*** june typhoon tokyo ***

加納エミリ @北参道ストロボカフェ

 
 春らしい淡い彩色を施した装いとバンドセットで祝う1周年。
 
 自己レーベル〈EMIRIKA DISC〉から、3月のシングル「フライデーナイト」に続き、6月にCD第2弾となる2ndシングル「1988」のリリースが決定するなど、2019年に入っても好事家や早耳&ヘヴィリスナーなどからの耳目を集めているオール完全セルフプロデュースの“NEO・エレポップ・ガール”、加納エミリ。彼女のデビュー1周年を祝うライヴ〈加納エミリ1周年記念ショー〉が北参道ストロボカフェにて開催。当初、自身はそれほど集客を見込んでいなかったようだが、蓋を開けてみれば、なかなか早い段階でソールドアウトとなり、開場時刻を30分繰り上げる対応も。ストロボカフェは全着席だと50名ほどで満席となるゆったりソファで寛げる癒し系カフェ風ライヴハウスで、ストレスを感じさせない空間性が魅力だが、この日はソファを極力排してスタンディングスペースを確保。体感距離も近く、フロアも盛況となるなど、旬の演者を観るに相応しいステージとなった。

 従来は自身のラップトップからの音源でライヴを行なう彼女だが、今回はデビュー1周年記念ということもあり、ベースレスのバンドセットという新たな試みにチャレンジ。加納を見出したプロデューサー&プレイヤーの矢舟テツローのキーボードとミア・ナシメント・トリオなどにも参加するManaka(白いパレット / ex. Full House)のドラムを軸に、渡瀬賢吾(roppen / bjons)をゲスト・ギタリストに招いた布陣でバックを構成。加納のソロによるエレクトロニックなサウンド・ベクトルとは異なる音像を、果たしてバンドでどのように形作るのか、大いに興味を持ちながら開演の時を待った。


 先に矢舟とManakaがスタンバイし、ジャムセッション風にフロアを温めるイントロダクションを経て、加納が登場。“3、2、1”のカウントダウンから、オルガン風鍵盤の音色によるハッピーなヴァイブスを押し出した「二人のフィロソフィー」でスタート。ピンクのブラウスに白のワンピーススカートというパステルカラーで装う加納のいで立ちも相まって、春らしい温かい陽光を感じさせる清爽なムードに包まれた。シームレスに続けた「恋愛クレーマー」も肌当たりが明るく柔らかい鍵盤と快活なドラムという春めいた音鳴りで展開したが、コミカルなダンスはそのままゆえ、そのギャップが微笑ましい空気を生んでいく。
  
 カーディガンズ「ラヴフール」マナーなメロディが印象的な「been with you」では、ブルースを意識したイントロをチラリと入れ込むなどポップネスを外さないなかでの遊びを入れて、ラップトップ音源とは異なるバンド・サウンドらしさで楽曲をコーディネート。それが見事にハマったのが、彼女の楽曲のなかでも憂いや陰を感じさせる「Lost Love」と「ハートブレイク」か。テクノ歌謡やユーロビートといった“NEO・エレ・ポップ”というフォーマットで語られることが多い彼女だが、この2曲はメランコリックでメッセージ強度の高い曲だけに、音源以上に生バンドの音が詞世界の描出に一役買っていた。
 この日のトピックの一つは、おそらくほとんどの観客が予想していなかっただろうマドンナ「ライク・ア・ヴァージン」のカヴァー。マドンナの代名詞的な初期のダンスポップを肩肘張らずに歌い、フロアからの合いの手を呼び込みながら、楽しいステージを演出していく。これは1周年記念というお祝い、サプライズ・プレゼント的なものだろう。


 後半は、“加納エミリ”のエレクトロニックなポップ・チューンをより堪能出来る構成へ。ルーズなテクノ歌謡を、軽快でリズミカルなビートを敷きながら、いい意味での脱力感を損なわない演出にまとめた「Lucky」を終えると、ここでギタリストの渡瀬賢吾がステージイン。加納の“ギターをガンガン弾いてもらって”との言葉に苦笑いする渡瀬だったが、「1988」以降、文字通りガンガン鳴らすギターではなく、過不足ないカッティングでグルーヴを生み出しつつ、曲間に小粋なフレーズを組み込んでいく経験の妙で、音に輪郭を刻んでいった。
 
 姉妹シンガー・ユニット“WAY WAVE”と組んだ期間限定ユニット、江ノ島爆走ギャルズの「スルメボーイ」の加納ソロ・ヴァージョンでは、“江ノ島”や“スルメ”のワードもあってか海の家あたりの光景も浮かぶ、渡瀬のギターとManakaのドラムの相性が活きたマージービート感漂うギターポップを。そこからは「Next Town」「ごめんね」と観客が一緒になって振り付けをする人気曲でクライマックスへ。「ごめんね」では矢舟がキーボードから生ピアノへ移り、ギター、生ピアノ、ドラムにコケティッシュなヴォーカルとダンスが映えるという、これまでの加納エミリ像とは異なるサウンドによって、図らずも楽曲自体のキャッチーな性質を浮かび上がらせるという情趣も垣間見えた。

 アンコールを経てのラストは、エスニックな色彩も忍び込ませたようなレトロフューチャーな(オリジナル音源にも参加する)渡瀬のカッティング・ギターがコロコロと跳ねるエレポップ感を創出する「フライデーナイト」。タイトルがまさに“トゥナイト・イズ・ザ・ナイト”とも言い表せる2019年の勢いをつけた楽曲で、心地よい距離感のなかでの愉快な宴の幕を閉ろした。


 当初、バンドセットと耳にした時、頭に浮かんだのは、バンドによるライヴ感が彼女の楽曲とどうフィットするのかということ。演者との相性ももちろんあるが、それ以前にニューウェイヴ歌謡やユーロビート歌謡などと各方面で呼ばれてきたチープで重層的ではない楽曲、ユニークな個性同様にどこか人懐っこくて中毒性を秘める歌唱、その双方との間で生まれる“アンバランス・バランス”だからこその妙味が、バンド・サウンドやアレンジによって削がれることはないかという不安だ。しかしながら、そこは彼女をよく知る矢舟のもと、イメージを損なわずに新しい刺激を与えるアレンジメントを施した甲斐あってか、エレクトロ感が横溢するオリジナル音源に隠れている良質なポップネスを抽出し、そのエキスで再構築したようなアナザー・ヴァージョンに仕立てることに成功。ニューウェイヴやテクノ歌謡などの惹句に反応してきた層以外も食指が動きそうなポップスを披露していた。

 今年は全国流通の初アルバム、12月にはワンマンライヴも決定。それまでにもさまざまなアイディアを有しているとのこと。この1年で急峻な成長曲線を描いたといっても、広く俯瞰で見れば、まだまだ序章に過ぎないのは確か。だが、何かのきっかけでさらに跳ね上がる予兆はそこかしこにあるはずだ。どんな仕掛けでファンの耳目を引き寄せて驚かせ、自身を飛躍させるのか。あれこれ思慮をめぐらしながら、次なる1年への道も注視していきたい。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 二人のフィロソフィー
02 恋愛クレーマー
03 been with you
04 Lost Love
05 ハートブレイク
06 Like A Virgin(Original by Madonna)
07 Lucky
08 1988
09 スルメボーイ(Original by 江ノ島爆走ギャルズ)
10 Next Town(including member introduction)
11 ごめんね
≪ENCORE≫
12 フライデーナイト

<MEMBER>
加納エミリ(vo)

矢舟テツロー(key)
Manaka(ds)
渡瀬賢吾(g)

◇◇◇



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