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麗澤の杜から『日々是探究』

企業勤務から民間人校長として奉職(14年間)。2025年度より学校現場を離れて、新たな社会貢献の道を探究します。

千葉県立松戸国際高校第43期生・卒業証書授与式

2018年03月09日 05時18分30秒 | 日記
式辞

絢爛たる花吹雪であなたの入学を祝ったエスペランサの
桜が今、褐色のつぼみを膨らませ開花の時を待っています。
一月もすれば、あでやかな彩りを見せる移ろいの速さに、
あなたの成長を重ね合わせずにはいられません。
それぞれ時期の違いはありながら、花をつけない木は
一本たりともない。そんな自然の摂理に思いをいたす
春の佳き日、本校同窓会長の古澤直樹さま、
PTA会長の四木恵美子さまをはじめ、保護者の皆さまと
こうして盛大に卒業式を執り行えますこと。
本校教職員を代表して心からのお慶びを申し上げます。

松国第四十三期生の卒業生諸君、本当におめでとう。 
保護者の皆さまのご感激も、一入ではないでしょうか。  
今日、こうしてあなたが卒業の日を迎えたことを、
私はささやかな寂しさを感じつつ、心から祝福いたします。  
そういえば昨年の夏、大学に進んだ卒業生がやってきて
『松国シック』という言葉を残していきました。
とても優秀だったその卒業生は、松国で磨いた語学力を生かして、
最高に充実した大学生活を過ごしているそうです。
それでも、ときどき『松国シック』になると言う。
改めて松国で過ごす、時の魔力を思わずにいられません。
あなたも明日からさっそく『松国シック』にかかるかも
しれませんが、何を思い焦がれるでしょうか。

私はあなたとともに松国の門をくぐり三年間、
勉強やさまざまな課外活動に打ち込む姿を見てまいりました。
初めて出会ったのは入学式前、常盤平の桜まつりの日。
ダンス部とクッキング部が、華やかな彩りを添えた会場で
一足早く松国生気分に浸った生徒諸君です。
数日後には入学式。千葉県内外、さらには諸外国からも
集まってくる本校ですから、周りに見知った顔がなく、   
いささか心細い気持ちを抱いた人も少なくないでしょう。
しかし、ほどなく心を開いて打ち解け、言葉を交わし合い
松国生としての時間が始まりました。
オールイングリッシュの英語をはじめ、日に日に内容が
高度になっていく各教科の授業。球技祭では先輩たちから
松国最初の洗礼を浴び、中間テストに追われるうちに、 
校内では松耀祭。校外では部活動の大会ラッシュと、
目まぐるしく時間が流れていきました。
スピードとパワーが中学校とはけた違いの運動部。
サッカーやバスケットでは上級生に跳ね飛ばされ、
バドミントン、テニス、卓球のラケット競技は、上級者の
スピードとタイミングに翻弄され、相手に打ち返すのも
難儀だったのではないでしょうか。
私が初めて見たバレーボールの練習では、サーブが
ネットを超えるのさえ一苦労でした。
わけても初心者の困難は及びもつきませんが、
一人ひとり身を削る努力の甲斐あって、最後は各部とも
強豪校と堂々わたり合ったのには感心いたします。
一方、孤独な闘いを強いられる陸上、ウエイト部員は
仲間と手を携え、壁を乗り越えてきました。
文科系部活動でも高校生の水準は次元が異なり、
プロ顔負けの技量を備えた演奏、演技、作品を目にして、
大いに奮い立ったことでしょう。
またALTの先生方にも支えられたESSとディベートは
『英語の松国』を象徴する活動でした。今日の卒業式を前に
ディベート部が全国大会出場のビッグニュースが飛び込んできました。
両部員が核となり第四十三期生からは、英語の上級資格で目覚ましい
成果を残す生徒が数多く現れます。
その影響は韓国語やフランス語、中国語にもおよび
『語学の松国』としての存在感を高めました。
そしてあなたにとって最後の松耀祭。各クラスの演劇が  
喝采を浴びる傍ら、合唱部、軽音楽部、演劇部が個性
豊かに演じ、茶道、華道、書道、美術、写真、漫研は、
例年以上に趣向を凝らしたおもてなしと展示で、
松耀祭の盛り上げに花を添えてくれました。
四千五百人という来場者数は、松国が新しい歴史を
踏み出すターニングポイントだったのではないでしょうか。
そして吹奏楽部とバトン部のリードに乗って、
夏を締めくくった野球の応援風景。
スタンドで汗だくになって燃え上がった時間が、
つい昨日のことのように思い返されます。
ソフトボール、剣道、ボランティアなど、少数ながら
活動の灯をともし続け、次世代へつないだことも、
心に留めておかねばなりません。
生徒会による学校紹介も洗練され、今年も後期選抜で
県立高校の最高倍率を示したのは、多彩な個性が集い、 
青春を謳歌する風景が、中学生の心をつかんだからです。
松国第四十三期生には、独特の『色』がありました。

