金融庁の公認会計士・監査審査会は、「監査事務所検査結果事例集」の平成29年度版を、2017年7月26日に公表しました。
「本年版については、基本的な構成は昨年版を踏襲しているが、最新の検査事例を追加するなどリニューアルを行い、記載内容もより理解しやすいように工夫している。」(「はじめに」より)
改訂のポイントは以下のとおりとのことです。
「「Ⅰ.根本原因と業務管理態勢」
監査事務所の規模別に、ガバナンスと不備の根本原因との関係を解説したほか、自ら根本原因の究明に向けた取組をしている大手監査法人の例を紹介。
「Ⅲ.個別監査業務編」
約3割の事例について最新のものと入れ替え。特に「財務諸表監査における不正」については、重要性が一層増していることから、検査事例や留意点などの記載を充実。
また、グループ監査に係る改善取組を行った監査法人の例など「評価できる取組」を追加。」
130ページほどのボリュームのものです。
とても全部は紹介しきれませんが、最初の事例だけ引用しておきます。
「【事例1(大手監査法人)】
当監査法人においては、会計上の見積りの項目に関して、見積額と実績額に多額の差異が生じているにもかかわらず、見積計算の精度について十分に検証していないなど、個別監査業務での重要な不備が認められた。
このような不備の直接的な原因は、監査チームが、法人所定の監査手続書や様式に従って文書化することに注力するあまり、被監査会社のビジネス等の実態を理解し、十分な監査証拠を入手したかについて自ら判断するという意識が不足していることにあった。このような状況を踏まえ、さらに原因を追究した結果、当監査法人では、自らの所属するネットワーク・ファームにおけるレビュー(以下「グローバルレビュー」という。)等の外部検査の結果が人事評価に大きく反映されることから、外部検査で指摘(特に再指摘)を受けないことを強く意識していた。そのような状況において、最高経営責任者及び品質管理担当責任者は、外部検査で過去に指摘された事項の対応を優先して監査手続書や様式の改善を行っており、それ以外の事項に対する監査品質向上のための各社員が役割を主体的に果たすことを促す取組が不足しているという品質管理態勢上の問題が認められた。 」
これを東芝の事例に当てはめると、WH社の工事損失引当金が数千億円も急増したが、これは過去の見積りが大きく違っていたことを意味するのだから、十分検証が必要だ、安易に会社説明を認めてはいけないということでしょう。また、WH社の「ビジネス等の実態」が過年度も含めてこれまでどうだったのかも検討しなければならないということになります。
後半の「品質管理態勢上の問題」については、外部検査(金融庁検査も当然含むのでしょう)指摘事項を優先的に改善するのがいけないといわれると、監査事務所側も困ってしまうのでは。もちろん、指摘事項だけを注視し、全体を見ていないとしたらまずいのですが...。
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