日産ゴーン事件で重要な役割を果たしたハリ・ナダ氏に焦点を当てたかなり長い記事。
原題はHow a Powerful Nissan Insider Tore Apart Carlos Ghosn’s Legacyです。「日産の有力な内部者が、いかにしてゴーンの遺産を粉々にしたか」という意味でしょう。記事の内容も、一幹部でしかないハリ・ナダ氏が「ゴーンの遺産」をダメにしてしまったという趣旨のものです。
「新たな取材で得た情報は、ナダ氏らがいかにゴーン元会長を権力の座から引きずり降ろし、仕返しをし、主要なビジネス上の決定をほとんど監視されることなく下そうとしていたかを示唆している。アライアンスからのゴーン元会長追放は、企業社会にショックを与え、1社だけではなく、自動車3社の基盤を揺るがした。日産のシニアアドバイザーにとどまるナダ氏の行動は、今も同社とそのパートナーに禍根を残している。」
全体の印象は、海外メディアが外国人幹部・従業員を中心に取材しているからということもあるのでしょうが、日本の会社の話なのに、日本人の印象が薄いなあというものです。
長い記事なので、まず登場人物の紹介から(肩書きは当時のものを含みます)。
ハリ・ナダ氏 専務執行役員、ケリー元代表取締役の業務の一部を引き継ぎ、法務やコンプライアンスなどを担当
ホセ・ムニョス氏 日産の元幹部兼ゴーン元会長の側近、北米日産の統括担当、現在は韓国の現代自動車のグローバル最高執行責任者(COO)
ラビンダ・パッシ氏 日産のグローバル法務担当
パッシ氏の妻ソニア氏
クリスティーナ・ムレイ氏 コンプライアンス責任者
キャサリン・カーライル氏 ナダ氏の側近のひとり
大沼敏明氏 元秘書室長
永井素夫氏 監査委員会委員長
ウェーブストーン IT関係のフランスの会社 (ハッキングのため?)ナダ氏が起用
国際法律事務所レイサム&ワトキンス
クリアリー・ゴットリーブ・スティーン・アンド・ハミルトン パッシ氏が起用した法律事務所
森・濱田松本法律事務所 パッシ氏が起用した法律事務所
ゴーン元会長
ケリー元代表取締役
西川広人氏 前最高経営責任者(CEO)
内田誠氏 現CEO
ルノーのティエリー・ボロレCEO
ナダ氏の日産におけるポジションについて。
「14年にCEOオフィスに移った。ナダ氏はケリー元代表取締役の業務の一部を引き継ぎ、法務やコンプライアンスなどを担当するようになった。
このポジションは、ナダ氏がゴーン元会長にとって実質的な参謀であることを意味していた。西川氏が17年にCEOに就任すると同氏の参謀となった。横浜にある日産本社の21階の幹部フロアで勤務するナダ氏には、最高幹部らの内部での動きがはっきりと見えていた。」
ナダ氏によるハッキング行為について。
「事情に詳しい複数の関係者によると、18年前半のある時期にナダ氏は、日産とアライアンス企業のコンピューターシステムに侵入するため、ウェーブストーンという仏企業を起用した。日産のシニアITマネジャーらは、侵入を検知するまでこのプロジェクトについて知らされておらず、この動きに驚かされることとなった。
ブルームバーグが確認した報告書によると、表面上の目的は、同社のサイバーセキュリティー防衛体制を試すことだった。しかし、普段は日産のIT関連業務に携わることのなかったナダ氏は、これによってゴーン元会長の通信内容を閲覧することができるようになった可能性がある。」
「ナダ氏がどの情報にアクセスしたのか、また、得た情報をどう利用したのかは分からない。しかし、セキュリティースタッフにウェーブストーンの行動をモニターさせることなく、外部から日産やアライアンスの電子メールシステムに入ったとすれば、いかなるデータの信ぴょう性も疑わしくなる。情報がコピーされる可能性があるだけではなく、追加されたり、消去されたりするかもしれない。電子メール受信箱を含めデータの整合性が疑問視される可能性がある。裁判所で証拠としての信用性に疑義が生じる可能性がある。」
ナンバー3だったムニョス氏の追放について。ムニョス氏と西川氏は対立しており、ナダ氏は西川氏の側だったそうです。
「ゴーン元会長、西川氏に次ぐ日産の事実上のナンバー3だったムニョス氏は、元会長らの逮捕当日、日本にいた。西川氏はムニョス氏と数人の幹部をオフィスに招き入れ、ゴーン元会長が逮捕されたと告げた。
