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すべては創業者の死からはじまった…「ニチイ学館MBO」衝撃の顛末(現代ビジネスより)

すべては創業者の死からはじまった…「ニチイ学館MBO」衝撃の顛末

ニチイ学館」のMBOについて取り上げた記事。

MBOは成立し、同社は上場廃止になる予定ですが、いろいろと問題があるようです。

MBOのきっかけは...

「すべては、昨年9月、創業者の寺田明彦氏が、会長のまま、83歳で亡くなったことから始まった。三度の結婚を経験した明彦氏は、親族に約200億円の株式を残した。相続税を支払うには持ち株を処分するしかないが、市場で売却すれば株価は暴落、かつ大株主としての地位も失う。

その相続対策としてMBOを打ち出したのがベインキャピタルだった。」

「もともとMBOは、少数株主の権利を、大株主が金銭で奪い、収奪するもの。「締め出し」を意味するスクイーズ・アウトと呼ばれるが、ニチイ学館は露骨だった。

公開買付者は、社外取締役のファンドなので中立性に疑義がある。しかも親族は相続税の支払いの後、公開買付による手取金の一部を再投資して大株主の座を保持するのだから自己都合というしかない。」

リム・アドバイザーズ・リミテッドという香港ファンドが途中で登場し、問題点を指摘したそうです。

「リム社は、ニチイ学館の適正価格が公開買付価格の1500円を60%上回る2400円としたうえで、昨年6月、経済産業省が定めた「公正なM&Aの在り方に関する指針」に抵触していると批判した。

具体的には、「指針」が推奨する「マジョリティ・オブ・マイノリティ条件(買収者と利害を持たない少数株主からの過半の指示を得ること)」は設定されておらず「マーケット・チェック(対抗買収者の提案機会の確保)」もなかった

社外取締役が買付者となって、低過ぎる公開買付価格で、公平性を担保することも、「指針」を考慮することもなく、MBOに踏み切った。」

会社側の対応は...

「ニチイ学館は締切を2度、延長のうえ、7月31日、買付価格を1670円に引き上げ、締切を8月17日とした。この価格と非上場化後の再投資という条件を好感した約12%を持つ大株主のエフィッシモが、前述のように応募を決めたことで、成立の条件は整った。」

最後になって、ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)という別の会社も登場し、創業家の一部からも不満の声が上がっているそうです。

また、約25%をもつ創業家の資産管理会社は、公開買付価格より高い価格に基づき、受け皿会社に譲渡されるとのことで、一般株主より有利な条件になっているそうです。

「創業家の資産管理会社で、約25%を持つ明和は、TOBの対象ではなく、TOB完了後、会社売買の形で受け皿会社に譲渡されることになっているが、その価格は1株1670円より高く設定されているという。取引形態が違い「公開買付価格の均一性に反しない」とはいうものの、一般投資家からすれば、「再投資の確約」と合わせ、ダブルスタンダードだろう。」

結局、現行ルールでは、少数株主の利益は十分に守られないようです。

当サイトの関連記事(「公正なM&Aの在り方に関する指針」関連)

日本の株主総会が世界から20年も遅れている訳
企業統治をめぐる「2つの致命的な誤解」とは
(東洋経済)

「1990年代にアメリカのハーバード大学のアンドレイ・シュライファー教授らが展開し、その後コンセンサスとして学会に確立した議論は以下のようなものであった。「コーポレートガバナンスとは、投資家の利益を守ることである。だがこうした利益を経営陣の暴走から守ることも、もちろんあるが、世界的、歴史的に見ると、この問題の重要性は低い。世界でのガバナンスの問題とは、外部少数株主の権利と利益を、議決権を支配している大株主から守ることであり、それがほとんどすべてである」、というものである。」

「学会では、この見方が確立した後、コーポレートガバナンスの議論は、学問的には片付いたこととなり、研究は、世界中の各国で実際にこのような現象が起きていることを実証すること、そして、細かい各国ごとの法律や制度の違いにより、どんなことがおきているかを調べることが中心となった。

この観点では、グーグルの黄金株(創業経営者が議決権を株式数の保有比率を超えて、絶対的な水準で持つこと)などは、ガバナンス的には理論的には大きな問題であるという認識も共通している。グーグルは、いまのところ経営者が企業価値を最大化するように行動しており、一般株主の利益も尊重していることから、理論的には問題であり、将来の潜在的な問題として存在するが、現実としてはいまのところ問題ない、ということになっている。

そして、法律においても、きちんと救済されている。前述のような株主総会で一部の株主の反対にもかかわらず、重要な意思決定がなされた場合には、株主総会で反対した株主の株式については、その意思決定前の株価で買い取り請求を行うことができる、という具合になっている。これはおおむね多くの国(ガバナンスが適正に法律で守られている国)で共通だ。

したがって、株主総会は絶対とは程遠い。むしろ、大株主が少数株主の利益を奪って自分たちのものにする公式のチャンスなのである。だから、それに対して、十分な手当てを法律的に備えておく必要があるのである。

そして、ガバナンスの議論とは、株主同士の利害対立を防止し、企業価値を最大化し、すべての株主が、平等に利益が得られるように担保するシステムの議論なのである。」
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