神奈川絵美の「えみごのみ」

爽やかな風に、複雑な思い -芭蕉布展にて-

(前回の続き)

ここは…



六本木一丁目駅を虎ノ門側からのぞんだ風景。


仕事で何度か降りたことはありますが、コロナ禍以降は初めて。
緑が多くて、少し歩けばスウェーデン等の大使館があって
とても良い気分で散歩できる、好きなエリアの一つです。

大倉集古館は…


明治35年から続く、現存する最古の私立美術館ですが
関東大震災の被害に遭い、こちらの建物は昭和3年に建てられたそう。
それでももう90年以上の歴史があります。


門構えからして、重厚ですね。


2Fベランダから正面入り口付近をのぞんで。
この向かいに、すっかり近代的になったホテルオークラがあります。

さて、喜如嘉の芭蕉布は……

入口入ってすぐのところに、色とりどりの端布がタペストリーのように
吊り下がっていて、ゆらゆらと風にゆれてなんと涼しげなこと。
館内もほどよくひんやりしており、布のさらっとした風合いを、眼で感じました。

印象的な絣はいくつもあったのですが…ごく一部を紹介すると

高貴な人がまとう、大きな柄、そして鮮やかな色は富の象徴。
一方、庶民は赤茶や生成りの、無地に近い着物をまとったそう。
こちらの絣は八十八といっておめでたい柄。染料はたぶん福木。

ほおーっと顔を近づけ見入ったのは

小鳥と柳。この、柳をあらわす縦縞は、
織るときにわざと、縦糸を微妙にずらして、ゆらっとした
ニュアンスを出しているのだそう。

そしてこの鳥の絣は、平良敏子さんのオリジナル。
今回の展示はおもに2Fに、平良さんならではの絣の作品が並んでいたのですが
どれも優し気で、そして可愛いらしくて、着物や、着る人に向けた
温かいまなざしを感じずにはいられません。

こちらは

ケーキ柄。
縦棒に見える柄が、終戦後駐留していた米軍の兵士が
持っていたアイスキャンデーをモチーフにしているそう。
当時は、ケーキと呼んでいたそうです。


藍と福木で緑色に。
なお、赤茶は生成りと車輪梅で出すそう。

画像はありませんが、藍地に紅型の藤村玲子さんが染めた
小さなお花柄の着物もとても可愛くて印象に残りました。

芭蕉布は、工芸研究で有名な柳宗悦が見出し
その名も『芭蕉布』という本を出したことで、全国にその存在が
知られるように。
その初版や手書き原稿も展示されていたのですが、
何気なく眺めていて、ふと「芭蕉布の織り手の女性は、
織ることに誇りをもっている」というような文章が目に
入りました。

当時は、そうだったのだろう。そして今でも、そうなのかも知れない。
部外者の私が、今、芭蕉布を織っている方々の心情を勝手に代弁することなど
できませんが、

その誇りに、今の日本の産業は甘えていないか、ともふと、思うのです。
文化的価値を生み出しても、産業として持続や継承が難しく、
織り手さんたちに還元されるものが乏しければ
それは言葉やさしく、犠牲を強いていることにならないのか、と。

昭和前半の文化史にそんな空気はもちろんなかったわけで
柳宗悦には本当に申し訳ないけれども
この『芭蕉布』の一文に、ちくちくとしたものを感じてしまい
複雑な思いで会場を後にしました。
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