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もう一つの「創業家の悲劇」——シダックス創業者と長男の「目に余る公私混同」(現代ビジネスより)

もう一つの「創業家の悲劇」——シダックス創業者と長男の「目に余る公私混同」

いろいろもめたシダックスのTOBの背景には、「創業家にまつわる好ましからざる事実の数々」があるという記事。

大株主である創業家との間に、さまざまな関連当事者取引があったそうです。シダックスに出資したファンドが、それらの見直しを図っていました。

ひとつめは、「神山フォレスト」というビルの賃料です。

「東京・渋谷駅から文化村通りを突き進み、いま話題の旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の本部を通り過ぎてしばらく行くと、小洒落た飲食店や雑貨店などが散在する一帯に出くわす。「奥渋谷」などと呼ばれ、放送センターに近い場所柄、NHK関係者の姿も多く見られる地区だ。そこに「神山フォレスト」と名付けられた6階建てのビルが出現したのは2013年6月のことである。

建てたのは3年前に設立された「エスディーアイ」なる会社。志太勤氏の長男で当時も今もシダックスの会長兼社長を務める長男・勤一氏(65歳)の個人会社である。」

「ビルの完成後、勤一氏は5~6階を自宅とし、3~4階は女性向けの賃貸マンションとした。そして、1階にはシダックスのフード関連子会社が運営する米国仕込みの高級レストラン「パティナステラ」が、2階にはやはりシダックスが大々的に参入したスポーツ&カルチャー事業の複合美容サロン「神山離宮」がテナントとして入ることとなる。

これにより勤一氏のエスディーアイにはシダックスから毎年、賃料が流れ込む仕組みだった。特定目的会社を嚙ませたスキームがその後に組成されたため詳細は摑みづらいが、有価証券報告書によると、シダックスは神山フォレスト借り上げで毎年1億円余りを支払い、うちエスディーアイには8700万円が流れていた。コロナ禍が襲った2020年春にレストランは休業を余儀なくされ、とうとう再開することはなかったが、それでも賃料は勤一氏のもとに流れつづけた。」

このビルの賃貸借契約は今年2月末で打ち切られたそうです。

また、かつては、創業家の資産管理会社に渋谷の大型ビルの賃料を払っていたそうです。

「こうした構図はシダックスにとって日常的なものと言えた。本社が入る渋谷の大型ビル「シダックスビレッジ」も当初は創業家の資産管理会社「志太ホールディングス」(志太HD)の所有物であり、毎年6億円余りの賃料が払われていた。2013年4月、シダックスは約88億円でビルを買い取っている。」

ふたつめは、保険代理店への支払いです。

「昨年10月末、シダックスは志太家のファミリー企業「シダ・セーフティ・サービス」との取引を打ち切った。長年、保険契約で数億円を支払っていた先だ。直前の2021年3月期における支払い保険料は6億3900万円。そこからシダ・セーフティ・サービスは代理店手数料を抜いていた構図だった。」

3つめは、創業家から買い取ったワイナリー事業の不動産です。

「ユニゾン主導の構造改革は創業家の聖域にまで及ぶこととなる。

創業者・勤氏が「男のロマン」と公言し、心血を注いだワイナリー事業がそれだ。シダックスは伊豆半島・修善寺町に約37万平方メートルにもわたる広大なぶどう畑とシャトー(醸造所)を所有し、隣接地にはホテルや野球場、テニスコートなどからなる複合施設を擁していた。その名も「中伊豆ワイナリーヒルズ」である。」

もともとは創業家の私的な事業でしたが...

「ところが2015年1月、事業主体が突然変わる。シダックスが一連の不動産を買い取ったのである。その額、約26億円。運営は新たに設立した子会社、シダックス中伊豆ワイナリーヒルズが引き継ぐこととなった。おそらく創業家の限られた財政力ではこの贅沢なビジネスの維持が困難になったための措置だろう。なぜなら運営子会社はその後、赤字垂れ流しが続いたからだ。損失額は毎年約1億~2億4000万円。そこにコロナ禍が追い打ちをかける。2020年度の最終赤字は3億6000万円にまで拡大した。

経営不振のシダックスにとって本来ならこれは無視できない不採算事業だが、カリスマ創業者肝いりのワイナリーは聖域と化した。それでもユニゾンはそこにメスを入れる。今年に入り検討作業が本格化、結局、4月1日付で創業家が運営子会社ごと買い戻すこととなった。公表ベースの不動産取得額は5億2800万円だが、関係者によると、すべて引っくるめると創業家が要した資金は十数億円。ほとんどを借金に頼ったという。確かに登記簿を見ると、関連不動産には6月27日付で志太HDを債務者に極度額13億円の根抵当権がきらぼし銀行によって設定されている。」

こういう経緯から、創業家とユニゾンとの関係が急速に悪化したのだそうです。

前期(2022年3月期)の有報をみると、たしかに、最初の2つについては、関連当事者取引として注記されていました。

(同社2022年3月期有報より)

また、ワイナリー事業については、2023年3月期第1四半期報告書で、以下のように注記がなされています。事業分離で若干の利益が出ていますが、それまでの損失を考慮すると、大きなマイナスだったのかもしれません。

「(企業結合等関係)
事業分離

当社は、当第1四半期連結会計期間において、連結子会社であるシダックス中伊豆ワイナリーヒルズ株式会社(以下、「中伊豆ワイナリー」という。)の全株式を当社のその他の関係会社に該当する志太ホールディングス株式会社へ譲渡いたしました。当該株式譲渡に伴い中伊豆ワイナリーは当社の連結子会社より除外されております。

1.事業分離の概要

(1)分離先企業の名称

志太ホールディングス株式会社

(2)分離した事業の内容

ホテル、飲食店の運営管理業務、結婚式場、貸席、宴会場の経営、

ワイン及び果汁の製造及び販売、酒類の販売

(3)事業分離を行った主な理由

当社は、再成長戦略「Re-Growth」の実現に向けた経営改革に取り組む中、事業ポートフォリオの選択と集中に注力してまいりました。中伊豆ワイナリーの事業については、不採算事業且つノンコア事業であることから譲渡対象として継続して検討を進める中、本株式譲渡の決断に至りました。

(4)事業分離日

2022年4月1日

(5)その他法的形式を含む取引の概要に関する事項

法的形式:受取対価を現金等の財産のみとする株式譲渡

譲渡持分、譲渡価額、及び譲渡後の持分比率

①譲渡持分:100%

譲渡価額:1円

③譲渡後の持分比率:-%

2.実施した会計処理の概要

(1)移転損益の金額

関係会社株式売却益:14百万円

(2)移転した事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額並びにその主な内訳

流動資産 210百万円

固定資産 19

資産合計 230

流動負債 245

負債合計 245

(3)会計処理

中伊豆ワイナリーの連結上の帳簿価額と売却価額との差額を、特別利益の「関係会社株式売却益」に計上しております。」

記事の筆者の本。

 

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