さて、あなたが生を受けて歩み始めた二十一世紀は、  
激動の幕開けでした。アメリカ同時多発テロに始まり、  
スマトラ大地震、リーマンショック、東日本大震災、
アラブの春、EUを取り巻く国の再編と難民問題、
さらには熊本大地震と、国内外で天地を揺るがす事態が続きました。
とりわけこの三年間の国際情勢を振り返ると過去に類がないほどの
膨張と緊張の時代だった、そのようにも表せるでしょう。
象徴的なのは世界の通貨供給量が膨れ上がり、
とうとう一京円という単位に届いたこと。国境を越えてあふれ出た
マネーの分配を巡る緊張が、世界の至るところで高まり、
張り裂ける危険さえ迫ってきました。
すでにグローバリゼーションの限界が唱えられはじめ、
主題はポスト・グローバリズムに移っています。
もはや人間の頭脳だけでは解決は難しく、AIやVRなど科学技術も
加速度的に進歩し、フィンテックといわれる新しい金融技術も生まれました。
AIが人の仕事を奪うと言いますが、それどころではない。
先端技術との間に立ち、人の心と人の手で、丁寧に解きほぐさなければ
ならない複雑な問題は、いっそう増えていくに違いありません。
今後、一段と変動が激しくなる世界に踏み出すあなたが
そうした時代の荒波に翻弄されることなく、力強く歩み進んでほしい。
その足取りを確かにするためには、三つの確信が秘められていると、
心強いのではないでしょうか。

言葉の力を信じよう。昭和の偉大な作家・辻邦夫は、どんなに絶望の淵に
ある人にも、希望を指し示すのが、芸術家の役割であると言いました。
彼は、一つひとつお城の石垣に石を積むように、身をすり減らす思いで
言葉を紡ぐと表現しています。
それほど、人の心に響く言葉を届けるというのは、尊い作業なのでしょう。
あなたが、これから出会う誰かにとって『かけがえのない存在』
になるのは、深い知恵と思いやりに根差し、確かな見通しをもって発する
言葉の力によるものです。
人が抱える悩みや困難の本質を見抜き、言葉を選び出す繊細な感受性を
身につけ、あなたにしか生み出せない言葉を授けてほしいと願います。

自分の未来を信じよう。入学した日を思い出してください。
この三年間で、どれだけ「できなかったことができるようになった」
でしょうか。あなた方世代の成長力に目を瞠らされるばかりです。
眠る時間を惜しみ、誘惑と闘いながら積み重ねた努力は、
あなたの『自立』への確かな足固めでした。失敗や挫折を
試練と受け止め、自分の未来を信じて乗り越えてほしい。
そのためにも、今の自分が信じられることです。
弱い気持ちが顔をのぞかせても、一つひとつ振り払い、
自分の未来を信じる強さを蓄えていってください。

そしてもう一つ、仲間の力を信じよう。
あなたに手渡された一冊の卒業アルバム。ここには太かったり細かったり、
色とりどりの絆が無数に行き交っているはずです。
言葉に対する繊細な感受性を身につけ、自分の未来を信じるあなたに、
仲間の応援があれば恐れるものはありません。
仲間には、今をともにする相手だけではなく、過ぎし日を共有する心の友もいます。
思い出を交換するたび、自分では知らなかった事実が現れ、過去の景色が変わって
見えることもある。
新しい自分との出会いは、過ぎ去った時間の中にも、潜んでいることでしょう。

あなたは松国で得難い経験を重ねてきました。三年の時間が詰まった卒業アルバムには、
忘れえぬ思い出もあれば、埋もれた記憶もあるかもしれません。
人は気づかないところで、人に影響を与えているものです。
あなたが今、見えていないもの。気づいていないところに、
あなた自身の松国で残した大きな足跡があるはずです。
あなたの宝物が潜む卒業アルバムは、
『松国シック』になった時はもとより、これからの人生の確かな支えになることでしょう。
松国第四十三期生の新しい舞台での飛躍を、心から願っています。

最後になりますが、三年間お子さまの成長を支えてこられた保護者の皆さまには、
かくも立派に成長されたお子さまのご卒業に、深い感慨がおありかと存じます。
これから新しい世界へ踏み出すにあたり、いっそう大きな 希望を託して
いらっしゃることでしょう。お子さまを信じ、これまでのように温かい目で見守り、
支え、時には厳しい言葉もかけられながら、真の自立の日まで支えて
いかれることを願い、式辞の結びとさせていただきます。

平成三十年三月八日
千葉県立松戸国際高等学校 校長
水野 次郎

協力 吹奏楽部 合唱部 バトン部 書道部
揮毫 二年A組 西郷 太一
うた 修学旅行委員長 津波 りおな

※大書道『信』の文字は、吹奏楽部による壮大な『BILIEVE』の演奏と、合唱部&バトン部による「いま~みらいの~扉を開けるとき~♪」の合唱ともに開幕し、現れました。そしてエンディングでは津波さんが『卒業写真』英語バージョンを熱唱。素敵な歌声に心を震わせながら式辞を読みました。
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