走り続けて逆転勝利を掴み取り、アウェイ浦和戦の借りを返す。
ミッドウィークに行なわれた天皇杯・大分戦から中2日のFC東京と、クラブワールドカップから帰国し、リーグ戦としては6月初めの第19節・横浜FC戦以来となる浦和という対照的なインターバルを経て迎えた両者の一戦は、ホームのFC東京が劇的な逆転で浦和を降し、前回対戦の借りを返した形となった。
FC東京は浦和からのレンタル移籍の長倉が契約上出場不可も含め、天皇杯からはGKキム・スンギュ以外先発を変更。SBは左に室屋、右に長友、ウィングは左に俵積田、右に遠藤、前線はマルセロ・ヒアンと佐藤恵允を配した布陣に。一方、浦和は千葉時代にJ2得点王となり、ベルギーのシントトロイデンから完全移籍した小森飛絢が加入後初出場し、1トップに抜擢。2列目にマテウス・サヴィオ、古巣対戦となる渡邊凌磨、金子の3枚、ボランチにサミュエル・グスタフソンと安居、CBにはマリウス・ホイブラーテンとダニーロ・ボザを配した。
FC東京は序盤、6分にアレクサンダー・ショルツの持ち上がりから右サイドへ展開すると、長友が切り返してからのクロスを遠藤がヘディングで軌道を変えてゴールネットを揺らし、幸先よく先制に成功。だが、15分に浦和は左サイドからの金子がクロス。室屋が中途半端にクリアしたこぼれ球を俵積田が持ち運ぼうとしたところで安居がブロックしてボールを奪い、すぐさま右脚を振り抜く。外から巻いたグラウンダーのシュートがゴール右隅へ吸い込まれて、浦和が同点に追いついた。すると、浦和は20分に中央からマテウス・サヴィオがやや左へスルーパスを送ると、抜け出した渡邊が右脚でニアサイドにシュートを打ち抜き、浦和が2点目を挙げる。渡邊が抜け出した際にアレクサンダー・ショルツを引っかけて倒してしまうが、ファールの判定は下らず。5分間で一気に逆転に成功してみせた。
FC東京も31分に遠藤のスルーパスからマルセロ・ヒアンがGK西川と1対1となるも、ループ気味に浮かせたシュートは左枠外へ。37分に高のスルーパスから再び決定機を迎えるが、マルセロ・ヒアンのシュートはまたしても枠外。アディショナルタイムに突入した際に、右サイドで渡邊からボールを奪った橋本がゴール前へクロスを送ると、マルセロ・ヒアンがヘディングでネットを揺らし、三度目の正直と思わせたが、VARが介入し、橋本がファウルと判定されてノーゴール。浦和の1点リードで前半を終えた。
従来のFC東京であれば、失点した後にガタガタと崩れて、特に精神的にやられてしまうことが少なくなかったが、2失点はしていたものの、攻める姿勢を失っていなかった。俵積田が自陣から左サイドをドリブルで持ち上がり、すがる浦和・DF石原を置き去りにしてクロスを上げてゴール前へ攻め込んだり、遠藤の負傷交代でピッチに送られた安斎が長友からのクロスをオーヴァーヘッドで狙うなど、得点の匂いが漂う。その流れが67分に結実し、右サイドからの長友のクロスをペナルティエリア中央でマルセロ・ヒアンが収めると、ダニーロ・ボザを背負いながら反転して左脚でシュート。これが石原に足に当たって軌道が変わると、GK西川の頭上を弧を描くようにゴールへ吸い込まれ、FC東京が同点に追いつく。
流れを変えたい浦和は、長沼を荻原に、金子を関根にスイッチ。一方、逆転へさらにギアを上げたいFC東京は、佐藤恵允を仲川に、俵積田を野澤零温に代えて、浦和陣内へ攻め込んでいく。次第にボールを持てなくなった浦和は、84分に安居を松本に交代させ、フレッシュな選手でボールを動かしたかったが、なかなか前半のようなペースは握れない。FC東京は86分に高を小泉、マルセロ・ヒアンを山下に代えて、勝ち点3を奪うための1点を掴みにいく。
