神奈川絵美の「えみごのみ」

お能 初体験

15日の深夜、約190ページの書籍の原稿を納品し終えた。
あああああ-  ぐ っ た り。

フリーランスである以上、経緯はどうであれ
仕事はすべて自分の意思で選んでいる、という意識なので、
不平・不満をぐちぐち言うのは潔しとしないし、
実際、ストレスはほとんど引きずらないが、
今回はかなり精神的なタフさ、忍耐強さが求められた。


-まだピリピリ感が残っている頭には、お能がいいかも-
年明けに、金春(こんぱる)流のシテ方、山井綱雄さんから
定例会のご案内をいただいていたのを思い出して。


生まれて初めて、国立能楽堂に足を踏み入れた。



お能には、コンサバティブな着物がいいらしい。
以前着物友達が教えてくれた。
そこで…

選んだのは、染の北川の小紋に、きぬたやの絞り帯。


帯はずいぶん昔に一度だけ締めたのだが、
合う着物がなかなかなくて、お蔵入りになっていた。


会場は歌舞伎座と同じくらい着物率高し。
派手すぎ、粋すぎ、カジュアルすぎな装いは見られなかったが、
みな柔らか物かというとそうでもなく
織のお着物姿もたくさん。
しっとりと目に優しいナチュラルカラーのお着物が
多かったかなあ。

受付でいただいたプログラムには、200字程度のあらすじが書いてあった。
それを頼りに一演目約90分、舞台に見入る。
例えば「(略)童子が忽然とあらわれ、中国と日本の剣の徳を語る(略)」(小鍛冶より)
の一行で、20~30分地謡と舞が繰り広げられる。
悠然と流れる時。定型の美。
基礎知識がほとんどないので、理解するというよりは、
独特の世界に浸り溶け込むようなつもりで、五感をゆだねてみる。
そうすればいっとき現実を忘れ、心がしんと、鎮まっていくのがわかるのだ。


山井綱雄さんが演じたのは「楊貴妃」。
「唐の玄宗皇帝の命令で、ある方士(道教の呪術師)が
亡くなった楊貴妃の霊魂を探し求める。
ついに出会えたとき楊貴妃が、形見の玉のかんざしを与え、
舞を舞う。」
…というように、話は展開していくのだが、
最後の最後、
「方士は都に帰り、楊貴妃はとどまる」のところで、
舞台正面と、橋がかり(舞台からのびている通路のことで、
現世とあの世の通い道という意味も)とに離れた二人が、
別れを心底惜しむように振り返り、一瞬見つめ合う様子を観て、
うわっと涙が出そうになった。
時間にしてたった1~2分、ことばもない。
楊貴妃の「本当は都へ行きたい、皇帝に会いたい」という
切ない気持ちが、痛いほど伝わってきたのだ。
客のすすり泣く声が、あちこちから聞こえた。

正直、初めてのお能でここまで感動するとは思っていなかったため(スミマセン)
とてもびっくりしたし、いい体験だった。
心を浄化したいときに、ときどき観るのはいいかも知れないな。




余談ですが…
このことを、日ごろ私にドイツ語を教えてくれる人に伝えたい、と思い、
「ええっと… 金春“座”」って何と言うのかな」と
ウィキペディアのドイツ語版を読んだら
「金春座=Kompal Schule(=School)」だって…。
School…学校…。確かにそうなんだろうけれど…

コメント一覧

神奈川絵美
コメントありがとうございます!
すみれさん、こんにちは コメントくださいましてありがとうございます

なるほど~そうですよね。どうも私は字面の印象から、「グループ」を連想していたのでスクール=学校? と違和感を持っていたのですが、流派ということでもありますものね。勉強になりました