ゴーン元会長逮捕のニュースは世界で報じられ、ムニョス氏は自身が主要な会議から締め出されていることに気付いた。11月後半にアライアンス関連の会議に出席するためアムステルダムを訪問。関係者らによると、日産の従業員らは、ムニョス氏の社有機利用や個人的支出について尋ねられたと同氏に打ち明けた。」
「当時のハガティ駐日米国大使とアルビニャーナ駐日スペイン大使は、ムニョス氏が日本に戻ったら起こる事態について懸念を伝えていた。ハガティ大使は地元テネシー州に日産の北米本社があることから、ムニョス氏および日産と親密な関係にあった。ムニョス氏の考えについて知る複数の関係者によると、同氏は逮捕を恐れ、日本に戻らなかったという。」
ゴーン氏逮捕後のナダ氏について。
「ナダ氏の行動に詳しい数人の関係者によれば、ムニョス氏が退社すると、ナダ氏は、ライバルあるいは忠誠的でないと見なされた主要幹部らの処分を率いた。関係者の1人によれば、日産はナダ氏にボディーガードや運転手、自動車をあてがい、家賃が月約120万円の六本木の高級マンションをセカンドハウスとして借り上げた。」
社内調査について(法律事務所の関与など)。ナダ氏が、不正疑惑に深く関与していたことが明らかになっても、日産は同氏に調査を統括させていました。
「西川氏はゴーン元会長、ケリー元代表取締役についての社内調査を命じた。ムレイ氏とパッシ氏がコンプライアンスと法務部門の責任者として調査を率いた。...
ナダ氏は、パッシ氏とムレイ氏に対し、国際法律事務所レイサム&ワトキンスが調査を援助する見込みであることを告げた。」
「レイサム&ワトキンスは長年にわたり、ゴーン元会長への報酬支払い方法について日産に助言していたが、自社の仕事に対する調査に関与することになりそうだった。社内調査が本格化すると、ナダ氏はムレイ、パッシ両氏と毎日会議を開いた。」
「ブルームバーグが確認した文書と複数の関係者によれば、この時点までに、検察当局との司法取引によりナダ氏がCEOオフィスの責任者としてゴーン元会長に対する疑惑に深く関与していたことが明らかになったものの、ナダ氏は引き続き社内調査を統括していた。ゴーン元会長、ケリー元代表取締役と日産は、その疑惑について肯定も否定もせず19年9月にSECと和解している。」
西川氏の報酬不正上乗せ問題発覚後のパッシ氏・ムレイ氏の動きなど。
「逮捕の1カ月後に保釈されたケリー元代表取締役は文芸春秋のインタビューで、西川氏も株価連動型役員報酬制度で権利の行使日を変更し、約4700万円を上乗せして受け取っていたと指摘。さらに、西川氏はゴーン元会長の報酬の状況について十分に認識していたとも述べた。日産は、ケリー元代表取締役の主張について別の調査を実施するほかなくなった。
その後、事情に詳しい複数の関係者とブルームバーグが確認した文書によると、ムレイ氏とパッシ氏はナダ氏自身も株価連動型報酬を上乗せして受け取っていたことを発見した。
ナダ氏が、ゴーン元会長の不正行為と西川氏の報酬問題の両方の調査を統括していたことを考えると、利益相反の懸念が強まることを文書は示している。裁判では、ナダ氏の信頼性が疑問視されるだろうし、ゴーン元会長が、不当解任されたとしてオランダで日産を提訴しているため、原告側の訴えに対する日産側の主張は危ういものになっていると、パッシ氏はある文書に書いている。
パッシ氏は、レイサム&ワトキンスの社内調査への関与やナダ氏と、同じく司法取引をしたとされる元秘書室長の大沼敏明氏の役割について調査するため、クリアリー・ゴットリーブ・スティーン・アンド・ハミルトンと、森・濱田松本法律事務所を起用した。別の文書は大沼氏が株価連動型役員報酬上乗せの旗振り役だったことを示唆している。
両法律事務所は19年7月23日、パッシ氏に対し4ページのメモを届け、ナダ氏や大沼氏、レイサム&ワトキンスが、ゴーン元会長の調査に関与し続けることのリスクを強調。「関連する議論や意思決定の過程から分離しておく」べきだと書いた。」
「ナダ氏の怒りを買うことは間違いないと感じたパッシ氏は、メモを日産の取締役で、監査委員会委員長の永井素夫氏の元に持って行った。パッシ氏とムレイ氏は、調査における役割を究明するために、ナダ氏は監査委員会のインタビューを受けるべきだと主張した。しかし、ブルームバーグが確認した文書によると、永井氏はメモを他の委員と共有することはなかったもようだ。」
