名分にして、過ちを繰り返してはならない」とのメッセージを込めたという。
読売新聞は「安倍首相が憲法解釈の変更に強い意欲を示し、最後まで揺るぎない姿勢を貫いたことが、困難な合意形成を実現させた」と歓迎した。新解釈は「解釈改憲」と本質的に異なるとし、「過度に抑制的だった従来の憲法解釈を、より適正化した」とした。
日本経済新聞も、台頭する中国などに対して、米国が「世界の警察」役を担いきれなくなった、として閣議決定を評価。ただ、「ここまで急ぐべきだったのか疑問」と指摘。「政権が交代するたびに路線が変わるようなことは、あってはならない」と釘を刺した。
産経新聞は「自民党がやり残してきた懸案を解決した。その意義は極めて大きい」と述べた。解釈の変更という手法については「国家が当然に保有している自衛権について、従来の解釈を曖昧(あいまい)にしてきたことが問題なのであり、それを正すのは当然」と主張した。
東京新聞は1日に1面に社説を掲載し、一内閣による解釈改憲を批判。2日は、政府が挙げた行使が必要な例について「自民、公明両党だけの『密室』協議では、こうした事例の現実性は結局、問われず、『海外での武力の行使』を認める『解釈改憲』の技法だけが話し合われた」とした。
■反対40紙、賛成3紙 地方・ブロック
ブロック紙や地方紙は、反対の声が多数を占めた。朝日新聞が2日付社説(論説)を調べたところ、賛成は北国新聞(石川)や富山新聞、福島民友の3紙、反対は北海道から沖縄まで40紙あった。多くは立憲主義の否定、平和主義の危機に警鐘を鳴らしている。
秋田魁(さきがけ)新報は、安倍政権を「戦後70年近くかけて一歩一歩進めてきた平和国家の歩みをわずか1カ月半、計13時間の与党協議で『戦争ができる国』へと強引に方向転換させた」。
徳島新聞は「戦争の恐ろしさを知っていた本県選出の三木武夫元首相や後藤田正晴元副総理が生きていたら、認めなかったのではないか」と訴えた。
安全保障や憲法を集中的に取り上げた社もある。信濃毎日新聞(長野)は3月から今月8日までに「安保をただす」と題した社説を計38回掲載。2日は「憲法は権力を縛るものなのに政権が思うまま解釈を変えられるのでは、意味がなくなる。今度の閣議決定は解釈改憲のあしき前例を作った」と述べた。
西日本新聞(福岡)は5、6月で計22本を掲載。1日は憲法9条の条文を載せ、解釈変更での閣議決定を「9条の骨抜き」と批判。2日は与党協議を「お粗末の一言」と断じた。井上裕之論説委員長は「平和友好条約を結ぶ中国をなぜ敵とみなすのか。外交努力をせず安保環境が危ないとあおるのはおかしい」と指摘する。
沖縄タイムスは「憲法クーデター」と批判。「沖縄の軍事要塞(ようさい)化が進むのは間違いない。沖縄が標的になり、再び戦争に巻き込まれることがないか、県民の不安は高まるばかりである」と書いた。
(今村優莉、斉藤佑介)
■社説の検証欠かせぬ
三浦元博・大妻女子大教授(ジャーナリズム論)の話 在京紙は賛否が真っ二つに割れた。2003年の自衛隊イラク派遣の際、政府方針を社説で支持/反対した社は今回と同じ構図だ。
各紙には、社説の検証もしてほしい。米国のニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストはイラク戦争当時、突き進む米政権を後押しした。だが、「大量破壊兵器」がフィクションだとわかると、検証して間違いを正し、読者への説明責任を果たした。
集団的自衛権をめぐる議論で、自分たちの主義主張が歴史の批判に耐えうるのか。言論機関としての自覚を持ち、現実に即して常に見直す検証は欠かせない。
閣議決定後の安倍首相の会見は、現実にはあり得ない例示で観念的な説明だったが、新聞は現実に即し、社説や論説記事もファクト(事実)から出発して論を説いてほしい。