金融庁のウェブサイトに、「融資に関する検査・監督実務についての研究会」という会議の議事録が掲載されています(7月4日開催分)。
会議の目的は...
「本研究会では、...より的確な将来見通しに基づく引当を可能にする枠組みを含めて、融資に関する検査・監督実務のあり方についてご議論をいただきたいと存じます。」(越智内閣府副大臣あいさつより)
事務局からの説明の後、委員の発言とそれに対する事務局のコメントという形で、ディスカッションが行われたようです。
会計士協会の役員である委員も発言しています。
「○小倉メンバー
日本公認会計士協会の小倉と申します。...今回、検査マニュアルについては自己査定、償却及び引当の別表を含めて廃止するということが示されております。金融機関が一般に公正・妥当と認められる企業会計の基準に従って適切な償却・引当を実施し、その結果を財務諸表として公表することは、金融機関の財務内容等の透明性の確保のためにも非常に重要なことであると考えております。
会計監査人は、金融機関の財務諸表について、償却、引当も含めて会計基準に従っているかどうかを独立の第三者としてチェックする、監査をするということでございます。そういった金融検査マニュアルの別表が廃止されてしまった場合には、金融機関の財務諸表等の作成の基本となる考え方が失われてしまうことになるという懸念を持ってございます。ですので、現状の実務を否定しないで、それをベースにということですが、別表に記載されている資産査定の基本的な考え方は、明文として引き続き残していただきたいと考えております。
現状の実務をベースに創意工夫をということでございますけれども、創意工夫は認めることがよろしいと思っておりますが、創意工夫をされた各々の金融機関の財務諸表の利用者に対する比較可能性を担保するためには、貸倒引当金の計上基準に係る注記等、財務諸表上の開示を充実させることが必要です。同じやり方であれば、何ら注記は要らないと思いますけれども、創意工夫をされるのであれば、開示を充実させないと、比較可能性が担保されないと考えております。
本日のご説明資料の中では、6ページのところに、原因分析ということで、過去のデータをベースに引き当ての見積もりを行ってきたというところがございまして、それで少し問題が生じているということもありますけれども、我々が監査に従事しています公開している金融機関、上場会社は、四半期ごとに財務諸表を公表しておりますので、過去ベースで資産査定をするといっても、3カ月ごとに情報を更新しております。当初、自己査定基準が入ったときは、仮基準日ということで12月に基準日を設けて、期末日までの修正ということでやっておられましたけれども、その後、平成20年に四半期報告が入ってからは、四半期ごとに情報の修正をされて公表されていますので、引当金の不足に該当するような債務者の予兆があった場合には、次のすぐ3カ月後には反映できるということもございますので、自己査定というのがそれほど大きな問題なのかというのは、監査をやる身からすると、どうなのかなという意見を持っております。
それに対しまして、実績率ですね。債務者区分を判定した上で貸倒引当率を算定することになりますが、その引当率のほうについては、主に貸倒実績率法という方法で金融機関は計上されております。貸倒実績率は、過去の算定期間の貸倒れの毀損をもとに算定された率を使いますので、やはり最近は非常に倒産が少ない、景気がいいということもありますけれども、金融円滑化法の関係も一部には出ているかと思いますが、非常に低い実績率になっているということが各金融機関の悩みと認識しております。
日銀様でもレポート等出されておりますが、いろいろな創意工夫はやっておられますが、それも少し限界には近づいているかなというところもありますので、今後はぜひご議論の中で、上流のどのような融資方針かというところもございますけれども、実務上、最低基準検証ということも今回の考え方で出ておりますが、今の貸倒実績率法による引当が本当に最低基準を満たしているのかというあたりはぜひ議論していっていただければと考えております。以上です。」
当局のマニュアルとは別に、会計基準という確固たるものがあって、それに従って会計処理や監査が行われているのではない、マニュアルがなくなったら、会計処理も監査もできない(だからどうにかしてくれ)ということなのでしょうか。
事務局の回答は...
「○渡辺検査局企画審査課長
今ご指摘ありました中で非常に重要な点が幾つか入っていると思います。1つは、開示の充実というところです。これは比較可能性というお言葉もありましたけれども、やり方が1つであれば、開示の必要性はそれほど高くない。それが多様性が出てくるとこの必要性は高まっているということは確かにあろうかと思います。海外の事例などもいろいろ研究しているところですが、実は日本でも幾つか、銀行さんでもご自分で工夫をされているところとか、あるいは信金さんで、通常、定型のフォーマットで出されているんですけれども、定型のフォーマットであまり縛られないところに、業務報告のようなところ、そこにむしろ書き込まれて、例えばご自分の金庫さんの再生の考え方、それに基づいて、例えば債務者区分を自分たちはどう扱っているかということをかなり詳しく実は書かれていらっしゃる金庫さんなどもあります。なので、1つの重要なテーマになろうかと思います。
あと、債務者区分なり実績率、これも重要なテーマかと思います。例えば先ほど田中メンバーがおっしゃったような、油価が動いたりとか、将来的に動くことが見込まれる場合、これは会計に落としていくと、債務者区分にどうなのかとか、実績率がどうなのか、債務者区分を過去の財務データでやっていたとしますと、例えば2年連続で一定の財務状況だと一定の債務者区分になるということですと、そこで2年遅れるリスクもありますし、ましてや実績率も、小倉様おっしゃったように大幅にずれる可能性もありまして、この変動の幅が大きい場合に、こういうやり方かどうかということも場合によってはあるのかなということは、伺っていて、外国の例あるいは各地域金融機関の例などを見ていると、幾つかそういう例もあろうかと思います。」
会議の座長である学者も、会計との関連について発言しています。(この座長も会議の目的がよくわかっていない?)
「○岩原座長 会計上の概念との関係というのは多分これからいろいろと問題になっていくところではないかと思います。かつてそれこそ20年前に金融検査マニュアルを導入したときにも、会計上の概念との関係が非常に問題になり、かつ当時は、不良債権の概念がいろいろと違っていたわけですね。例えばディスクロージャー誌に開示される不良債権の概念、それから、当時ですと金融監督庁が金融機関に求めている自己査定における不良債権の概念、それから、3番目には、金融再生法上の分類としての不良債権があって、それが非常に混乱をもたらしたんですけれども、多分、今ここで我々が研究会でまず検討したいと思っているのは、金融機関の自己査定における概念を主に検討したいということでしょうか。」
事務局の回答は...
「...自己査定上のものとどう関係するかというものにつきましては、これはもちろん現状の実務を否定しておりませんので、それをとるというやり方もあると思いますけれども、先ほど田中メンバーがおっしゃったように、米国では実は自己査定上の概念と引当の概念、これはまた2回目以降正確にご説明いたしますけれども、それは一応は関係はしておりますが、分かれております。したがいまして、その関係自体をどのように考えるかということも実は大きなテーマではなかろうかと思っております。」
会計士協会は、従来と同じような(金融庁のルールに従った)自己査定をやってもらって、それと会計上の引き当てを連動させたい、金融庁の方は、連動させない分ける方法も検討したいということなのかもしれません。
当サイトの関連記事(関連報道について)(会議資料へのリンクもこちらから)
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