日本監査役協会は、「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・後編」を、2019年12月4日に公表しました。
全9ページの資料です。
6月に公表済みの前編では「KAM の概要に加え、早期適用を行う場合に直近で対応が必要となる事項(監査契約の締結、監査計画の策定段階)」を取り上げていましたが、後編では、期中と期末(監査報告書作成時)の実務上のポイントを示しています。
監査役の監査報告書作成時に、監査役はKAMのドラフトについて、以下のポイントから確認することが考えられるとのことです(Q3-4-1)。
「1.KAM として選定される項目の中に、監査役等と協議が行われていないものが含まれていないか。
2.KAM の記載内容に事実と異なる内容が含まれていないか、また、誤解を与える表現になっていないか。
3.KAM として選定される趣旨が利用者にとってわかりやすくなるよう、会社の固有の情報が記載されているか。画一的な記載になっていないか。
4.KAM の記載に会社の未公表情報が含まれている場合、監査人の守秘義務が解除される正当な理由の範囲内か。」
監査役としてこのようなチェックはするけれども、見解の完全な一致までは求めないそうです。
「KAM は監査役等と協議された事項の中から選定されるものの、最終的には監査人が決定するものであり、必ずしも監査役等と監査人との間で見解が完全に一致していることが求められるわけではありません。期中から協議を重ねていてもなお見解の一致に至らなかった事項が KAM として選定されたり、あるいは逆に選定されなかったりすることも考えられますし、監査報告書における表現についても最終的に見解の一致に至らないこともあり得ます。」(Q3-4-2)
ただし、見解不一致の場合は、再度の協議が必要だとしています。
「監査役等が KAM に該当しないと考える事項が KAM に含まれている場合、又は KAM の表現に疑問がある場合は、再度、当期の監査における他の項目との相対的重要性の観点に基づき項目の選定が適切か、又は KAM の趣旨(監査人の守秘義務の観点を含む)に照らして記載内容が適切かについて監査人と協議する必要があります。」(同上)
会社法上の会計監査人の監査報告書における KAM の取扱いについてもふれています。会社法監査での適用を否定はしていませんが、実務的に難しいという考えのようです。
「企業会計審議会監査部会の議論では、現行の実務スケジュールを前提とすると会社法上の監査報告書に KAM を記載するには解決すべき課題があるとされたことから、会社法上の会計監査人の監査報告書への KAM の記載を義務付けることは見送られ、任意とされています。そのため、任意で記載するか否かについては、通常個社の事情を踏まえ、監査契約締結時に執行側、会計監査人、監査役等の間で協議することになります。その一方で、株主の視点からは、計算関係書類の理解を深めるため、会計監査人の監査報告書に KAM が記載されることが望まれることも考えられます。」(Q3-4-3 )
「現在の会社法と金商法の二元的な開示制度の下では、業態や事業の内容が複雑であったり、KAM の記載に際して監査人から追加の開示が求められるような場合は、有価証券報告書の記載内容を確認する前に KAM を選定かつ記載内容を確定することは基本的に難しいと言えます。また、会社法上の会計監査人の監査報告書の作成までに有価証券報告書の記載内容をほぼ確定させておくために、有価証券報告書を株主総会招集通知発送期限までに作成することも、1 か月程度の前倒しが必要になると想定され、やはり難しいと言えます。」(同上)
また、このQAの脚注4によると、「会社法上の KAM の位置付けは明確化されていないのが現状」とのことです。
監査役等の監査報告書の記載への影響についても、会社法上の会計監査人の監査報告書に KAM が記載されていない場合と記載されている場合に分けて、説明しています(Q3-4-4)。
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