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*** june typhoon tokyo ***

KEM@BLUENOTE TOKYO

■ ケム@ブルーノート東京

Kem_01
 
 デトロイト出身のR&Bシンガー、ケム(KEM)の初となる来日公演をブルーノート東京で観賞してきた。ケムは日本ではコアなR&B好事家には知られているようだが、一般的な知名度はあまりない。2001年にインディ・デビュー後、2003年にモータウンから『Kemistry』でメジャー・デビュー。2005年には2nd『Album II』からの「I Can't Stop Loving You」が大ヒットし、2008年『Album III: Intimacy』は全米チャート初登場2位を記録した。これら3作はすべてゴールド・ディスクで、最近昨年10月には初のクリスマス・アルバム『What Christmas Means』もリリース。この経歴からも本国アメリカでの人気のほどをうかがえるだろう。

 ただし、スターとなるまでにはかなりの紆余曲折があった。中流家庭に育ちながらもドラッグに溺れて、中毒からホームレス生活を余儀なくされることに。だが、そこから音楽に助けられ、人気トップ・シンガーにまで上り詰めたのだ。昨年夏には地元デトロイトで5万人を集客するコンサートを開催しているが、これも自身が経験したホームレス支援のためのチャリティ・コンサートだ。
 これだけのトピックと人気があるのに何故か日本ではあまり知られていないという、エアポケット的な状況は不思議で仕方ないが、5万人の集客力のあるトップ・シンガー(日本でいえば……ジャンルは違うがミスチルやB'z、SMAPや嵐あたりが限られたキャパの箱で間近で観られるってこと!)が数メートルの近距離で直視出来る興奮を抑えつつ、夜の青山へと向かった。

 バンド・メンバーともども、みなシックな洋装。スーツジャケットをシックに着こなし、さりげないシャレっ気もアクセント。そのいでたちはまさにダンディと形容するのに相応しい。左にキーボードのブライアン・オニール、生ピアノを挟んで、中央やや右寄りにベースのアル・ターナー、右端にギターのランディ・ボウランド、アルとランディの後ろにドラムのロン・オーティス。その誰もが自然体で洒落たナイス・ガイだ。ロンは黒系スーツに白シャツでドラムを叩くが、まったくけれん味がない。そこがまたクールなのだ。

 ケムのスタイルは圧倒的に聴かせる訳でもなく、大々的に観客を盛り上げる訳でもない。ネオ・ソウル~ジャズあたりのスムーズなソウル・ミュージックで、余計な“力み”を持たずに、音楽に身を委ねるという熱だけで、空間を温めていく。ミディアム・テンポが多くを占めるが、退屈はなく、知らぬ間に彼に注視しているのは、やはり独特のヴォーカルかもしれない。うまく表現出来ないのだが、人間の感覚という感覚、たとえば、五感という“肌質”に対しての透過性が優れているとでも言おうか。なぜだかスッと耳や身体に馴染んでいく。ソウルだが漆黒とまではいかず、そこはネオ・ソウル的な現代的なキャッチーさもあるかもしれない。色でたとえるなら、琥珀。派手な色目ではないが、上品な艶やかさで魅了する琥珀のヴォーカルが観客の心へとピュアに訴えかける。

Kem_02 音楽は幸せにしてくれるもの、ということをまさに体験してきた彼ゆえ、ファンにも楽しみを導く。「シェア・マイ・ライフ」では、“音楽を、愛を、みなで共有していこう”と語りかけ、「ファインド・ユア・アウェイ」ではコーラス・パートのフレーズ“Back In My Life”を、女性、男性交互にコール&レスポンス。客席にこの日が誕生日だという男性(とその相手)を見つけると、歌の途中で客席へ降りていき、その男性へマイクを向けて即席掛け合いデュエットも。ステージ上でのケムはバンド・メンバーとも意気投合していて、演奏中にもアイコンタクト、茶目っ気あるやりとりを見せてくれる。観ている側も微笑ましくなり、それでいてまたバンドの演奏が大仰でなく巧みだから、ノリや空気も素晴らしいものとなっていく。

 代表曲ともいえる「アイ・キャント・ストップ・ラヴィング・ユー」では喝采を受けての演奏となったが、その直前には自身の人生を語るところも。“22年前はドラッグに手を染め道を外れてホームレスになった。それからの人生も苦難が続いたが、それは恥とは思ってない。紆余曲折、かなり遠回りしたけど、そうして得た経験が、生きるための教訓になっているんだ。それを糧にして生きていけば、きっと夢や希望は叶うはずなんだ。そう信じれば、きっと出来るんだよ”……“きっと出来るんだよ”というのは実際は“you can make it”と言っていた。その“you can make it”を観客のあちこちに指差しながら繰り返し語りかけている姿が、実に印象的だった。エリック・ベネイはセクシーな歌唱で愛を伝道していくが、ケムは自身の経験を元に愛を伝道していく。飾り気なく、実に素朴でシンプルだけれど、ジワジワと心を温かくしてくれる。そのシンプルなスタイルが、前述のコンサートに5万もの人を集める力となっているのだろう。シンプルなだけにストレートに相手の心へと響く。ケムの音楽にはそういう魅力が常に満ちている。

 アンコールでは2曲を披露。ラストは、チャールズ・ブラウンの1948年のヒットとして知られるクリスマス・ソング「メリー・クリスマス・ベイビー」を。季節遅れ(あるいはかなり早すぎる?)の選曲にちょっと苦笑いしながらも、最後まで“メリー・クリスマス”を観客へ語りかけてくれた。これもまた実にハートウォームにさせるパフォーマンスだった。
 これが本当のクリスマス公演だったら、観客の興奮度はどうなるのだろう? そう、おそらく、この日ケムのライヴを体験した人はそう思ったはずだ。そして、今年の冬は……そう考えた人も少なくないのではないか。日本での知名度の低さから多少客入りの心配もしていたのだが、一部指定席以外はほとんど空席がない状態。聞こえてくる声からすると、反応も上々。これをきっかけに日本でケムの良さに気付く人が多くなってくれると嬉しい。そう思えた金曜の夜だった。

 終了後はサイン会も。自分は都合で参加出来なかったのが心残り。次回こそは、直に対面したいものだ。
 
◇◇◇

<SET LIST>
01 Golden Days(*3)
02 Brotha Man(*1)
03 True Love(*2)
04 I'm Missing Your Love(*1)
05 Why Should You Stay(*3)
06 Share My Life(*3)
07 Find Your Way(Back In My Life)(*2)
08 I Can't Stop Loving You(*2)
09 Inside(*1)
10 Love Calls(*1)
≪ENCORE≫
11 Matter of Time(*1)
12 Merry Christmas Baby(also knows as Charles Brown's Hits of 1948)(*4)

(*1):Song from Album『Kemistory』
(*2):Song from Album『Album II』
(*3):Song from Album『Album III: Intimacy』
(*4):Song from Album『What Christmas Means』


<MEMBER>
KEM(vo)
Brian O'neal(key)
Randy Bowland(g)
Al Turner(b)
Ron Otis(ds)
 
◇◇◇

KEM - I Can't Stop Loving You

代表曲「アイ・キャント・ストップ・ラヴィング・ユー」。
アルバムはすべて輸入盤のみですが、いつしか国内盤もリリースされるようになるといいのですが。
時間のスピードを緩めたい時、じっくり家で浸りたい時にオススメです。


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