*** june typhoon tokyo ***

JOHN LEGEND@AX

■ ジョン・レジェンド@AX
 
John_legend
 
 ジョンの男意気。

 ジョン・レジェンドの渋谷AXでのワン・ナイト・ショウを観賞。単独公演は2009年4月の同じくAXでの公演以来か(その時の記事はこちら)。バック・バンドは後方高台左側にキーボード、後方高台右側にドラム、前方左に女性コーラス3人、その右隣にギター、前方右にベースといった配置。中央にはピアノ。2009年の公演にいたジョンの弟のコーラス隊参加はなし。ホーン・セクションも今回はなし。

 19時15分、暗転して歓声が沸き起こると、(ステージ右端から後方を通り)中央からサングラス姿のジョンが登場。ほぼ直立した感じで骨太にアデルのカヴァー「ローリング・イン・ザ・ディープ」を焚きつけるように歌ってショウが開幕した。
 
 2010年、ザ・ルーツとコラボしたソウル・カヴァー・アルバム『ウェイク・アップ!』をリリースしての来日とあって、その盤からの楽曲が中心かと思われたが、蓋を開けてみれば、同アルバムからは「ハード・タイムズ」「ウェイク・アップ・エヴリバディ」の2曲のみ。彼が得意とする楽曲構成による、現在のジョン・レジェンド・ベスト的な展開でラストまで突き進む。
 冒頭の“ハーァラァーラァーラーァァ”のコーラス・フレーズで一気に心を鷲掴みにする「ユースト・トゥ・ラヴ・ユー」、ニヤリと魅惑な笑顔を振り撒きながらフロアから観客女性一人をステージへ上げて共にダンスしながら歌う「スロウ・ダンス」(この時ステージに上がったユミコさんは、ダンスというよりジョンに抱きついてばかりの感があったが…笑)、人差し指を天高く突き上げての「ナンバー・ワン」、終盤でのカヴァー・メドレーを経て「ソー・ハイ」から本編ラストのピアノの上に立ち上がっての「グリーン・ライト」……といった流れは、前回公演とほぼ同様。
 
 だが、遊び心もある彼のこと、ちょいちょいコラボやカヴァーを挟み込んで、聴き飽きないような工夫がなされている。マイケル・ジャクソン「リメンバー・ザ・タイム」のフックを織り込みながらの「イッツ・オーヴァー」や、カニエ・ウェストとのコラボ「ブレイム・ゲーム」、彼が好むプリンスのカヴァーを入れたメドレーなど、見事な手練だ。

 東日本大震災の影響もあって来日も危ぶまれたが、その影響を微塵も感じさせないパフォーマンス。そして、過度にそれを意識させないステージングが素晴らしかった。コンシャスにそれを訴えるアーティストもいるし、それもタイムリーという意味では悪くないが、ジョンは彼の美学に基づいて、自分のやるべきパフォーマンスをした。それだけだった。それが素晴らしい。MCも「サポートしてくれてありがとう。僕もサポートするよ」くらいで、後は間髪を入れずに、次々と楽曲が連なっていく。ピアノを弾きながら歌ったと思えば、マイクスタンドに立ち、左右に移動しながら、観客と共に熱を帯びていく。汗を迸らせ、時に声を掠らせながら感情に訴えかけるヴォーカルに、観客はみなその一挙手一投足に釘付けになった。

 考えてみれば、そもそも彼の楽曲には(直接的な詞の意味とは異なっても)既に強いメッセージが込められているから、取り立てて意識的なMCは不要なのかもしれない。“さあ、高く上がっていこう”と促す「レッツ・ゲット・リフテッド」、“外が寒くたって心配ない、心が温かいんだから。大丈夫”と諭す「リフュージ」(あえて震災を意識しての選曲をしていたならば、この曲がそれに当たるのかもしれない)、“変わってやるよ、変われるんだ”と強く発奮させる「アイ・キャン・チェンジ」、そしてアンコールで単独のピアノ弾き語りで披露された“ゆっくりと時間をかけてやっていこう”と優しく背中を押してくれるような「オーディナリー・ピープル」……。男の色気をたぎらせながら、歌とその歌を待つものに対して真摯に実直に熱を込めて歌い上げる姿に、心響かないものはいないだろう。