取締役会でも調査へのナダ氏らの関与は議論されなかったそうです。
「ムレイ氏が作成した報酬問題に関与した80人のリストも日産の取締役と十分に共有されることはなかった。ムレイ氏が送付した電子メールによれば、ナダ氏は取締役会の一部のメンバーに対し、レイサム&ワトキンスのゴーン元会長に関する報告書で十分だと話した。また、電子メールは、ナダ氏自身が上乗せした報酬を受け取っていたと取締役会が知らされることはないことを示していた。ムレイ氏は退任を決意し、退職条件について交渉した。」
「失望したパッシ氏は、ナダ氏や大沼氏、レイサム&ワトキンスのゴーン元会長に関する社内調査への関与についての懸念を社外取締役らと共有する決心をした。19年9月9日の取締役会のために準備された書簡で、パッシ氏は、ナダ氏の調査への関与と利益相反について指摘するのは、自身の「職務上かつ道徳的義務」であるとしている。取締役会でこの書簡について議論されることはなかった。その代わり西川氏の報酬問題と、それに伴う混乱が議論された。西川氏は辞任に追い込まれた。
パッシ氏はこう警告していた。「これらの問題は重大な懸念をもたらし、やがて頂点に達し、白日の下にさらされ、日産にとって危機的な状況を生み出すと思う」。」
このパッシ氏も(口封じのため?)追放されてしまいます。
「1週間後、パッシ氏はゴーン元会長の調査の一部から外された。パッシ、ムレイ両氏が、日産の取締役会に提出された最終報告書を目にすることはなかった。」
「同月(2019年10月)、西川氏の後継者選任について日産の取締役が協議した数日後にルノーのティエリー・ボロレCEOが同社の取締役会で解任された。ボロレ氏は日産の筆頭株主であるルノーの代表者として、パッシ氏が永井氏や独立社外取締役に書簡を送付した後に何の行動も起こされなかったことに懸念を表明していた。
日産の取締役に宛てた書簡でボロレ氏は、「日産の現在の問題は、法令と最良の国際的慣行に従い、十分に透明性の高いプロセスを通じてのみ克服することができる」とし、「現在の不透明性は容認し難い」と指摘した。」
「パッシ氏のチームは、日産の内田誠・新CEOに、利益相反の可能性があることなどゴーン元会長に関する調査の問題点について説明した。今年1月、内田CEOの直属の部下だったパッシ氏は、グローバル法務担当から外された。そして3月には日産の人事部から、英国に戻り、他のポジションに就く必要があると告げられた。事実上の左遷だった。事情に詳しい複数の関係者によると、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の最中に家族を転居させることを懸念し、パッシ氏は抵抗した。
5月28日、裁判所の仮処分決定書を持った複数の人物と、日産が起用したと思われる法律事務所の弁護士少なくとも1人が、会社がパッシ氏に支給したノート型パソコンとiPhone(アイフォーン)を保全するため同氏の住居を訪れた。同氏の妻ソニア氏がスマートフォンで撮影した映像には、パッシ氏が訪問者たちに身元を明らかにするよう求め、何を望んでいるのかと話す様子が収められている。映像の中でソニア氏は、「子供たちが怖がっています」と話しているように聞こえる。この映像は、数人の知人や友人、日産の同僚らに共有された。ブルームバーグが確認した通信記録によれば、ソニア氏は、家族が日産に雇われた複数の人物に尾行されているのではないかと感じていたという。
日産は横浜地裁から、会社が支給した機器の占有移転禁止の仮処分を認められたものの、従業員に支給した会社の機器を回収する手続きとしては異例だ。また、映像では、少なくとも8人が訪問しており、会社が支給した機器を回収するだけの仮処分になぜこれほど多くの人数が必要だったかも不明だ。映像の中でパッシ氏は、ノート型パソコンとアイフォーンを自分で日産に返却すると申し出ており、「非常に不快な」捜索は脅しのようだったと述べている。
16年にわたり日産で勤務しているパッシ氏は、内部告発による公表に対する報復措置を受けているとして、居住する英国で雇用審判所に訴えを提起している。」
この記事を信ずるならば、日産のガバナンスは、ゴーン氏追放後もひどいものであるということでしょう。
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