(少し前の記事ですが)フランスのルメール経済・財務相が、ルノーの会長兼CEOを辞任したカルロス・ゴーン氏について、退職手当を「法外な」金額にすべきではないと述べたという記事。
「ルメール氏は国内ラジオのフランス・アンテルで「カルロス・ゴーン氏への手当が法外なものになった場合、誰も納得しないだろう」と述べ、「われわれは極めて慎重に注視するつもりだ」と表明した。」
フランス政府はルノーの大株主とはいえ、ルノーとゴーン氏との間の契約で決まっている報酬にまでは、口を挟めないでしょう。他方、株主総会や取締役会で承認が必要な報酬であれば、拒否権を行使することはできそうです。
そこで、ルノーの開示書類で、ゴーン氏の報酬についてどういうことが書いてあるのか、見てみました。
REGISTRATION REPORTという書類(2017年版最新)が、日本の有報に当たる書類のようです。
「3.4 Compensation of corporate officers」(282ページ~)という項目で、30ページ近くかけて書いています。そのうちのかなりの部分が会長兼CEO(つまりゴーン氏)に関わるものです。報酬に関する方針や新年度の予定報酬に関する説明(株主総会で承認予定の報酬方針など)も含まれています。(日産もルノーに対抗してガバナンスを強化するというのであれば、有報にこのくらいの内容を書くべきでは。)
ゴーン氏の報酬は、固定部分と変動部分にわかれ、変動部分はさらに毎年付与される部分と長期部分にわかれています。さらに年金や a non-compete agreement(競業禁止契約(による報酬))も予定されているようです。
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2017年の実績を見ると、2017年に開催された株主総会で承認された方針に従って、支払または配分(費用計上のことでしょう)されているそうです。
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会計処理のことまでは書かれていないようですが、株主総会で承認された報酬方針に従って、支払がなされ、未払い分も含め費用計上しているのでしょう。
2018年分のゴーン氏の報酬は2018年の株主総会で報酬方針が承認されているでしょうから、その分は確定で、フランス政府がどういおうと、ゴーン氏には支払われるのでしょう。
ただし、競業禁止契約に基づき退職後支払われる報酬については、株主総会で契約自体は承認しているものの、実際の支払は取締役会の承認が必要で、費用計上もしていない(No amount due for the past financial yearと書いてある)ようです。
この分は、大株主であり取締役も出しているフランス政府が反対すれば、支払われないのでしょう。
会計処理という面では、日産ゴーン事件の虚偽記載で問題になっている契約に似ているように思われます。ゴーン氏側は、書類はつくったが、承認されていないので法的には効力がないといっていますが、ルノーとの間で結んでいる競業禁止契約と同じような契約であれば、そのような主張も納得できます。また、(同じような契約だとすれば)会計処理も、ルノーが費用計上不要としているのであれば、日産も同様に費用計上しない(有報の役員報酬欄にも記載しない)方法でよいのではないかと思われます。ルノーが採用しているIFRSと日産が採用している日本基準の差では説明がつかないでしょう。
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(301ページ)
いずれにして、日産の会計処理に関しては、2月12日の決算発表で、きちんとした説明がなされることが期待されます。
ゴーン被告の31億円手当、仏政府「認めない」(読売)
「仏紙ル・モンドなどは、ゴーン被告が退任後にルノーから受け取る手当や報酬の総額は少なくとも2500万ユーロ(約31億円)に上るとの試算を伝えている。競合他社に転職しないことを条件に支払われる400万ユーロ(約5億円)超の手当なども含まれ、ルノーは支払額を決めていない。」