金融庁は、「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)~」を、2018年9月26日に公表しました。
「PDCAサイクルに基づく業務運営を強化する観点から、従来の「金融レポート」と「金融行政方針」を統合し」た報告書です。
160ページ弱のものです。ポイントを20ページ弱にまとめた資料も併せて公表されています。
開示や監査関係については、これだけです(ポイントより)。

「金融育成庁」としての7つの取組みのひとつである「活力ある資本市場の実現と市場の公正性・透明性の確保」(本文45ページ~)の一項目です。
本文では以下の3つに分かれています。(「 」内は本事務年度の方針)
企業情報の開示の充実(50ページ~)
「投資判断に必要な情報提供の確保や企業と投資家の建設的な対話の一層の促進に向け、上記のディスクロージャーワーキング・グループ報告に盛り込まれた以下の取組みを行う。
・ ルールへの形式的な対応に留まらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すため、企業が経営目線で経営戦略・MD&A・リスク等を把握・開示していく上でのプリンシプルベースでのガイダンスを策定するとともに、開示に関するベストプラクティスの普及・浸透を図る。
・ あわせて、役員報酬や政策保有式の開示の充実を含め、上記の報告に盛り込まれた諸施策の実現のための内閣府令等の改正を行い、来年3月決算の開示からの適用を目指す。その際、政策保有株式の開示の充実に関しては、前述のコーポレートガバナンス・コードの改訂の趣旨も踏まえた効果的な実施を図る。
・ フェア・ディスクロージャー・ルールについては、今後、企業による積極的な情報開示が促進されるよう、ルールの趣旨の浸透を図る。
・ 有価証券報告書と事業報告等の共通化・一体化に向けた取組みについては、引き続き、関係省庁と連携し、一体的な開示を行おうとする企業の試行的取組みを支援しつつ、一体的開示例や関連する課題等について検討する。 」
(「経営目線」ではなく、有報の利用者である投資家目線で開示してほしいものです。「共通化・一体化」については、急速に進むことはなさそうな書きぶりです。)
会計監査の信頼性確保等 (52ページ~)
「会計監査の信頼性確保のための上記の諸施策の深化に向け、以下の取組みを実施する。
・ 監査法人のガバナンス強化について、各監査法人が適用した「監査法人のガバナンス・コード」の実効性について、公認会計士・監査審査会とも連携し、監査法人に対するモニタリング等を通じて検証する。
・ 会計監査に関する情報提供の充実に関し、改訂監査基準の実施に向けた制度整備を進めるとともに、通常と異なる監査意見が表明された場合等、監査人に対してより詳細な資本市場への情報提供が求められるケースにおける対応のあり方について、関係者と連携しつつ検討を行う。
・ 監査法人の独立性の確保に関し、欧州等における監査法人のあり方に関する施策やその効果等を注視するとともに、我が国において、監査法人、企業、機関投資家等の関係者からのヒアリング等を実施する等、更なる調査・検討を進める。 」
(2番目の項目の前半は、KAM導入の話ですが、後半は、監査人交代後の東芝の監査を念頭に置いたものでしょう。企業に不利な監査意見が出そうになったら、金融庁から圧力をかけるということでしょうか。
3番目は、監査事務所の強制ローテーションの話でしょう。「欧州等」のうち「欧州」(EU)はすでに強制ローテーション導入済みです。)
「監査法人等の監査品質の向上に向けた態勢のモニタリング
・ 監査品質を向上させるためのトップの姿勢を含む経営層の認識及び具体的な施策への反映について検証する。また、大手・準大手監査法人が監査法人のガバナンス・コードを踏まえて構築・強化した態勢について、監査品質の向上のために実効的なものとなっているか検証する。
・ 海外子会社にかかるグループ監査の対応状況や、新規受嘱にかかる監査実施体制を検証する。IT を活用した監査の状況や、サイバーセキュリティ対策の状況についても確認する。
・ 日本公認会計士協会の品質管理レビュー等の実効性向上の進捗等を踏まえ、公認会計士・監査審査会のモニタリングとの実効的な連携等に取り組んでいく。 」
(監査のモニタリングについては、公認会計士・監査審査会の資料の方が詳しそうです。)
「IFIAR を通じたグローバルな監査の品質向上に向けた積極的な貢献
IFIAR 事務局への支援の継続、IFIAR における議論の国内への還元、一元的な金融監督当局としての知見も活用したグローバルな監査品質向上に向けた積極的な貢献を行っていく。 」
「公認会計士試験受験者の裾野拡大
日本公認会計士協会と連携して講演等の取組みを実施する。 」
会計基準の高品質化(55ページ~)
「企業の財務情報が企業活動をより適切に反映したものとなるよう、活力ある資本市場の実現のための重要なインフラである会計基準の質の向上を目指し、引き続き、以下の取組みを一体的に進める。
・ IFRS の任意適用企業の拡大促進
・ IFRS に関する国際的な意見発信の強化
・ 公正価値測定に関する会計基準の開発や金融商品会計基準の検討等の日本基準の高品質化に向けた ASBJ の取組みのサポート
・ 国際的な会計人材の育成に向けた取組みの推進」
そのほか、「市場監視機能の向上」という項目(63ページ~)で、「上場企業等の開示」についてふれていますが、これについては、監視委のレポートの方が詳しいでしょう。
これはスルガ銀行事件を意識した記述でしょうか。
↓

(ポイント13ページ)
金融庁として反省している箇所は見当たりませんでした(詳しく見ればあるのかもしれません)。
仮想通貨についてもふれています。
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(ポイント14ページ)
あくまで、仮想通貨交換業者の問題という認識のようです。
報告書全体としては、金融機関の監督の話がメインですので、金融機関の監査などに関わる人は目を通しておいた方がよいかもしれません。
地銀の「目先の収益優先」厳しく批判 金融庁が行政方針(SankeiBiz)
「行政方針では地銀の経営姿勢を厳しく批判した。取締役会が形骸化し経営課題に関する実質的議論が行われないなど企業統治に課題があり、監視を強化する。
特に懸念を強めるのが投資用不動産向けの融資だ。スルガ銀問題を踏まえ顧客の返済可能性を考慮した融資が行われているか、不当な抱き合わせ販売を行っていないかなどをアンケートや立ち入り検査で調べる。」
金融庁、投資用不動産の融資審査を点検 金融行政方針を公表(日経)