会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

「ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について」の公表(日本公認会計士協会)

「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」の公表について

日本公認会計士協会は、「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」という文書を、2022年4月7日に公表しました。

「監査人は、ウクライナをめぐる国際情勢が被監査企業の事業活動に及ぼす影響を理解した上で、それによる事業上のリスク等が財務諸表に重要な虚偽表示をもたらす可能性を考慮し、監査意見を表明するための十分かつ適切な監査証拠を入手することが求められる。」

ということで、「2022年3月決算期の監査において、監査人が留意すべきと思われる事項を列挙した」とのことです。(2022年1月期や2月期の監査も進行中のはずですが、対象外なのでしょうか。)

以下のような内容です(項目と重要と思われる箇所の抜粋)。

1.経営者及び監査役等とのコミュニケーション

2.事象の発生を踏まえたリスク評価の修正要否の検討

「今般のウクライナをめぐる国際情勢に関し、被監査企業の事業活動に直接的又は間接的な影響が生じている場合には、監査人は、監査基準委員会報告書300「監査計画」第9項に基づき、監査の基本的な方針及び詳細な監査計画の修正の要否を検討する必要がある。」

関連する地域に被監査企業の拠点がある場合、事業の見直しに基づく拠点の閉鎖等が監査基準委員会報告書 315 第3項(2)の事業上のリスクに該当することが想定される場合がある。」

「日本政府を含め、各国政府は、諸般の措置を実施している。監査人は、これらの措置により被監査企業に関連する産業や経済事象に影響が及ぶ可能性を考慮し、当初のリスク評価について修正が必要となるかどうか検討することを要する。」

「リスク評価への影響が生じる状況として、例えば以下が想定される。

関連する地域に所在する主要な事業拠点、子会社、関連会社において、以下の事項又は事象に対応する必要がある場合

ア.固定資産の減損(連結上ののれんも含む)、税効果会計、棚卸資産の評価、債権の回収可能性、事業撤退の影響の反映等といった会計上の見積り

イ.現地の事業拠点、子会社、関連会社におけるグループ財務諸表作成に必要な財務情報の作成に関する遅延の発生

関連する地域に重要な取引先(原材料の調達先、得意先等)又は投資先がある場合の債権の回収可能性、税効果会計、投融資・保証の評価等の会計上の見積り」

3.会計上の見積りの監査

「今般のウクライナをめぐる国際情勢による被監査企業の営む事業への上記2.に記載したような影響によって、経営者による会計上の見積りの前提となる様々な仮定に影響が生じることが想定される。また、現状においては、事象は帰結しておらず、見積りの不確実性が高まっていると考えられる。監査人は、状況の変化が会計上の見積りのリスク評価に与える影響を考慮し、リスク評価及び立案したリスク対応手続の修正が必要となるかどうか検討することを要する。」

「会計上の見積りへの影響としては、例えば、将来キャッシュ・フロー等の予測に影響する以下の項目(仮定や基礎データ)が挙げられる。

(1) 事業の継続
(2) 契約や取引の履行可能性、サプライチェーンの乱れ
(3) 製品等の今後の需要動向や供給動向
(4) 原材料の価格、燃料価格及び資源価格、食品等の原料価格、輸送運賃価格等の上昇
(5) 天然ガスやその他の資源(鉱物資源等)の供給不足
(6) 為替変動」

4.独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告

「監査上の主要な検討事項の報告は、...今般のウクライナをめぐる国際情勢による影響についても十分な検討が必要である。」

5.グループ監査

「現地子会社等に関連して、十分かつ適切な監査証拠を入手できない状況として、例えば関連する地域において以下のような事態が発生した場合が想定される。

(1) 銀行、顧客等からの確認状の回収が困難になること。
(2) 保有する在庫の実地棚卸の立会が実施不能となること。
(3) 現地子会社等の内部統制の整備、運用評価が完了できないこと(財務諸表監査、内部統制監査)。
(4) 現地子会社等の決算を完了することができないこと。」

6.経営者確認書

「今般のウクライナをめぐる国際情勢が事業に及ぼす影響について、経営者に対し書面による陳述を要請することが考えられる。」

(追加する文言の例が示されています。)

7.その他の記載内容

(今回の文書も、最近協会からよく出されている責任者不明でどういうデュープロセスで作成されたのかもあきらかにされていない謎の文書です(通常の報告書は委員会名や担当役員の名前が明記されている)。ただ、今回は、問い合わせ先として部署名と担当者名が示されています。「業務本部 監査グループ」というところが担当部署のようですが、だれが承認したのでしょう。承認済みの報告書等を参照している部分が多いとはいえ、勝手に監査人を拘束するようなルールを作られても困るのですが)

(協会の人が、ルールに従うとこうすべきはずだという見解を発表すること自体がダメだというのではありませんが、そういうのは機関誌などに個人の見解として掲載すればよいのではないでしょうか。機関誌では、タイムリーに伝わらないというのであれば、協会として機関誌を補完するようなウェブ媒体を持てばよいでしょう。)

当サイトの関連記事(デロイトの解説について)
その2(欧州の会計士団体による文書について)

海外のビッグ4や会計士団体の文書では、後発事象についてもふれています。ウクライナ侵攻以後の決算である、2月決算以降は、後発事象注記だけで済ますわけにはいかず、見積りに反映させる必要があるようです。
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