その心意気とスタジアムがもたらす声援の波が、劇的なストーリーを生み出しそうな予兆に感じられた88分、ヴォルテージがさらに上がるFC東京サポーター前でFC東京がCKを獲得。安斎のCKを山下が競って、こぼれたところを野澤零温が枠内を意識してシュートすると、渡邊の頭に当たり、浮き球となってゴール前へ。GK西川が飛び出したゴールマウスには松尾とダニーロ・ボザがカヴァーしていたが、そこへ仲川もジャンプ。仲川に当たったボールは、ゴールライン前まで戻ってきたGK西川とDF陣との交錯もあって、ゴールラインを通過。綺麗なゴールではないが、執念ともいえる押し込みで、FC東京が逆転に成功した。
とはいえ、アディショナルタイムは8分と長く、その間にVARチェックなどもあってさらに時間が足されるなか、浦和もゴール前へのクロスのこぼれ球に荻原が反応してシュートを放つもバーに弾かれ、同点の好機を逸してしまう。命拾いをしたFC東京は、最後まで惜しみなく走り、身体を張ってゴールを守り抜いて、タイムアップの笛を聴いた。残留圏から脱け出すための大きな勝ち点3を奪い取り、歓喜のエンディングを迎えることとなった。
長倉の不在で、特に攻撃面が不安視されたが、絶好機を3、4回逸したマルセロ・ヒアンが(幻のヘディングゴールを含めて)最終的にネットを揺らす結果を出したことは大きい。ただ、シュートの精度以上に課題もあって、前方へのプレスは怠らないが、そのプレスの後の帰陣(プレスバック)がやや遅いので、どうしても味方との距離が出てしまう。今回は献身的に動き回る佐藤恵允が2トップのパートナーだったゆえ、その隙間をそれなりに埋めることが出来ていたが、他の組み合わせならどうか。佐藤恵允がその隙間を埋めるために前へ移り、そこへボランチの橋本が入り、高が最終ライン付近に降りてくると、どうしても中盤にスペースが生まれ、相手にそこを突かれてしまう場面も散見された。そのあたりを改善しないと、マルセロ・ヒアンへのアバウトなボールを供給して個で打開する“だけ”になってしまう。その意味では、最近長倉と良いコンビネーションを見せている仲川は、しっかりプレスバックをしてピンチを防ぎ、良い距離感を保てている。
また、浦和相手に逆転勝ちという成功体験が出来たことは、今後にとって大きなプラスになるが、それでも複数失点した事実は受け止めなければならない。6月下旬の横浜FM戦は0点に抑えたが、リーグ戦ではそこから無失点がないままだ。今季は24試合終えて、クリーンシートはわずか5試合(開幕戦のアウェイ横浜FC戦、ホーム湘南戦、国立でのG大阪戦、ホーム神戸戦、アウェイ横浜FM戦)しかない。この試合では守備時の最重要課題の一つのクロスからの失点はなかったが、1失点目は安居のシュートがスーパーだったとはいえ、自陣でやや不用意な形でボールを奪われたこともあり、自陣ゴールに近い時の対応として修正をしていかなければならない。2失点目はアレクサンダー・ショルツが渡邊と接触して倒れて対応が遅れたことと、GKキム・スンギュのニアをぶち抜いた渡邊のシュートが見事だったゆえ、致し方ない部分もあるが、1失点目からわずか5分で逆転される“失点癖”は引き続きの課題だ。
しかしながら、従来なら失点時にガクッと落胆し、反撃へ向かう意識を自ら削いでしまうことも少なくなかったが、粘り強く戦い、走ることを怠らなかったことで、逆転へと繋げられたことは、精神面で大きな成長となったはずだ。もちろん、これを継続出来るかがFC東京が上位へ定着することの重要な課題の一つでもあるが、それをクオリティの高いクラブワールドカップでの経験を積んだ浦和のリーグ復帰初戦に出せたことは、1勝以上の価値があるとみていい。特に夏の暑さもありながら、走行距離、スプリントともに上位の長友、室屋の両SBをはじめ、中央で強固な守りとビルドアップに貢献した森重とアレクサンダー・ショルツのCB陣のベテランDF陣の奮起がチームとしての強度を高めたといえるだろう。
