*** june typhoon tokyo ***

Arrested Development@Billboard Live TOKYO


 ハッピーなヴァイブスで届ける“愛と結束”のメッセージ。

 80年代後半に米・アトランタで結成。1992年のデビュー以来、スピリチュアルなメッセージとオーガニックなサウンドによるヒップホップというユニークなスタイルで活躍。最優秀新人賞ほかグラミー2部門の実績を誇るコンシャス・ヒップホップのパイオニア、アレステッド・ディヴェロップメントが年末のビルボードライブ公演を賑わせた。先の10月26日にグループの精神的支柱として活動を共にしていたババ・オージェが死去するというニュースが飛び込み、彼の姿がないのは残念だが、それでもスピーチを中心にエネルギッシュなパフォーマンスを披露してくれた。

 当初はエリック・ドジィアー(key)が参加予定だったが、ウィリアム・モンゴメリーに変更。左からギターのジェイ・ジェイ・ブギー、ドラムのコーリー・レイモンド、ベース&キーボードのモンゴメリー、右手にMC&シーケンサーのワン・ラヴ、前方の中央にスピーチ、その両脇にラターシャ・ラレイとファリーダが並ぶという布陣。
 マイクスタンドからは赤、黄、黒、緑色の布が垂れていて、ラレイは彩色豊かなブラウスシャツ、ファリーダは黒ビキニにショート丈で網目の白トップスと、ステージ上は色彩でもアフリカをイメージさせる出で立ち。圧倒的な声量と多彩な表情のラレイ、全身の体躯を使ってアフリカの民族舞踊を思わせる激しい動きのダンスを披露するファリーダ、スピーディでグルーヴィなラップを繰り出すスピーチとどこかジェイ・Zを彷彿とさせる土臭くも人懐っこい高速フロウで沸かすワン・ラヴが入れ替わりでステージ中央に陣取ったかと思うと、所狭しとステージをせわしく往来しながら、身体を揺らして歓喜する総立ちのオーディエンスの熱量をさらにヒートアップさせていく。



 彼らの楽曲は人種差別や貧困などの社会問題を多く扱っているが、その一見重そうなテーマとは対照的にステージはどこまでもジョイフルでピースフル。まずは、前述のファリーダによる力感溢れるワイルドなアフリカンダンスでオーディエンスの心を惹きつけると、続いてラレイやスピーチがステージイン。ハイテンションで煽ってギアを一気に上げて、魚が波を掻き分け泳ぐように片腕ずつ交互に前に揺らして振る踊りが印象的な「ギヴ・ア・マン・ア・フィッシュ」をはじめ、“革命”と叫んで右手を突き上げる「レヴォリューション」、「ドーン・オブ・ザ・ドレッズ」「ブラッディ」、ラレイの迫力あるヴォーカルとスピーチとワン・ラヴがところどころでMCをスイッチさせながら魅せる「ベター・デイズ」などを息つく暇なく進めていく。

 中盤でややテンポを落とした「イーズ・マイ・マインド」なども加えていったが、「ピープル・エヴリデイ」をチラッと予告的にかましてフロアのヴォルテージを再上昇させると、プリンス「アルファベット・ストリート」をサンプリングしたことでも知られる彼らのデビュー曲「テネシー」へ。当然のごとく歓声がこだまし、手を挙げ身体を揺らしクラップで一体となるフロア。ラレイのロングトーンやスピーチのジャンプの煽り、コール&レスポンスなどを介してフロア全体に溢れるのは微笑みのグルーヴだ。タイトなビートをバックに女性ヴォーカルと男性MCそれぞれ二人ずつがエネルギッシュに絡みエキサイティングなステージを展開する「レット・ユア・ヴォイス・ビー・ハード」ではシカゴのファミリー・グループ、ファイヴ・ステアステップスの「ウー・チャイルド」のフレーズを盛り込むほか、ボブ・マーリー「ワン・ラヴ」、マーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイン・オン」のフレーズをアクセントにして社会派としての矜持を示し、スピーチの「スピリチュアル・ピープル」も用いながら、あくまでもポジティヴにパッションをほとばしらせ、融点から沸点へと熱気を高めていく。



