日本公認会計士協会は、監査基準委員会研究報告「監査報告書に係るQ&A」の公開草案を、2019年6月14日に公表しました。
監査基準改訂(2018年)や監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」等の公表による新しい監査報告書の実務の定着を支援するための、より具体的な解説を提供するQ&Aとのことです。
監査報告書全般のQ&Aが7件、監査上の主要な検討事項(KAM)関係のQ&Aが20件示されています。
KAM関連がメインだと思いますが、それ以外にも、いくつか興味深い解説があります。
まず、監査基準委員会報告書 700 と国際監査基準(ISA)700 に基づく監査報告書の記載内容の差異についてのQ&Aによると、日本の監査報告書には、ISA700で規定されている以下のような記述が欠けているそうです。
「合理的な保証は、高い水準の保証であるが、国際監査基準に準拠して行った監査がすべての重要な虚偽表示を常に発見することを保証するものではない。」
「不正には、共謀、文書の偽造、取引等の記録からの除外、虚偽の説明、又は内部統制の無効化を伴うため、不正による重要な虚偽表示リスクは、誤謬による重要な虚偽表示リスクよりも高くなる。」
KAMのような監査ごとに異なる情報を監査報告書に記載するのもよいのでしょうが、監査とはこういうものだというこうした一般的な情報を記載するのも、期待ギャップを減らす意味から重要と思います。日本の監査報告書にも含めるべきなのでは。監査基準に書いてあるのだから、監査報告書利用者はそれを読めばいいというのは不親切です。また、監査報告書に不正について書いてあれば、不正発見は監査目的の対象外という誤解もなくなるでしょう。(今回のQ&Aによれば「監査報告書に記載することが禁止されているわけではない」そうです。)
これらのほかにも、継続企業の前提に関する経営者の評価責任に関する基準などにも差異があるそうです。
また、Q1-4では、英文で監査報告書を作成する場合の留意点を説明しており、その中で、(個人的に前から気になっていた)事務所(監査法人)名のサインだけでなく、パートナーのサインも必要かなどについてふれています。
「我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準(以下「日本の監査の基準」という。)に準拠して監査を実施し、監査報告書を作成する場合は、作成する言語にかかわらず、監査の基準のみならず、以下の公認会計士法の規定に従う必要があることに留意が必要である。
会社その他の者との利害関係の有無の記載(同法第25条第2項、第34条の12第3項)
業務執行社員は、その資格を表示し、自署・押印する(同法第34条の12第2項)」
これによると、英文監査報告書でも、パートナー個人のサインが必要ということですが、実務ではどうなっているのでしょうか。
ただし、「なお、海外の法令又は取引所の規則により現地の言語で監査報告書を作成する場合は、現地の法令又は規則を遵守する必要があるため、当Q&Aの対象とはしていない」として、指針は示していません。 しかし、 海外の法令又は取引所の規則が適用されるといっても、日本で日本の監査法人が監査している以上、日本の公認会計士法が適用されない理屈はないように思われます。
また、「日本の監査の基準」以外の米国監査基準や国際監査基準に準拠する場合について、このQ&Aの対象外とするのはよいとしても、日本の法律の対象外ではないでしょうから、やはり、公認会計士法の対象となり、パートナー個人の署名が必要ということになるのでしょうか。
公認会計士法の解釈としてどうなのかという問題です。(既に決着がついているのでしょうか。)
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