お能は衣裳も美しいですし、荘厳な雰囲気の中、心が洗われていくような気がしました。また機会あれば行ってみたいです
すみれ
お美しいです
いつも絵美さんの素敵な着物姿に癒されています。
お能って、3回くらいしか行ったことがないのですが、最高峰の総合芸術ですね~。
スクールって、「~派」と訳されることがありますね。
多分「金春座」をお能の流派の内の一つととらえ、「金春派」の意味で使用しているのでは?
神奈川絵美
たゆたゆ
ゆかりーなさん、こんにちは
私、この日は正面の一番後列、真ん中あたりに座っていたので、ほかのお客さんの様子を後ろから見渡せたのですが、(私も含めて)多くの方がたゆたっていたみたいです
でも「小鍛冶」は動きが激しい方でしたし、狂言もあったりで全体的には楽しかったですよー。

いやーでもホントに、「楊貴妃」のラストシーンは感動的でした。山井さんの表現力のなせる技なのでしょうね…
ゆかりーな
能楽
お仕事で疲れた心身に、能楽の調べがとても心地よかったでしょうね。

私はいままで3~4回お能を見に行きいましたが、ほとんど「たゆたう」という感覚でウトウト

まぁ、それもまたよいのです、と山井さんがおっしゃっていたらしいので、安心して「たゆたって」いますが

それにしても絵美さんの能楽鑑賞記、わかりやすくて、どんなところが気持ちを揺さぶられたのかよく伝わってきます。

さすがです。もちろんお着物もはんなりと美しいわ


神奈川絵美
風子さんへ☆
こんにちは いやはや、ようやく一区切りつきました。

お能は、一所懸命観る、というよりも「ゆだねる」方がいい感じ また行ってみたいです。そうそう、狂言も一演目あったのですが、こちらはとーっても楽しかったです。落語並みに笑いました
神奈川絵美
Miwakoさんへ♪
こんにちは 小さいころからの環境って色彩感覚に大きな影響を与えるのでしょうね。7歳までにキレイ色をたくさん見せた方がいいと聞いたことも。

School、そうですか…どうも「英会話スクール」と同じノリを感じてしまいます
神奈川絵美
sognoさんへ★
こんにちは! 現実に疲れたときこそ非現実の世界に浸るのがいいですよねー
ヒーリング空間になりそうです

お着物、そうそう、私の斜め前の方が紫系の総絞りのお着物に、共布の帯を締めてらして(つまり全身紫系の総絞り)なかなかのインパクトでした。私は帯しか持っていませんが、絞りのお着物もいいですね~
神奈川絵美
私も…
やっぴーさん、こんにちは
ふふふ、私も気が遠くなりかけましたよ
まあそれも含めて、夢幻の世界を漂うような浮遊感がなかなかよかったです。
お囃子がロック~ わかるような気がします
風子
お仕事、仕上がって おめでとうございます。
ほ~っとなさいましたか。

お能、いいでしょ でしょ。♪
ゆっくり身をゆだねてしまえば、たゆとう時間。
好きでぅ。

Miwako
能鑑賞の着物
お茶のお稽古仲間に、能一家のご出身の方がいらっしゃるのですが、、、
彼女のお着物がいつも、はっとするほど鮮やかな色使いなのですよ。(お茶会などのときです)
娘の頃に親が用意してくれた着物を長く大事に着ているのか?とも思ったのですが、ご本人もあまり気にしている風でもないので、色彩感覚が”能装束”なのかも、と思いました。

見にこられるお客様の着物は、落ち着いていらっしゃるんですね。

裏千家もSchoolと言って英語で説明しますよ。 
sogno
絵美さん、お仕事お疲れ様でした。
大変ながらも充実しているご様子が文章から
感じ取られました。
能は、もう完全に非現実の世界ですよね。
心がしんと鎮まっていく状態、なんとなく
分かります。私も二度ほどしか鑑賞の経験がありませんが、能を観に行く、というだけで
背筋がシャン!とする気がします。
私も行きたくなりました~ ♪
お着物姿、ほれぼれです。優しげな色合いが
素敵!
やっぴー
いいでしょう?
ふふふ、お能デビューおめでとうございます。
たまにはこういうのもいいでしょう♪
α派が出てるからか(出てると信じてます…笑)
わたしなぞは途中気が遠くなりますが
でも、あのシンプルなお囃子がとてもロックで好きです
そして何より謡が好きなんです。いいですよねえ~
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