 再度「テネシー」をリプライズ的に導入した後、「フィッシン・4・レリジョン」や、ヒップホップ・クラシックスとして名高いハウス・オブ・ペイン「ジャンプ・アラウンド」などのキラー・トラックでフロアがジャンプの波で揺れると、スティーリー・ダン「ペグ」をベースにスライ&ザ・ファミリー・ストーン「シング・ア・シンプル・ソング」を拝借した92年の代表曲の一つ「ミスター・ウェンデル」、「ママズ・オールウェイズ・オン・ステージ」などを経て、こちらもスライ&ザ・ファミリー・ストーン「エヴリデイ・ピープル」とボブ・ジェイムス「タッパン・ジー」を借りた「ピープル・エヴリデイ」へ。オノマトペ的なスキャットとコール&レスポンスによるイントロでさらなる恍惚のグルーヴを提供すると、この日幾度も波打った歓声の嵐がまたも到来。詞の内容や彼らが話す言葉が解からないままのオーディエンスが少なくないと思われるなかで、楽しげにスピーチたちが繰り出すオノマトペ的なスキャットによるコール&レスポンスが、心地良い疲労感とともに極楽のクライマックスへと導いていく。

 アンコールはなかったが、何せ開演からここまで曲間ほぼなしのノンストップ。注文したフードを食べる暇もない(笑)パーティ・フロア状態でエンディングまで突っ走ったステージに。メンバーも自らが奏でる楽器で、その声で、溢れ出すダンスで、とさまざまな表現で幸せの波動を創り出していった。

 1年を振り返ってみれば、さまざまな災難や不幸も少なくない時代に生きる現代人。だが、年末ばかりは不安や心配事を忘れて新たな年を迎えたい……そんな気持ちを汲み取るかのようなアレステッド・ディヴェロップメントのパフォーマンスは、この日本の年の瀬の時にも適ったステージとなった。



 フロントポジションに多く立った3人はそれぞれ個性的なヘアスタイルやファッションでオーディエンスの目をも楽しませてくれた。スピーチは“Hot Buttered Soul”と白字で書かれた黒のパーカー姿。そう、1969年にアイザック・ヘイズが発表した2ndアルバムのタイトルで、収録曲のなかには「ウォーク・オン・バイ」や「ハイパーボリクシラビクセケダリミスティック」というサンプリングの大定番曲が含まれる名盤の名を刻んだパーカーで躍動。こんなところにもスピーチの洒落っ気や心意気を表わしているといったら邪推が過ぎるか。
 
 とはいえ、ラレイのジーンズの腿あたりに書かれてあったそれぞれ右太ももに“LOVE”、左太ももに“UNITY”の文字を見ると、邪推とは言えないのではという気も起きてしまう。さまざまな問題を抱える現代の地球人、さまざまな困難を解決するには容易でないことも知った上で、やはり根源となるのは“愛”と団結”なのだということを、人種、言語、国境を越えた日本でも示しているのではないかと。コンシャスな音楽をジョイフルにエネルギッシュに奏でることによって生まれる一体感やフロア一杯に広がる鈴なりの微笑みに触れるにつけ、そんなメッセージを彼らは発信しているのではないかという気がしてならない。文字通りのハッピー・ヴァイブス、ハッピー・エンディングを実感した、1年の締め括りとして最高の“幕切れ”となった会心のショーだ。


◇◇◇

<SET LIST> ※ Main performance songs

Give a Man a Fish
Inner City
Revolution
Dawn of the Dreads
I Don't See You at the Club
Better Days
Bloody
Ease My Mind
People Everyday(Prelude)
Tennessee
Fishin' 4 Religion
Let Your Voice Be Heard
Spiritual People(Original by Speech)
Tennessee(Reprise)
 include phrase of“Excursions”(Original by A Tribe Called Quest)
 include phrase of“Jump”(Original by Kris Kross)
 include phrase of“Jump Around”(Original by House of Pain)
Mr. Wendal
Mama's Always on Stage
People Everyday


<MEMBER>
Speech(Todd Thomas)(vo,MC)
1 Love(Spencer Love)(vo,MC)
LaTasha LaRae(LaTasha Conway)(vo)
JJ Boogie(Jason Reichert)(g)
Fareedah(Freedah Aleem)(dancer,vo)
William Montgomery(b,key)
Corey Raymond(ds)


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