
昨日、研修旅行から帰ると、自宅に注文した本が届いていました。東大教授の酒井邦嘉氏による『デジタル脳クライシス』という本です。酒井教授は、教科書のデジタル化が検討されはじめた15年ほど前から、論陣を張って全面デジタル化への疑問を投げかけてきました。東北大学の川島隆太教授とともに、この問題で研究と発信を続けている、脳科学の第一人者です。本書の前書きには、次のようにあり、ここに酒井教授が本書を執筆した理由が凝縮されているでしょう。「ITへの苦手意識の裏返しで『せめてわが国はITが強くなってほしい』という願望を持つ親は多いかもしれません。そうした漠然とした願いは、デジタル機器に対する目をいっそう曇らせます。子どもたちがITに強くなることと、確かな思考力を身につけること、そのどちらを優先すべきでしょうか。適切な思考力が身につけばITにも強くなるでしょうが、その逆は成り立ちません。なぜなら、初めからITやデジタル機器に頼ることで自分の頭を使わなくなるからです。本書では、この等閑視されがちな事実を科学的に示していこうと思います」。
この本は今年の10月に刊行されましたが、先立ってスウェーデンが衝撃的な発表をしました。それは今年、デジタル教科書を断念して、紙の教科書に移行することが法律で義務付けられ、7月から配布が始まったという内容です。先週の週刊文春に特集が組まれていました。スウェーデンが、紙の教科書に移行した背景には「基本的な読み書きに最適なのは、アナログツール」であり、世界に先駆けてデジタル化を進めてきた同国の子どもたちの、読解力などの学力低下が証明されたことによるようです。酒井教授も本書では「AI時代をどう生きるか」という差し迫った問いに対して「経済や法律の価値観からではなく人間の創造性や教育の原点に立って答えを見つけようとするのが本書の狙いです」と訴えています。スマホなどのデジタル機器が、私たちの学習や生活と切り離せなくなった時代だからこそ、脳への影響について、こうした本を自ら手にすることが必要なのかもしれません。とても示唆に富んだ内容なので、生徒諸君もぜひ、手にしてほしい1冊です。