かくし通すカツラ課長・後編

今日のブログは少し長いので小さな文字でいきます。

「福韻書ブログ」なんて言いながら後編を書くまでに間が空いてしまいました。

あの前編は、そう「かくし通すカツラ課長・前編」という記事を2007年暮れに載せたのでありました。

知人の娘さんからは驚きの感想を頂きました。

「どうしてこんなにリアルに私達のおかれた境遇が手に取るように分かるんでしょう。」

さてこの47歳山田課長にも若い頃、一般的に言う結婚適齢期が有りました。
やっと婚約にこぎつけた頃、

「実は」
カツラを脱いで恥ずかしそうに見せたのでした。若ハゲでした。
相手の女性はびっくり仰天し、婚約を取り消しました。
　　　　　　　　　　
心に深い傷を負った彼は、それ以来それがトラウマとなり、女性には消極的になって、結婚はあきらめお腹もメタボになってしまいました。

何とも痛ましい事件で、ヒト事とは思えません。しかしこの種の話はたまに聞きます。

山田課長への周囲の人達の気遣いや悪臭被害の事はお気の毒としか言い様がありませんが
課長のヒストリーを知るとそれはそれで可哀想になります。
　　　　　　　　　　
山田課長は絶望し、意固地になり、趣味の車にのめり込み仕事の鬼になりました。

ところが新しく異動して来た病弱な課長代理42才は課長以上にプライドが高く、我が道を行くタイプで、
気後れする山田課長や周囲からの業務アドバイスに耳を傾けません。

それがために仕事のミスも発生します。課長代理の尻拭いは大抵知人の娘Aさんに廻って来ます。
　　　　　　　　　　
伏し目がちで慎ましい娘Aさんは即座に処理しますが、心中は

「そんなんだったら、始めから私にやらせろ、おバカさん！」

ある日、机上に置かれた紙片に書いてあったアドレスをこっそり持ち帰った山田課長は、自宅のネットでそれを打ち込みました。

「いったい何だろう……http://blog.goo.ne.jp/khuga22」

モニターに現れた地味なブログのタイトルを見て
「あっ」と声をあげました。

そして書いてある記事内容を目を皿のようにして夢中で隅々まで読みました。

「こんなハゲおやじ見た事ないぞ」

「こんなにカツラで遊んでいる奴、初めて見たぞ」

「どうして恥ずかしくないんだろう。ハゲもカツラも」

というのが第一印象でした。

じっくり見て行く内にある事に気がつきました。

「この人のカツラは分からない。カツラじゃないみたいだ。」

何日も考えた山田課長は思いきって「カムーロ・見や毛」にメッセージを打ち込みました。
詳しく知りたかったのです。
　　　　　　　　　　
そしてカムーロとの交信ののちに、ベストなカツラを買う事を決意しました。そのためには

「皆にカツラを告白し、まず新しいカツラが完成するまでハゲで仕事をしよう！」

さてある日、部全体の朝礼で

「ちょと勇気のいる事ですが、もうこれ取ります。気づいていた人もいるとは思いますが、あはは」

恥ずかしいけど山田課長はそれを脱ぎました。
　　　　　　　　　　
突然の課長の行為に笑い転げる女子社員の中には小声で
「課長さん、感激！」と言う者もいました。

彼はすっかり緊張していましたが、その小声をしっかりと聞きました。
（あ、感激してくれる者がいる！）

2カ月後、連休明けのある始業時刻前、課長代理が身を乗り出し大真面目な顔で上司に声かけていました。

「か、課長ですか？山田課長です……よね」

「課長？ああ駐車場でウロウロしてたな。どうかした？」

女子社員たちも狐につまされたかの様に見ていました。
「新任の課長さんなのかしら…」
　　　　　　　　　
皆、不思議に思いました。課長席に別人が座っている。汗もポマードの匂いもしない。
卑屈な顔じゃない。

ルルルルル。そこへ電話が入り即座に受けました。
「はい、底抜け鋼業株式会社、山田でございます。」

皆、唖然としてそれを見守りました。

（山田課長だーっ！）

新しいカツラで出社した変身課長だったのです。

「どう、似合う？ずれてないかな？このカツラ、はは」

「びっくりしましたよー、課長ー、あはあは」

「はははははは」「ほほほほほ！」
　　　　　　　　　　　　
A子さんは今日からストレスのない素晴らしい日が始まる予感がしました。

「今日から肩が凝らない！ 深呼吸もできる！」

この「後編」は特にフィクションです。

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