そのほか先制点のほか、前線に絶好機となるスルーパスを出した遠藤は、右ウィングとしての可能性を見せたし、安居のゴールの起点となってしまったプレーはあったが、成功せずともチャレンジを怠らず、果敢にゴール前へドリブル突破を試みた俵積田、アクシデントで退いた遠藤に代わって入り、積極的なランニングとあわやスーパーゴールというオーヴァーヘッドシュートも見せた安斎など、それぞれに良さも出た一戦となった。
次節は、8月6日の天皇杯・C大阪戦を経て、中3日で上位の鹿島との対戦と、3週間ほど期間が空くことになる。今日の浦和のように、インターバル明けの初戦は苦しむ印象が強いFC東京だけに、その間にコンディションのほか、改善と精度の向上をどれだけ高められるかが肝要になってくる。まずは残留圏から一早く抜け出し、トップハーフへと近づくために、チームの底上げを徹底したい。
◇◇◇
明治安田J1リーグ 第24節
2025年7月19日(土)19:03KO
味の素スタジアム
入場者数: 35,687人
天候:晴 / 気温:28.8℃ / 湿度:46%
主審:御厨貴文
副審:淺田武士、塚田智宏
第4の審判員:吉田哲朗
VAR:小屋幸栄
AVAR:道山悟至
FC東京 3(1-2 / 2-0)2 浦 和
【得点】
(東):遠藤渓太(6分)、マルセロ・ヒアン(67分)、仲川輝人(88分)
(浦):安居海渡(15分)、渡邊凌磨(20分)
〈試合経過〉
06分 得点 東京 遠藤渓太
15分 得点 浦和 安居海渡
20分 得点 浦和 渡邊凌磨
58分 交代 東京 遠藤渓太 → 安斎颯馬
62分 交代 浦和 マテウス・サヴィオ → チアゴ・サンタナ / 小森飛絢 → 松尾佑介
67分 得点 東京 マルセロ・ヒアン
73分 交代 浦和 長沼洋一 → 荻原拓也 / 金子拓郎 → 関根貴大
75分 交代 東京 佐藤恵允 → 仲川輝人 / 俵積田晃太 → 野澤零温
80分 警告 浦和 ダニーロ・ボザ
84分 交代 浦和 安居海渡 → 松本泰志
86分 交代 東京 高 宇洋 → 小泉 慶 / マルセロ・ヒアン → 山下敬大
88分 得点 東京 仲川輝人
90+2分 警告 東京 室屋 成
90+4分 警告 東京 アレクサンダー・ショルツ
◇◇◇
【FC東京メンバー】
〈スターティングメンバー〉
GK 81 キム・スンギュ
DF 02 室屋 成
DF 03 森重真人
DF 05 長友佑都
DF 24 アレクサンダー・ショルツ
MF 08 高 宇洋
MF 18 橋本拳人
MF 22 遠藤渓太
MF 33 俵積田晃太
FW 16 佐藤恵允
FW 19 マルセロ・ヒアン
〈控えメンバー〉
GK 31 小林将天
DF 30 岡 哲平
DF 32 土肥幹太
DF 99 白井康介
MF 37 小泉 慶
MF 07 安斎颯馬
FW 14 山下敬大
FW 28 野澤零温
FW 39 仲川輝人
〈監督〉
松橋力蔵
◇◇◇
【FC東京 2025シーズン 試合日程】
◇2025明治安田J1リーグ
第01節 02月15日(土)14:00〇FC東京 1-0 横浜FC(A・ニッパツ)
第02節 02月22日(土)15:00✕FC東京 0-1 町 田(H・味スタ)
第03節 02月26日(水)19:00〇FC東京 3-1 名古屋(H・味スタ)
第04節 03月01日(土)14:00✕FC東京 0-2 鹿 島(A・カシマ)