 震災後、という特別な感情を除いていえば、バンド・サウンドに関してはやや満足に欠けるところもあった。タイト過ぎるくらいのドラムは賛否ありそうだし、途中でハウリングなども数回あり、ジョンのヴォーカルの妨げになったかもしれない。新作がザ・ルーツの演奏だったため、そちらを期待していた観客にとっては、そのギャップに違和感もあっただろう。とはいえ、肉感的でありながらも繊細で優しく心を撫でるような肌あたりも見せるなど、胸懐に響く情動的なステージには、自然と手を叩き、声をあげ、五感を振るわせる瞬間が必ずあったはずだ。

 セットは効果的に光るライトが数本立つだけのシンプルなものであったが、バックスクリーンは当初は夕焼けを思わせる赤みがかった色合いから、次第にその濃度を増していき、青から深みのある濃紺、漆黒へと移行。その後の「ソー・ハイ」アウトロの次曲へのフリと思わせるコーラス・フレーズのリフレインから「グリーン・ライト」への流れでは、タイトル同様夜明けを迎えたような鮮やかな碧色へと転換する……といった演出は、暗闇へ落ちる時間があっても、必ずみんなを照らし出す明るい光“グリーン・ライト”がやってくるんだとも言いたげで、視覚的なメッセージとも感じられずにはいられなかった。

 個人的には新作『ウェイク・アップ!』のダニー・ハサウェイ作「リトル・ゲットー・ボーイ」の“Everything's got to get better”(何もかもがもっと良くならなきゃならないはずさ)のフレーズを聴きたかったのもあるが、それはもしかしたら、自分ではそうは思っていなくても無意識のうちにこの震災ムードの流れに埋没してしまっている証拠なのかもしれない。そう、そんなに苦境に感じなくてもいいのだ。時は平等に進む。そして、与えられた時間に日々やるべきことをこなしていく……それでいいのかもしれない。心に余裕がなければ、広い視野も生まれないのだ。

 セクシーでソウルフルな夜を堪能し、また明日へ生きる活力が湧いてきた。そう、これがジョンの意図する一番のところなのかもしれない。“Wake Up Everybody”(みんな、目を覚ませ)と。いみじくも「ウェイク・アップ・エヴリバディ」にはこういったフレーズがある。

Wake up everybody
No more sleepin in bed
No more backward thinkin
Time for thinkin ahead

みんな、目を覚ませ
ベッドで寝ている場合じゃない
悲観的な考えはもういらない
今こそ前向きに進む時なんだ


 そう、活力を自身に、日本に、世界中の人々に行き渡らせるためには、前向きに進むべき時なんだ、と。意義ある時間を与えてくれたジョンに、彼の男気に感謝したい。そんな一夜だった。そして、ジョンには、“東京は、日本は悲惨に満ちてるばかりじゃなくて、今も輝ける未来に期待して生きる人たちで溢れている”と世界へ伝えて欲しいと願うばかりだ。



◇◇◇

<SET LIST>

01 Rolling in the Deep(Original by Adele feat. John Legend)
02 Hard Times(*)
03 Used to Love U
04 Alright
05 It's Over~Including Phrase“Remember the Time”
06 Let's Get Lifted
07 Blame Game(Original by Kanye West feat. John Legend)
08 Refuge (When It's Cold Outside)
09 Wake Up Everybody(*)
10 Slow Dance
11 P.D.A.(We Just Don't Care)
12 Number One
13 Save Room
14 Dreams
15 Good Morning
16 I Can Change
17 Everybody Knows(Stool)
18 This Time~I Love, You Love
19 Love(Original by John Lennon)~Adore(Original by Prince)~So High
20 Green Light
≪ENCORE≫
21 Ordinary People(Acoustic Piano Ver.)
22 Stay With You

(*):Song from album『WAKE UP!』
 
◇◇◇
 
John Legend - Ordinary People
 

 “Take it slow…”のコール&レスポンスは、ジョンと観客が一体となった魅惑の瞬間の一つだった。
 
 

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