061:版 (ひじり純子)
ガリ版の鉄筆のあと清々しインクのかすれも趣き深し
062:歴 (ひじり純子)
雲ひとつ無い空放射冷却で寒いよ寒い着信履歴
063:律 (ひじり純子)
時々は調律をして貰わねば私の中の弦の乱れの
064:あんな (ひじり純子)
もし過去に戻れたならばどうしたかあんなこととかこんなこととか
065:均 (ひじり純子)
百均で購いし物とは言えず夫が誉める器であれば
066:瓦 (ひじり純子)
瓦斯燈に火をともす人今はなく二月は逃げる全速力で
067:挫 (ひじり純子)
思いがけず心が捻挫したようなそんな気がする望まぬランチ
068:国歌 (ひじり純子)
ゆっくりと皆立ち上がり口閉じたままの人もいて国歌斉唱
069:枕 (ひじり純子)
オリオンの囁き昴の呟きを聴いてたゆたう腕枕の舟
070:凝 (ひじり純子)
年をとり凝固していくさまざまな痛みと熱を伴ったもの