第05節 03月08日(土)16:00△FC東京 0-0 湘 南(H・味スタ)
第06節 03月15日(土)14:00✕FC東京 0-1 福 岡(A・ベススタ)
第07節 03月29日(土)17:00✕FC東京 0-3 川 崎(H・味スタ)
第08節 04月02日(水)19:00△FC東京 2-2 東京V(A・味スタ)
第09節 04月06日(日)13:00✕FC東京 0-1 岡 山(A・JFEス)
第10節 04月11日(金)19:00△FC東京 1-1 柏 (H・国 立)
第11節 04月20日(日)15:00△FC東京 1-1 C大阪(A・ヨドコウ)
第12節 04月25日(金)19:30〇FC東京 3-0 G大阪(H・国 立)
第13節 04月29日(火)13:05✕FC東京 0-2 清 水(H・味スタ)
第14節 05月03日(土)14:00〇FC東京 3-2 新 潟(A・デンカS)
第16節 05月10日(土)15:00〇FC東京 1-0 神 戸(H・味スタ)
第17節 05月17日(土)16:00✕FC東京 2-3 浦 和(A・埼 玉)
第18節 05月25日(日)15:00✕FC東京 0-3 広 島(H・国 立)
第19節 05月31日(土)19:00✕FC東京 0-3 京 都(A・サンガS)
第20節 06月14日(土)19:00△FC東京 2-2 C大阪(H・味スタ)
第21節 06月22日(日)18:30✕FC東京 0-2 G大阪(A・パナスタ)
第15節 06月25日(水)19:30〇FC東京 3-0 横浜FM(A・日産ス)※1
第22節 06月28日(土)19:00〇FC東京 2-1 横浜FC(H・味スタ)
第23節 07月05日(土)19:00✕FC東京 0-1 柏 (A・三協F柏)
第24節 07月19日(土)19:00〇FC東京 3-2 浦 和(H・味スタ)
第25節 08月10日(日)19:00 FC東京 ✕ 鹿 島(H・味スタ)
第26節 08月16日(土)19:00 FC東京 ✕ 湘 南(A・レモンS)
第27節 08月24日(日)19:00 FC東京 ✕ 京 都(H・味スタ)
第28節 08月31日(日)19:00 FC東京 ✕ 名古屋(A・豊田ス)
第29節 09月15日(月)19:00 FC東京 ✕ 東京V(H・味スタ)
第30節 09月20日(土)19:00 FC東京 ✕ 川 崎(A・U等々力)
第31節 09月23日(火)18:00 FC東京 ✕ 福 岡(H・味スタ)
第32節 09月28日(日)18:00 FC東京 ✕ 横浜FM(H・味スタ)
第33節 10月04日(土)13:00 FC東京 ✕ 清 水(A・アイスタ)
第34節 10月17日(金)・18日(土)00:00 FC東京 ✕ 広 島(A・Eピース)※2
第35節 10月25日(土)14:00 FC東京 ✕ 岡 山(H・味スタ)
第36節 11月09日(日)14:00 FC東京 ✕ 町 田(A・国 立)
第37節 11月30日(日)14:00 FC東京 ✕ 神 戸(A・ノエスタ)
第38節 12月06日(土)14:00 FC東京 ✕ 新 潟(H・味スタ)
※1 横浜FMが「AFCチャンピオンズリーグエリート 2024/25」準々決勝以降進出の際は6月25日(水)19:30に、敗退時は5月6日(火)14:00に開催
※2 広島が「AFCチャンピオンズリーグエリート 2025/26」出場により、8月15日(金)実施予定のACL抽選会(ドロー)後に確定
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