クラーナハ展-500年後の誘惑
2016年10月15日~2017年1月15日
国立西洋美術館
【参考】《キリストの降誕》
1515-20年頃
ドレスデン美術館
本展の第3章は「時代の相貌-肖像画家としてのクラーナハ」。クラーナハの肖像画作品が並ぶ。
以下、印象に残るクラーナハの肖像画を3点。
1 《ザクセン公女マリア》
1534年
リヨン美術館
本展出品の肖像画で一番注目した作品。パブロ・ピカソも感嘆したという逸話もあるらしい。
この作品には、同時期制作の別バージョンが存在する。
【参考】
《ザクセン公女マリア》
1534年
ヘッセン州立博物館、ダルムシュタット
肖像画によく見かける写実的かつ難を隠した「美化」型。
個の特徴の一部を強調し類型化する「似顔絵」型。
両作品とも、無地を背景にして、「美化」型と「似顔絵」型の2要素のバランスを取りつつクラーナハ流に統合し、ザクセン流の華麗なファッションにより嵩上げすることで、印象的な人物像を造形している。
2 《ジビュレ・フォン・クレーフェ》
1532年
ケムニッツ美術コレクション
部分
ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ寛大公との夫婦対作品。
ジビュレは、1512年生であるから制作当時は20歳頃。
むろさんさんから教えていただいて知ったのだが、彼女が14歳で結婚した時の、クラーナハによる肖像画が存在する。
【参考】
《ザクセン選帝侯国王子ヨハン・フリードリヒの花嫁ジビュレ・フォン・クレーフェ》部分
1526年
ヴァイマール美術館
ヴァイマールの作品は、花婿との対作品。図版で見てもたいへん魅力的な作品である。
健気感が醸し出されている。
この《花嫁》はヴァイマール美術館の一番人気作品であるらしい。
画家の作品自体の魅力、14歳の花嫁というモデルの魅力に、公夫妻・画家ともにヴァイマールが終焉の地となったという地元史観点の魅力が重なって、のことなのだろう。現地でこそ観たい作品である。
一方、本展出品作は、『14歳の初々しかった花嫁も6年たってすっかり貫禄が』という作品。
時の経過とともに、「似顔絵」化が進んだのだろう。おそらく工房作だと思われる。
3 《夫婦の肖像(シュライニッツの夫婦?)》
1526年
58.5×39.5cm
ヴァイマール古典期財団
本作も、夫婦の対作品。
「美化」型の要素大だが、女性の満ち足りているような表情が印象的。
なお、図録によると、本作は、制作当時のオリジナルの額装で保管されているという。額装まで注目しなかったなあ。
あけましておめでとうございます。
コメントありがとうございます。
本記事の記載に際して、クラーナハの出品作以外の女性肖像画を確認したのですが、むろさんが言及されている、
《オイレナウのクリスチアーネ》
1534年
バンベルク市立美術館
《ザクセン公女ジュビレ、エミラ、シドニア》
1535年頃
ウィーン美術史美術館
は、興味深い作品ですね。
特に3公女は、個々の特徴の反映と美化と理想化の3方向でのクラーナハの技が堪能できそうで、ウィーン美術史美術館からあと1点追加来日してくれるとしたら、本作品でお願いしたいです。
本年もよろしくお願いいたします。
これらの女性像の人間関係が気になったのでちょっと調べてみたのですが、上記のマリアはヨハン不変公の2番目の妻の娘ということなので、フリードリヒ寛容公とは異母兄弟?または実の兄弟? 寛容公の妻ジビュレとは小姑という関係になりますね。また、ウィーンで見た3人のザクセン公女の肖像画ジビュラ・エミリア・ジドニアの母がドレスデンの絵のカタリーナですが、この3人はカタリーナとはあまり似ていなくて、クラーナハの理想化された顔なので、この3人の名前の同定は正しくないかもしれません。
こういうことを調べていろいろ想像するのも絵の楽しみ方の一つかと思った次第です。